2015年3月20日金曜日

集団遺伝学:英国人集団の微細スケールでの遺伝的構造:nature

以下のような研究をわが「アジア」でも、是非やりましょう。ファイン・スケールでやると、現在の国境を大きく超越しそうで興味深い。東アジアで「いがみ合い」をする理由が消散するかもしれない。意外な日本人のルーツが判明するかもしれない。狭い意味での日本人すら人口学的・遺伝学的に単一ではないことが明らかにされるかもしれない。

















Nature 519, 309–314 (

Article

The fine-scale genetic structure of the British population

 

 

Stephen Leslie,Bruce Winney,Garrett Hellenthal, Abdelhamid Boumertit et al. Walter Bodmer 


ヒト集団間に見られる微細スケールの遺伝的多様性は、歴史上の人口学的事象の痕跡として、また、複雑化する疾患研究において役立つ可能性があるという点で興味深い。我々は、ハプロタイプに基づく統計的手法を用いて、英国全土から慎重に選び出した地理的に多様な被験者2039人の試料から得られた全ゲノム一 塩基多型(SNP)のデータを解析した。その結果、豊富で詳細な遺伝的分化パターンが明らかになり、遺伝的クラスターと地理の著しい一致も確認された。地域の遺伝的分化、およびヨーロッパ各地の6209人と共通の祖先からの分化パターンには、歴史上の人口学的事象を示す明らかなシグナルが認められる。アングロ・サクソン系移住者のイングランド南東部への遺伝的寄与は半分に満たないと推定され、これらの移住者に由来する遺伝物質の保有者がいない地域も複数見いだされた。中石器時代以降、ローマ帝国時代以前に、ヨーロッパ大陸からイングランド南東部へのかなりの移入があったと考えられ、英国の非サクソン系の地方には、1つの一般的な「ケルト系」集団ではなく、遺伝的に分化した複数の亜集団が存在することが明らかになった。 


ハプロタイピングによる遺伝的多様性とサブグループの分布
左上は氷河期:紀元前7500年以前の最初の漂着者のころ
右上は:ローマ帝国支配下の英国:紀元後〜400年くらいまで
左下は:紀元600年頃
右下は:ノルウェイやオランダ・バイキングが侵略した800年ころ。

桂米朝が亡くなる

桂米朝が亡くなった。お歳がお歳だけにいつかこんな日はくるのだが、やはり寂しいです。大往生と報道されているので良かったと思うが、御本人はこれからの日本の落語を考えると死にきれない思いであろう。 

関西の落語で安心して聴いていられるのが米朝であった。この方は意識的に音源を数多く残しているので、ボクみたいに遅れてきた落語ファンにもたくさんの面白い話を教えてくれた。前にも書いたが関西の落語家の演目は関東の落語と若干異なる。枝雀の残したCDシリーズ演目を見てもそうだが、米朝にしかない(少なくとも今時CD屋さんでレンタルできるレベルで)演目というのはかなり多いと思う。「植木屋娘」「親子茶屋」「焼き塩」なんて普通他では聴けないよね。

有名な「地獄八景亡者戯」は何度も聞きたい話ではないが(長いのである!)米朝が復活させた代表的なはなしである。

ボクは忘れていたが(知らなかったのか?)「百年目」も米朝復活はなしなのだとか。ボクはこの「百年目」が大好きなのだが、最初は志ん朝がお気に入りだったのだ。番頭さんも店主もそこはかとなく上品でなくては、この「あそびの演目」は華やぎません。志ん朝うってつけなのは志ん朝の「明け烏」の若旦那がお好きな方ならお分かりであろうが、そんなボクがあるとき米朝の「百年目」を聴いて固まってしまいました。こんな「百年目」があるのか。これはすごい。この噺は志ん朝も素晴らしいが米朝はそれに輪をかけてよいと思ってしまった。



