2014年8月27日水曜日

米倉斉加年とアッテンボロー亡くなる

朝からやや穏やかでない。好きな俳優が二人死んだ。米倉斉加年とアッテンボローである。
米倉斉加年はテレビ創世記からの俳優でありこんなに知性を感じさせる俳優はもう出ないだろうと思う。最近では4−5年前の「坂の上の雲」での大山巌が絶品だった。この人の演技はおそらくバス通り裏くらいから知っている。古今亭志ん朝(この人は「若い季節」だ)とともに・・・冥福を祈りたい。






アッテンボローは小生にとっては「大脱走」のあの方です。だから最近の写真は好まない。これまた知性をにじませる俳優だ。ちなみにNHK日曜夕方7時半の「ダーウィンが来た」はイギリスBBCの生物短編番組「アッテンボロー」の日本版であるが。こちらのアッテンボローは弟さんである。






大脱走を昨年視る機会があった。あれほど子供の頃わくわくどきどきした映画だったのに、実はそこまでの映画ではなかった。これはアクションや脚本や結末についてのこと。ただ出てくる俳優達には感激したジェームズ・コバーンデヴィッド・マッカラムチャールズ・ブロンソンスティーブ・マックイーンそれに最高の端役である ドナルド・プレザンス
、そしてこの人なしにはこの映画のリアリティはなかったであろうのがリチャード・アッテンボロー でしょう。 冥福を祈りたい。

2014年8月20日水曜日

エボラの治療薬で話題の「ZMapp」について

ヒト化抗エボラウイルス抗体三種類を混ぜたカクテル治療薬ZMappが話題である。このZMappの背景について少々・・

この治療薬は米国サンディエゴの企業Mapp Biopharmaceuticalが開発したものでそのInformationsheetはこれだ。自社の抗体MB-003と他社Defyrus/PHACの抗体を三種類(およびリコンビナント・インターフェロン)混合した物をMapp Biopharmaceuticalが提供している。

抗体MB-003は本来、米国陸軍研究所(USAMRIID) が開発したエボラに対する4種類のマウスモノクローナル抗体(2000, Science)の一つ13F6クローン由来である。

  • ちなみに軍がウイルス学に関与するのはどこの国でも同様らしい。次のPNASの論文では参考文献の筆頭が Ken Alibekという亡命学者(旧ソ連の細菌兵器担当者)という人の書いた書物であり、PNAS論文中に「旧ソ連ではエボラを細菌兵器化していた」という記述がある。信頼性がどれほどあるかやや疑問であるが、PNASの査読を通っているのだから全く無視するわけにはいかない1行である。ちなみにKen Alibekの書いた書物は Biohazard: The Chilling True Story of the Largest Covert Biological Weapons Program in the World - Told from Inside by the Man Who Ran It, Random House, ISBN 0-385-33496-6といいpdfで全文読めるようになっているようだ。333ページもあるからダウンロードなんかしないほうがいいと思います。








USAMRIIDとMapp Biopharmaceuticalはこの抗体をヒト化し、様々な変異体を工夫し特に抗体のヒト化部分の糖タンパク質からフコース(糖脂質)を除くことで、エボラウイルスに対する抗体価が上昇する(CDC活性とADCC活性:ちなみに中和抗体活性はこの抗体には無い)ことを見出していた(2011,PNAS  2012, PNAS) 。


一方Defyrusはカナダ・トロントの企業でNational Microbiology Laboratory (Winnipeg, Canada)・Public Health Agency of Canada (PHAC)が開発した抗体カクテルを提供している。(リコンビナント・インターフェロンの添加データはこちらのデータが主である)



ヒトでの治験データが全くない抗体治療薬である。リベリアで感染した米国人二名を米国に帰還させて投与した結果が良好だった(詳細不明)だったことで、一気に治療のスキームに組み込まれようとしている。しかし抗体製剤であり必要量に供給量は全く追いつかないであろうことは予想される。













ヒトへの投与に慎重だったWHO/CDCが姿勢を変えた経緯やその他の既知の治療法(インターフェロンやステロイド?)の導入についてはサイエンス(8月15日号)に記事がある。

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によるZMappに対する「現時点(平成26年8月8日付け)での」質疑応答はこちらである。










2014年8月14日木曜日

お盆に寄せて:妄想と彼岸のはざまにて・・

お盆に寄せて色々なことを考える。

お互いにもっと寄り添って生きていけないものか?知らないものどうしでも、一緒に生活できないものか?