今朝は通勤のとき「算段の平兵衛」を聴きながら哀悼しました。

ボクにとって残っている落語家は「小三治」くらいになってしまった。華のある上手な落語家が育ってきてほしいですな。




急性腹症ガイドライン:雑感

「急性腹症ガイドライン」というのが上梓されている。本編は読んでいないが、記事によるといくつか興味深いことが書いてある。(179ページもあるというのが若干気になる。こんな大冊ガイドラインとしてワークするのだろうか?)
  1. 腹壁圧痛試験Carnett徴候): Carnett徴候 は、患者を仰臥位で両腕を胸にクロスして置かせ、一番強い圧痛点に医師が手を置いたまま頭部を拳上させ、腹部の筋肉を緊張させて判定する。圧痛が不変また は増強した場合は陽性、減弱した場合は陰性とし、陽性の場合は腹腔内病変を除外でき、腹壁痛や心因性腹痛の可能性が高くなる。 


  2. 検査のパートでは、妊婦、小児などに対する被ばくのリスクはどの程度か?というCQに対し、妊娠中の診断用放射線による50~100mGy以下の被曝では胎児奇形や中枢神経障害の発生頻度は上昇しないことを明記。妊娠中であっても、代替検査の有無や利益と危険性を考慮した上で、CTなどの被曝を伴う検査の実施は「許容されると思われると記載された(「日産婦」もそういっているらしい)。


  3. 痛み止めに関する記述も小生には斬新である。最近ブチルスコポラミンではなく抗炎症剤を使う機会がとみに増えてきている小生にとっても納得できるガイドラインである。


  4. ただ小生の病院には解熱鎮痛剤アセトアミノフェン静注液「アセリオ静注液1000mg」というのがない。更にジピロンというのはじつはメチロンなのだ。おじさんはメチロンあまり好きではない。導入どうしますかな??既存薬でも対処できそうだが・・・・悩むな・・こういうときはゆっくり様子を見るにしくはない。




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2015年3月18日水曜日

久しぶりに日本からNEJMイメージ:朝日大学歯学部附属村上記念病院

久しぶりに日本からNEJMイメージが登場である。

朝日大学歯学部附属村上記念病院(岐阜県岐阜市橋本町3丁目23番地)口腔外科のお二人の講師の先生 

足立 誠 先生
本橋 征之 先生

による報告である。唾石症あるがなかなか生々しい写真である。このNEJMイメージのコーナーは写真が全てであり、これは診療医師の心がけ以外の何物でもない。(蛇足ながらAn otherwise healthyが使われているのがうれしい)


N Engl J Med 2015
March 12, 2015
Images in Clinical Medicine

Passage of a Sialolith

Makoto Adachi, D.D.S., Ph.D., and  Masayuki Motohashi, D.D.S., Ph.D.










An otherwise healthy 77-year-old woman was referred to our clinic with a 6-month history of dull pain on the right side of the tongue. Intraoral examination revealed a normal tongue. However, there was a visible sialolith emerging from Wharton's duct, with marked redness and swelling of the right sublingual caruncle (Panel A). The sialolith was easily removed with the use of tweezers, with a subsequent discharge of pus and normal saliva. The calcified stone measured approximately 1.6 cm in length (Panel B). At follow-up 1 week later, the patient was doing well, with normal salivary flow and without any residual tongue pain. 

Asahi University Murakami Memorial Hospital, Gifu, Japan 





2015年3月12日木曜日

哀愁のピロリ陽性じいさん・・せつなすぎて

小生の外来には毎年多くのピロリ除菌患者さんがやってくる。ピロリ除菌の目的とは(1)慢性の再発性胃十二指腸潰瘍の治療 (2)急性のピロリ胃炎(多くはAGMLあるいは鳥肌胃炎)の治療、そして (3)慢性萎縮性胃炎の進行を食い止め胃癌発癌を予防することである。

(1)はだんだん減ってきたような気がする。かつてのように宿痾としかいいようがない「胃十二指腸潰瘍の再燃」は最近あまり見なくなった。(2)は年に何人か見る。拾い食いでもしたのかしらんと意地悪な見方をしてしまうが、これも随分昔は医原病—すなわちカメラの消毒不充分—によるものだった可能性が考えられるという。今のAGML(あるいは鳥肌胃炎)は急性のピロリ感染であり、若年層に多く(すなわちこれまで胃カメラなんかしたこともないような方々)、除菌が極めて有効である。