1)いそうろう:居候ともいう。子供の頃私の家には居候がいた。正確には春・夏・冬の長期休みにそのヒトは我が家に現れた。居候のコツというのは決して卑屈にならないことであるが、彼は実に堂々としていた。なにもしないで勉強と詩作と昼寝と子供の相手(つまり私や私の友達)をしていた。食客ともいうが、寝床と食事と風呂がただなのだ。掃除をするわけでもない。料理を手伝うわけでもない。風呂を焚くのは好きだったようだ。大事なことであるが、父も母も私もそのことをなにも不思議に思わなかった。理由があって我が家に来ていたことくらいは子供の私にもわかるが、それを詮索する隣人もいなかったし、「今年もまたおいでですか」という挨拶が似合うヒトだった。田舎で育った小生が映画や小説に早くに目覚めたのはおそらくその居候の叔父さんのおかげであった。

昔は日本には結構居候がいたようだ。それは映画や小説だけでなく落語や講談にもしょっちゅう出てくるし、居候を皮肉ったことわざ川柳は山のようにある。持ちつ持たれつが当たり前の時代であるが、こんな時代を復活させることはできないものだろうか?都会の金持ちのじいさん、ばあさんの家に居候。いや居候でなくても、下宿でもいい。

2)下宿:私も一時期下宿していたが、賄い付きの下宿というのはなかなか楽しいものである。私がお世話になったのはもと中学校の校長先生だった老夫婦のご自宅である。母屋の二階に二部屋あり、二人下宿であった。自分の部屋にはテレビがないので、夕食の時間に見るテレビが唯一の視聴であったが、そんな生活をしていた。元校長先生なかなか洒脱で「選挙で誰が勝つか賭けないか?」と私たちに持ちかける。「いいですけど、勝ったらどうします?」と訊くと「そうだな、ビールを1ダースにしようか」というのだ。私たちは高校生だったのだけどね。その時は元校長先生がお勝ちになったので、私たちはまんまとビールを召し上げられた。水道の開け閉めや、食べ物を残すことに大変きびしいお宅だったので、私は初めてそこで食のマナーを学びました。といいますか、よその家の生活習慣に自分を紛れ込ませる時期があるというのは大変有益だと思うのだ。特に若い頃は。だから都会の寂しい老人達に下宿を開くことをオススメしたい。今の若者にはムリだと思うそこのあなた、多分あなたは今の若者のことを知らない。持ちつ持たれつを復活させたい。持ちつ持たれつといえば、部屋をシェアすることもいいかもしれない。

3)部屋を何人かでシェアする:これは小生は未経験である。私のかみさんは学生のころこれをやっていたのだそうだ。楽しそうである。今でもその時の相方とは仲が良い。シェアハウスには独特のルールができあがるのだ。誰かが泊まりに来るときは、相方は留守をするとか。掃除や食事のルールとか。シェアの最大の目的は経済的な節約である。宿賃が2分の1や3分の1になるのであるから魅力的であるが、「考えられない」という若者は多かろう。そんな人たちにお奨めしたい映画がある。この盆休みに見たのだが「スパニッシュ・アパートメント」という。主人公はフランス人。ENAかどこかを卒業したエリート君であるが、語学研修のためにスペインはバルセロナに留学する。お金がないのでアパートにシェアで住み込むという設定だ。なにしろ一つの住居に7カ国7人が住むというのだから賑やかである。とても面白くて、うらやましい世界だが、かつての日本はこうだったのではないかな。















こんな世界に近い社会がかつて日本にもあったと思うが。

4)家に鍵をかけない。だれでも出入り自由: ある報告によると日本家族の孤立が始まったのは公団住宅が建築された昭和30年代のことなのだそうだ。鍵付き公団が売りに出されて、鍵をかけるのが習慣になったのであって、私たち日本人には家に鍵をかけるという習慣はか つてはなかった(少なくとも日中は)。昼間は誰でも勝手に他所の家に入っていた。それが証拠に小津安二郎の映画を見ると日中は家に鍵などかかっていないでしょう。夕方遅く最後に出入りしたヒトが鍵を閉めるという場面が(注意深く見ると)よく出てくる。これを今の日本でやったら大変だけど、たとえば集会場などで、だれでも出入り自由な空間をもっとたくさん作るとよいと思う。

5)公衆浴場:私のうちには風呂はあったけど、周りの友達の7割の家には風呂がなかった。だから私は公衆浴場がうらやましくてならなかった。(いま考えるととてもイヤミですね)家に風呂があるにもかかわらず、しょっちゅう私は公衆浴場にいっていた。そしてひどくののしられていた。いわく「家に風呂があるくせにナマイキだ」これは主に上級生のイヤミである。それでも公衆浴場は楽しかった。テルマエ・ロマエの世界なのだが、あのような裸の付き合いというのは、とても良いのである。はだかというのは慣れであるから、慣れてしまうととても楽な世界。我が家の子供など他人様の前で裸になるなんてとても考えられないらしいが、慣れて欲しいと思う。この日本独特の文化がすたれてしまうのは勿体ない。その昔日本は混浴だったらしいが、それが社会問題にならなかった時代(たとえば名著:シュリーマンの日本訪問記にそのことが絶賛してある)というのが、なんとも馥郁としていて良いと思う。近い将来一億二千万の人口がすぐに8千万人くらいの人口になるらしいから、その頃には復活していて欲しいものである。いや混浴ではなく、皆が和気藹々と風呂につかる文化の話である。

6)よばい:もちろん私は夜這いの恩恵を被ったことはない。そんな時代には生まれていない。しかしこれも極めて面白い文化なのである。(たとえば、赤松啓介の「夜這いの民俗学・夜這いの性愛論」(ちくま学芸文庫)などはひどく面白いのだ)多くのヒトは日本独自であると思っているだろうが、こんなのは日本独自であるはずない。もっと雄大な人類の智恵であるはずだ。詳しいことは本をお読み頂きたいが、さて小生、夜這いを復活させろなんて思っていないが、もっとおおらかな世界が戻ってこないかなとは思っている。恋愛に制限がありすぎない世界。若者も年寄りももっと恋愛ができる雰囲気。やっているひとはやっているのだろうが、ね。

7)坊さんの復活:さてお盆が身近になったこのころはお坊さんと仲が良い。そのお坊さんの世界が大変なことになっているという。全国のお寺の相当数に世継ぎがいないのだ。寺の多くが廃寺になるおそれがあるのだそうだ。私の知り合いの坊さんはこう言う。「キリスト教はいいよな。いつの間にか結婚式と葬式をものにしている」そうなのだ。キリスト教も初めのうちは結婚式や葬式とは無縁だったらしい。中世のどこかで世俗をものにしており、いまでは結婚式と葬式で安泰である。ところが仏教はいわずとしれた「葬式仏教」である。いままでは宗教法人としての税制と檀家制度で左うちわだったものが、いまでは急速に絶滅の危機を迎えている。そこで小生が「じゃ、坊さんたちが病院にこれるように文化をかえちゃおう」と申し上げたところ、これが大受けしているのだ。もっと言えば2025年問題に合わせて地域医療特に終末在宅医療に大胆にも坊さんたちに参加してもらおうという算段である。じいさん、ばあさんは不安なのだ。これまでは死ぬ前に坊さんが目の前にあらわれでもしようものなら「縁起でもない」と一蹴されていたが、これからはパラダイムを変えていきたい。どんどん病院にも入ってもらう。病院内を坊さんがあの格好で歩き回るのが当たり前の時代になると思う。そうすることで在宅終末期医療は精神的にすごく助かると思う。