 最近のピロリ除菌の話題といえば(1)だんだん除菌治療による除菌成功率が下がってきていること(2)ピロリ除菌と胃癌、とくにピロリ陰性胃癌である。

小生は外来で患者さんたちに「一回目の治療でだいたい70〜80%の方が成功します。」「ということは100人のうち20〜30人は一回では消えないということです。」「でもこの治療には二回目があり、そこまですれば97%の患者さんはピロリ除去に成功します。」「100人のうち3人つまり30人に1人は二度やっても消えない。除菌は諦めて定期的な胃カメラを続けましょうね」とこれまで申し述べてきた。

 最近言われているのはどうも女性は除菌成功率が低そうだということだ。だから小生このごろは女性には「一回目の治療で70%の方が成功します。」男性には「一回目の治療で80%の方が成功します。」というようにしている。

さらに二次除菌の成功率もかつてのように97%はいかず93〜95%ということだ。もっとも最近登場した「タケキャブ」という抗潰瘍薬を除菌につかうとどの抗潰瘍薬よりも除菌成功率が高いと「武田薬品」は宣伝しているから、これが本当なら一日も早く武田はランサップの組成を「タケキャブ」に変更するべきだ。タケプロンよ、さようなら・・・。

 さてピロリ除菌で胃癌は減るのか。じいさん、ばあさんで年取ってから除菌したとしても、これまで何十年も慢性萎縮性胃炎だったんだから、そんなに簡単には胃癌と縁がきれることはなかろう。とはいえ、世評では除菌することで危険率は1/3に減ると言っているから、やはりいくつになっても除菌はすべきなんだろう。

 では生まれてから一回もピロリ感染がないヒト達からは胃癌は出ないのであろうか?あの有名なNEJM論文ではピロリ陽性群からしか胃癌は発生しないとのお話しであった。事実上ピロリ陰性胃粘膜からは胃癌はほとんど発生しないといっていいのあろう。

でも症例報告的には発癌しているのである。発症年齢が低く、分化度ではsignet、体上部に多く、胃底腺型の早期胃癌がそのサブグループの特徴のようだ。若年でsignetだからスキルス・・・かというとそうではない。発見されたものはほとんどが早期癌のようである。かならずしも悪性度は高くなさそうであるが、ピロリ陰性に出現する胃癌はこんな性格のようである。発生率は極めて低い。私たち臨床家としては、若年者ピロリ陽性者を見つけてはせっせと退治していくことが肝要だ。ピロリ陽性期間—罹患期間は短ければ短いほどよいだろう。

 今後日本ではピロリ陽性率は急速に減少していくだろうから、胃癌も減っていく。だけど無くならない。新しいタイプの胃癌がこれからは主体となる。

閑話休題 

さて、そんな状況下で臨床をやっている小生のもとに今日1人のピロリ陽性じいさんがやってきたのだ。ある企業が郵送でやっている「ピロリ感染キット」で陽性だったので除菌してくれとやってきたのだった。カメラをしたことがないというので、直ちにカメラを行い、さて除菌である。

 おじさんこんなことを言う。「娘が今妊娠31週なんですな。その娘が我が家にこのキットを送り付けてきたわけです。そしたらアタシも妻も陽性だったんですね。娘の言うことがひどいんだ。『もしピロリ陽性だったら治療して陰性にならないかぎり、生まれてくる子供に触らせない』なんていわれちゃって・・・」

 私は怒りを抑えきれなかった。がしかし、娘のいうことにも一理あるのだ。いやあるのは1/10理(じゅうぶんのいちり)くらいかしらね。でも現代娘はもう少し考えて親にものを言いましょうね。どれくらい親が傷つくか。

もう私なんかそのいきさつをお聞きして、せつなくてせつなくて。

じいさん、もし陰性にならなくても、触ったくらいで感染なんかしません。どんどん触りなさい。孫の健全な成長にじじばばのスキンシップは欠かせませんのじゃ。

ただそこのあなたが「口移し世代」であるのなら、ちょっと待ったほうがいいかも。今頃は「口移し」は流行りません。虫歯菌(なんてあるのか?)のこともありますしね・・。

2015年3月6日金曜日

YAP1でnature article再び・・・

去年の7月頃YAP1という遺伝子について論文が5つも報告され小生noteしたが、恥ずかしながら本日まですっかり忘れていた。

本日亡霊のように思い出したのは最新号のnatureのarticleに以下の論文がでており、その梗概を読んでいて癌遺伝子「yes」が登場したからだ。なに「yes」だって・・・!!