「な〜にも心配しなくてもいいからね。あんたが死んだら、わしがちゃんと責任もって葬ってやるからな。あと何年先になるかわからんが、それまで仲良くしよ」というのがこれからの坊さんの老健施設での日常会話になるとよい、本当にそう思う。

そんなことを考えている今日このごろであります。

故きを温ねて・・・NEJM image

今週のNEJM imageは小生には意義深い。昔の記憶が甦る。研修医のころ、ある地方病院に通っていたことがあり、その病院にはいろんな方が入院していた。その病院の院長先生は「これが泉熱です。診たことないでしょう?」といって熱心に教えてくれたのがふつふつと思い出される。その二〜三年まえには東北地方を旅行して郡山(だったか)の大原病院で有名な「野兎病」を説明してくれたお医者さんのことを思い出した。野兎病はリケッチアでありマクロライドであるが、小生のこだわりの病気「組織球性壊死性リンパ節炎(HNL)」(「菊池病」)と類縁関係にある。(原因は不明であるが)

さて泉熱であるが、これは昭和の初めの頃に活躍された泉仙助先生というかたの桂冠病(名前を記念して付けられた病気)であり、その後の研究でYersinia pseudotuberculosisが病因ではなかったかと言われているそうである。

地方病院の一番奥には「隔離病棟」というのがあり、そこに入院していたかたはとても印象的だった。その話はのちほど。

このあたりで今回のNEJM imageに戻ろう。ウガンダの女性である。説明を読むと治療費を捻出するために家を売ろうとしたというのが哀しい。

Snap Diagnosis可能であろうか?
答えはかなり下に載せている


























この病気を今この状態(病期)で診ることはほとんどないだろう。しかし東京地方では最近増加中との報告もある。

上の図は有名なNetterの図譜から一部引用したが、ネッターに載るくらいの病気である。小生など「扁平上皮癌」と誤診する。






この病気の診断名は三期梅毒の口腔内病変でGummaなのである。グンマである。病理の試験で懐かしいグンマであった。

Images in Clinical Medicine

Syphilitic Gumma

William Cherniak, M.D., and Michael Silverman, M.D.
N Engl J Med 2014; 371:667August 14, 2014

ペニシリンGを3回一週間おきに筋注したら良くなったという(右の写真)。 結局家売ったのだろうか?ペンGはそこまで高価ではないがね。(というかあの短い症例報告に家を売ろうとしたなんて説明するか、普通!

さて隔離病棟を思い出したのは、そこに4期梅毒の患者さんたちが入っていたからである。進行麻痺、脊髄癆となり人格崩壊していた。昔はこのような病期を「脳梅」と呼んでいたが、最近ではどうであろうか。とにかくそのような病棟に月に一回は訪れていたわけである。梅毒も世界的にはまだまだ活発な病気なのだろう。日本はかつてほど衛生的な国ではなくなったようで(特にワクチンがこれほど嫌われる国はないからなあ)、これから様々な病気が復活するであろうが、梅毒のグンマを診る時代がまたくるなんていやだな。

ちなみにグンマはドイツ語でガムのことである。 Gummabaloonはゴム風船です。だからゴム腫という。

話題は群馬県にワープするが、群馬県は自らをローマ字表記するときはGunmaとnを使うらしい。 これは全く賢明な判断であろう。

2014年8月13日水曜日

なぜこの程度でNEJM??

バリウム塊による大腸閉塞をCFで解除した・・・ただそれだけの内容である。どうしてこれでNEJMといいたくなる。
高圧ジェットと生検鉗子による破砕がビデオでついている。

日本の消化器内科の先生方ならばもっとインパクトの高いビデオをお持ちではなかろうか?

どんどんNEJMやGastroenterologyへ投稿してはいかがかと思います。


Images in Clinical Medicine

Barium Concretion Causing Obstipation

Nirav Thosani, M.D., M.H.A., and David S. Wolf, M.D.
N Engl J Med 2014; 371:e8August 7, 2014













Nirav Thosani, M.D., M.H.A.
Stanford University, Stanford, CA

David S. Wolf, M.D.
University of Texas Health Science Center at Houston, Houston, TX

2014年8月8日金曜日

NCDデータからみる日本の手術死亡率について

NCDデータというのは日本の外科医が日本の手術を全国レベルで集計した一大データベースである。
    ・・・(一部紹介引用してみる)
  • 『一般社団法人National Clinical Database』(以下、NCD)を立ち上げて早4年が過ぎました。専門医制度と連動した手術症例の入力は2011年に開始され、わが国で一般外科医が 行っている手術の95%以上をカバーする年間120数万件が入力され、2014年3月末時点で400万件を越える手術情報が4105施設から集積されまし た。世界に類を見ない、素晴らしい巨大データベースが構築されたわけです

NCDデータからみる日本の手術死亡率について初めての報告が先月(その後の注:これ2013年でしたね、失礼)の消化器外科学会で報告された。その抄録を引用掲載してみたい。

これはかつてない極めて重要な事業報告である。ヨーロッパから似たような報告があったが(これは臓器別ではないが)、比較すると日本の外科が極めて良くやっていることがわかろうというものだ。(折角の報告であるが、記述の統一性に若干の乱れがあるのが残念だ。在院死、病院死亡、術後30日以内の死亡、手術関連死亡等々)

なおヨーロッパの報告では在院死亡が術後60日以内の院内死亡となっていることにはご注意ください。またいうまでもなく日本の報告では臓器が絞られていること、癌手術が主であろう事、緊急手術が相対的に少ないことはヨーロッパの報告と比較するときに意識しておく必要はあります。


馬場 秀夫:1、渡邊 雅之:1、宮田 裕章:2、後藤 満一:3、杉原 健一:4、森 正樹:5

1:熊本大学大学院消化器外科学、2:東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座、3:福島県立医科大学医学部臓器再生外科学講座、4:東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学、5:大阪大学大学院消化器外科学講座
2011年の1年間に1623施設から登録された20011例の胃全摘症例を対象とした.年齢は平均68.9歳,73.7%が男性であった.緊急手術例 は全体の2%で,4.6%が日常生活での介助を必要としていた.術前のASAスコアはGrade 3が8.9%,Grade 4/5が0.6%であった.術前の併存症では糖尿病を8.9%に,呼吸不全を2.4%に,腹膜播種を3.7%に,腹水を2.0%に認めた.術後合併症は 26.2%に認め,Clavien-Dindo分類のGrade 2以上の合併症は18.3%であった.外科的合併症としては,手術部位感染を8.4%,縫合不全を4.4%,Grade B以上の膵液瘻を2.6%に認めた.非外科的合併症としては,肺炎を3.6%,腎不全を1.3%,脳血管障害を0.7%,心イベントを0.6%に認めた. 術後30日以内の死亡は0.9%,在院死亡は2.2%であり,全手術死亡は2.3%であった.今回の解析データから胃全摘術の全手術死亡のリスクモデルを作成すると,ASAのGrade 4以上が最も重要な因子であり,その他には術前の人工透析や血液検査異常等患者の全身状態にかかわる因子と,腹膜播種や腹水の存在等癌の進行に関連する因子が手術死亡に関連する因子として同定された.過去の海外のものを含む多施設共同臨床試験において,術後合併症の頻度は,D1郭清で 16.8%~28%,D2郭清で33~46%,在院死亡率はD1郭清で1.8%~6.5%,D2郭清で3.7~13%と報告されている.我が国では進行胃癌に対してD2郭清が標準であり,ほとんどの手術でD1+以上のリンパ節郭清が施行されている現状を考慮すれば,今回のNCDによる胃全摘術後の合併症率および死亡率のデータは我が国の胃全摘の水準が世界的に見ても高いレベルにあることを示唆する.