Nature 519, 57–62 (05 March 2015)

Received 07 April 2014 

Accepted 09 January 2015 
Published online 25 February 2015 

A gp130–Src–YAP module links inflammation to epithelial regeneration 

Koji Taniguchi, Li-Wha Wu, Sergei I. Grivennikov, Petrus R. de Jong, Ian Lian, Fa-Xing Yu, Kepeng Wang, Samuel B. Ho, Brigid S. Boland, John T. Chang, William J. Sandborn, Gary Hardiman, Eyal Raz, Yoshihiko Maehara, Akihiko Yoshimura, Jessica Zucman-Rossi, Kun-Liang Guan & Michael Karin 

Laboratory of Gene Regulation and Signal Transduction, University of California, San Diego, La Jolla, California 92093, USA

Inflammation promotes regeneration of injured tissues through poorly understood mechanisms, some of which involve interleukin (IL)-6 family members, the expression of which is elevated in many diseases including inflammatory bowel diseases and colorectal cancer. Here we show in mice and human cells that gp130, a co-receptor for IL-6 cytokines, triggers activation of YAP and Notch, transcriptional regulators that control tissue growth and regeneration, independently of the gp130 effector STAT3. Through YAP and Notch, intestinal gp130 signalling stimulates epithelial cell proliferation, causes aberrant differentiation and confers resistance to mucosal erosion. gp130 associates with the related tyrosine kinases Src and Yes, which are activated on receptor engagement to phosphorylate YAP and induce its stabilization and nuclear translocation. This signalling module is strongly activated upon mucosal injury to promote healing and maintain barrier function.


はじかれたように当然思い出しました、あの五連発。調べてみると昨年の7月である。

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2014年7月12日土曜日

yesというがん遺伝子をご存じであろうか? YAP1をご存じか?

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2015年3月1日日曜日

これは痛そうだ。よりによって・・:NEJMのイメージ

これは痛そうだ。よりによって・・なんでまたこうなるの。

バイク事故の33歳男子。ドイツからの症例報告。救急室の触診で堅く腫れあがった陰嚢です。左大腿骨骨頭部の骨折で骨頭の一部が左陰嚢に落ち込んでいる(黄色の↓)Cでみるように陰嚢をオープンにして、取り出した骨頭を再接合している。術後14ヶ月で杖無し歩行可能だそうだ。腐骨化していないのが素晴らしい。

しかし事実は小説よりも奇なりである。まったく・・・



























Images in Clinical Medicine

Femoral-Head Dislocation to the Scrotum

Andreas Schicho, M.D., and Christoph Riepl, M.D.
N Engl J Med 2015; 372:863   February 26, 2015


Andreas Schicho, M.D.
Christoph Riepl, M.D.
Ulm University, Ulm, Germany  


A 33-year-old man was admitted to the emergency department after a motorcycle accident. Clinical examination of the intubated patient showed a hard, swollen, bluish scrotum and an externally rotated and slightly shortened left leg. Computed tomography (CT) of the pelvis revealed dislocation of the left hip and a three-part trochanteric fracture of the proximal left femur (Panel A, white arrow), with displacement of the femoral head and neck fragment into the scrotum (Panels A and B, yellow arrow). There were also fractures of the left anterior pelvic ring and acetabulum (Panels A and B, blue arrow) and open fractures of the right forearm and hand. The femoral head and neck fragment was retrieved by means of a direct scrotal incision (Panel C), and the fractures were treated with open reduction and internal fixation (Panel D). The patient had no urologic sequelae. After 8 weeks of limited weight-bearing, the patient was able to walk with a cane. There was no evidence of avascular necrosis of the femoral head on the 3-month follow-up CT scan. At 14 months of follow-up, a CT scan showed vital bone structure and still no avascular necrosis of the femoral head, and the patient was able to walk freely without a cane.