この学会報告にあわせてAnnals of Surgery論文が報告されている。

これは一般の方が手術を受けるとき我々に向けられる懸念を晴らすために是非必要になるデータなのだ。
 普通の人(ASAのリスク評価が低い患者殿)は当然ここに載っている死亡率、在院死の%より極めて低い値が予想されるからである。ちなみにASA分類というのは以下である。

全身状態評価とASA分類 (American Society of Anesthesiologists)

 ASA Physical Status 1 - A normal healthy patient
ASA Physical Status 2 - A patient with mild systemic disease
ASA Physical Status 3 - A patient with severe systemic disease
ASA Physical Status 4 - A patient with severe systemic disease that is a constant threat to life
ASA Physical Status 5 - A moribund patient who is not expected to survive without the operation
ASA Physical Status 6 - A declared brain-dead patient whose organs are being removed for donor purposes
These definitions appear in each annual edition of the ASA Relative Value Guide®. There is no additional information that will help you further define these categories.
これがオリジナルの表現である。日本語の訳は↓。だからASA PS 4以上というのは高度のリスクがあると考える方々である。
分類   身体評価
PS1  (手術となる原因以外は)健康な患者
PS2   軽度の全身疾患をもつ患者
PS3   重度の全身疾患をもつ患者
PS4   生命を脅かすような超重度の全身疾患をもつ患者
PS5   手術なしでは生存不可能な瀕死状態の患者
PS6   臓器移植のドナーとなる,脳死と宣告された患者
  


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
Annals of Surgery:
Post Author Corrections: July 28, 2014

Total Gastrectomy Risk Model: Data From 20,011 Japanese Patients in a Nationwide Internet-Based Database.



Watanabe, Masayuki MD, PhD; Miyata, Hiroaki PhD; Gotoh, Mitsukazu MD, PhD; Baba, Hideo MD, PhD, FACS; Kimura, Wataru MD, PhD; Tomita, Naohiro MD, PhD; Nakagoe, Tohru MD, PhD; Shimada, Mitsuo MD, PhD; Kitagawa, Yuko MD, PhD; Sugihara, Kenichi MD, PhD; Mori, Masaki MD, PhD

Abstract


Objective: To construct a risk model for total gastrectomy outcomes using a nationwide Internet-based database.

Background: Total gastrectomy is a very common procedure in Japan. This procedure is among the most invasive gastrointestinal procedures and is known to carry substantial surgical risks.

Methods: The National Clinical Database was used to retrieve records on more than 1,200,000 surgical cases from 3500 hospitals in 2011. After data cleanup, 20,011 records from 1623 hospitals were analyzed for procedures performed between January 1, 2011, and December 31, 2011.

Results: The average patient age was 68.9 years; 73.7% were male. The overall morbidity was 26.2%, with a 30-day mortality rate of 0.9%, in-hospital mortality rate of 2.2%, and overall operative mortality rate of 2.3%. The odds ratios for 30-day mortality were as follows: ASA (American Society of Anesthesiologists) grade 4 or 5, 9.4; preoperative dialysis requirement, 3.9; and platelet count less than 50,000 per microliter, 3.1. The odds ratios for operative mortality were as follows: ASA grade 4 or 5, 5.2; disseminated cancer, 3.5; and alkaline phosphatase level of more than 600 IU/L, 3.1. The C-index of 30-day mortality and operative mortality was 0.811 (95% confidence interval, 0.744-0.879) and 0.824 (95% confidence interval, 0.781-0.866), respectively.

Conclusions: We have performed the first reported risk stratification study for total gastrectomy, using a nationwide Internet-based database. The total gastrectomy outcomes in the nationwide population were satisfactory. The risk models that we have created will help improve the quality of surgical practice.


冨田 尚裕:1、松原 長秀:1、外賀 真:1、後藤 満一:2、宮田 裕章:3

1:兵庫医科大学医学部下部消化管外科、2:福島県立医科大学医学部臓器再生外科学講座、3:東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座
結果:2011年度に我が国で行われた13316症例の低前方切除術症例を検討対象とした.平均年齢は66.2歳,緊急手術の割合は1.1%であっ た.30日死亡及び病院死亡はそれぞれ0.4%と0.9%であった.術後縫合不全率は10.2%であった.30日死亡のオッズ比は以下の通りであっ た:BMI30以上, 7.0; 静脈血栓の既往, 6.2; 術前輸血 5.4; 腹膜播種 4.9.ROC曲線下の面積を用いたC等計量は0.766であり,このモデルは比較的良好な識別能を示した。


竹内 裕也:1、北川 雄光:1

1:慶應義塾大学医学部外科

【対象と方法】2011年1月から12月までに全国713施設からNCDに登録された食道切除再建術症例5354例が解析の対象となった.術前リスク因子,術後合併症発生頻度,術後30日以内死亡率,在院(90日)死亡率の解析を行った.
【結 果】患者平均年齢は65.9歳,男性が84.3%を占めていた.術前1年以内に喫煙歴のあった患者は全体の41.7%,アルコール常用者は58.2%で あった.平均手術時間は473 ± 160 分,出血量は568 ± 570gであった.術後合併症発生率は全体で41.9%,うちSSI 14.8%,縫合不全13.3%,肺炎15.4%,敗血症性ショック1.8%であった.術後30日以内死亡率は1.2%,在院死亡率は3.4%であった.
術前リスク因子の多変量解析において,患者年齢,術前の喫煙,ADL不良,体重減少等が術後30日以内死亡の有意なリスク因子となっていた.またこれらに加えてCOPDが在院死亡の有意なリスク因子となった.
【考 察と結論】米国や英国からのNational databaseに基づく食道切除再建術の成績では,術後合併症の発生頻度は全体で50%,39%と報告され,各合併症の頻度も含め,わが国の術後合併症 発生頻度は欧米とほぼ同様であると考えられた.一方,術後30日以内死亡率は米国で3.0%,英国では4.3%と報告されており,わが国の合併症管理水準 の高さが死亡率で欧米を凌駕する一因となっていることが推測された.


後藤 満一:1、宮田 裕章:2

1:福島県立医科大学医学部臓器再生外科学/日本消化器外科学会データベース委員会、2:日本消化器外科学会データベース委員会

【方法】登録された肝切除症例のうち,急性汎発性腹膜炎症例,同時に食道切除再建術,膵頭十二指腸切除術が実施された症例を除外した(n = 20455).MOS肝切除術式のうち,腹腔鏡下肝切除術を除いた7732症例について,患者術前状態を独立変数に設定し,各アウトカムを従属変数に設 定した多重ロジスティック回帰分析にて,モデルを構築した.モデルに含まれる独立変数は,変数増加法(尤度比)により選択した.この方法は米国ACS- NSQIPとほぼ同様の方法を採用した.
【結果】肝切除例20455の手術死亡率,手術関連死亡率はそれぞれ1.2%,2.3%,また,MOS 肝切除ではそれぞれ2.0%,4.0%であった.MOS肝切除症例の80%を用いてリスクモデルを作成したが,手術死亡では14項目,手術関連死亡では 24項目がリスク因子として選択され,それらは術前の合併症,手術適応(緊急手術,肝内胆管癌,肝門部胆管癌,胆嚢癌),術前検査データ(血小板 数,Hb,Alb,AST値),肝切除部位(S1, S7,あるいは S8を含む)であった.MOS肝切除症例の20%を用いてvalidationをおこなったが,そのC-indexは各々0.714,0.761と良好な ものであった.
【考察】肝切除後の全国レベルの死亡率が欧米では5-10%程度と報告されているが,わが国ではこのように低く抑えられていることは世界的に注目される


木村 理:1、宮田 裕章:2,3、後藤 満一:2,4、見城 明:5、北川 雄光:2、島田 光生:2、馬場 秀夫:2、冨田 尚裕:2、杉原 健一:4、森 正樹:4

1:山形大学医学部消化器・乳腺甲状腺・一般外科学/日本消化器外科学 会データベース委員会、2:日本消化器外科学会データベース委員会、3:National Clinical Database、4:日本消化器外科学会、5:日本消化器外科学会データベース委員会ワーキンググループ
【対象と方法】
日本の外科系のNational clinical data baseから1167施設から8906例の膵頭十二指腸切除術の30日死亡率,在院死亡率の頻度および入院死亡率に関係する因子を調査した.
【結果】
平均年齢は68.2歳であった.平均術後入院期間は44.9±24.7日であった.術後30日以内の死亡は1.2 %(105例)であった.手術死亡率は2.8 % (251例)であった. 入院死亡率に関係する因子は呼吸器障害,手術直前のADL,心筋梗塞,10%以上の体重減少,ASA3以上,BMI 25以上,白血球12000以上,APTT 40秒以上,血清アルブミン25g/dl以下,T.Bil 2以上,クレアチニン 3.0以上,NA 145以上であった.術後30日以内死亡に関与する因子は9つあり,緊急手術,COPDは入院死と独立した関連因子であった.
術後30日以内死亡率と入院死亡率は膵癌がその他の癌よりも有意に低かった.肝外胆管癌は術後30日以内死亡率の有意な危険因子であった.
【結語】
本論文は日本のNational surgical databaseを用いた膵頭十二指腸切除術の最初の統計学的報告である.膵頭十二指腸切除術術後30日以内の死亡は1.2 %(105例)であった.手術死亡率は2.8 % (251例)であった. 

2014年8月2日土曜日

エボラ出血熱と正しく向き合う

猛烈な勢いで西アフリカにエボラ出血熱が広がっている。 感染症が24時間で世界中に広がる現代である。
日本に座して対岸の遠いニュースとたかをくくるわけにはいかぬであろう。

 特にナイジェリアの一例が気になる。なぜならこの症例リベリアからトーゴ経由で空路やってきたヒトがナイジェリアの首都ラゴスで客死したものだからだ。空路で広がる症例がすでに出現しているのだ。






















Ebola discoverer says would sit next to victim on train 























以下アトランタの Centers for Disease Control and Prevention (CDC)のホームページから引用する。これまでも、これからもWHOかCDCのホームページが最も信頼できる情報源となるであろうから。

エボラ出血熱の症状を列挙
  1. Fever 
  2. Headache 
  3. Joint and muscle aches 
  4. Weakness 
  5. Diarrhea 
  6. Vomiting 
  7. Stomach pain 
  8. Lack of appetite      余りに特徴のない症状の羅列である。これで疑えというのは無理だろう。
Some patients may experience:
  1. A Rash 
  2. Red Eyes 
  3. Hiccups 
  4. Cough 
  5. Sore throat 
  6. Chest pain 
  7. Difficulty breathing 
  8. Difficulty swallowing 
  9. Bleeding inside and outside of the body  最後の出血は余りに有名であるが・・ここまでくる前が大事なんだ。
Symptoms may appear anywhere from 2 to 21 days after exposure to ebola virus though 8-10 days is most common. 

Some who become sick with Ebola HF are able to recover, while others do not. 

The reasons behind this are not yet fully understood. However, it is known that patients who die usually have not developed a significant immune response to the virus at the time of death.

日本に持ち込ませないことは言うまでもないが、もし発症した患者が目の前に現れたら・・・どうすればよいのだろう。
正直これではエボラを疑えない。

 エボラ出血熱の診断を列挙

診断は3系列に分かれる。1)症状が出てから数日、2)遅れて診断(あるいは運良くリカバリー時期に診断)、3)死後診断

Timeline of Infection Diagnostic tests available
Within a few days after symptoms begin
  • Antigen-capture enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) testing
  • IgM ELISA
  • Polymerase chain reaction (PCR)
  • Virus isolation
Later in disease course or after recovery
  • IgM and IgG antibodies
Retrospectively in deceased patients
  • Immunohistochemistry testing
  • PCR
  • Virus isolation

  エボラ出血熱の治療法

最後に治療法であるが有効なものはない。対処療法である。感染者が全員死亡するわけではない。死亡率は高い。



  エボラ出血熱:1976年以降の流行と今回の比較