2014年5月24日土曜日

スイスは乳癌のマンモスクリーニングを中止する:NEJM

マンモグラフィー(MMG)が乳癌死亡率を下げるのに有効かどうか、ここ数年の動向には目を離せない。今週号のNEJM・トップレポートは「スイスがマンモグラフィー乳癌検診を廃止する」という報告である。

なおこのレポートはfreeなので、誰でも読めます。たった一日で26個もコメントがついています。そこの貴方も是非コメントしてくださいね。

勧告者の見解が述べられている。簡単にいうと
  1. MMGがスクリーニングとして優れているという研究はそもそも1961年に始まったニューヨークでの研究と1991年の英国での研究に基づいているが、それ以降この10〜15年乳癌治療は劇的に進歩している。
  2.  MMGにはメリットもあるがデメリットも無視できない。繰り返し行われるMMG、生検や細胞診および無視できない数の過剰診断この3点がデメリットであろう。このブログでも紹介したカナダの報告を再度述べると、25年間のフォローアップでスクリーニングで発見された484人の「乳癌患者」のうち106名は過剰診断だと判断されるというものである。
  3. 別の角度から述べると、このカナダで25年フォローアップされた44925人の検診者のなかで106人が必要のない手術、放射線治療、化学療法を受けていたことになるのである。
  4. このカナダの研究が一番わかりやすいが、この他の10研究をまとめたコクラン・レビュー(Cochrane review)でもスクリーニングMMGは乳癌全生存率に影響を与えていないと報告されている。
  5. このNEJMのレビューを大まかにまとめたグラフを下に引用するが、MMG使おうが使うまいが死亡数に変化はないとするのがこれらの報告である。
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このブログを読まれる方の中には医療関係者ではない方もおられるだろうから、一応説明するがこの「乳癌過剰診断」というのは、今の医学医療では避けられないものだということを理解してほしいということ。MMGでも細胞診でも、切除標本でも「乳癌」と今の技術知識では診断されるのだ。誰が見ても他の癌と区別できないもの。つまり医療ミスでは決してないのだ。
乳癌発見率は向上し早期癌が 格段に多く見つかるようになったのに、癌死亡に結びつく進行乳癌の発生がそれに見合っては減らないという「疫学データ」「観測データ」から推論された内容なので、多くの医療従事者には実感がないことだろう。反論も多かろう。

MMGで見つかったがんのなかに15年経過を追うと、「俺たちが見つけた癌のうち、いくつかは癌ではなかったのだろうね」という症例が紛れ込んでいる・・としか考えられないということである。問題なのは、それが「どの患者のがんだったのか」あとから振り返ってもわからないということだ。

個人の問題と社会(国)の問題に分けて考えてみたとき、国としては「そんなメリットのないもの、デメリットが問題となるものに金は出せない」というのが正しい態度であろうし、それが今回のスイスの勧告なのだ(スイスが実際にMMGスクリーニングを止めるかどうかは今後の問題であるが・・)。

一方個人のレベルでは例えば私は自分のかみさんにはMMGは続けるのかというと、小生は変わらず続けて検査してもらうつもりだ。見つかったときどのように考えるのかは難しいが、スクリーニング癌検診をうけるというのには、それだけの「覚悟」がいるということだ。484人の「乳癌患者」のうち106人に入るか、残りの378人になるか、現時点では誰にもわからないならしょうがないではないか。個人としての覚悟とはそんなものだ。

さて問題は国策として日本はこれからもMMGスクリーニングを続けていくことにするのだろうか?  
少なくとも、なにもデータを作らずに漫然とこの流れを維持していくわけにはいかないだろう。

「日本は検診精度が高いのでスイスやカナダや米国や英国のようにはならないだろう」 という希望的観測はありうる。小生は日本ではMMGスクリーニングが有効かもしれないと思う。

なぜなら確かに日本の検診精度は高いことは他の検診でも感じられるからである。が、客観的なデータを残さないとだめだ。MMG中止という流れが諸外国で出てきているのなら、それに見合った研究を計画し、「日本」の進むべき道を示して欲しいのだ。(お前は先ほど「乳癌過剰診断」は誰にも区別できないと言ったじゃないか、日本の医師だけが見つけることが可能だなんて、おかしいではないか?といわれるそこの貴方。貴方は正しい。だけど、医療というのは理屈だけではない。諸外国のMMG陽性例を「それでも疑ってみる」必要はあるということだ。日本の優れた診断医に見せれば「癌」ではないとの評価かもしれない。だけど、歴史を振り返る研究というのは水掛け論になることが多いので、そんなことをするよりは日本ではどうなのかという研究報告をしてもらった方が説得力がある)


Perspective

Abolishing Mammography Screening Programs? A View from the Swiss Medical Board

 

Nikola Biller-Andorno, M.D., Ph.D., and Peter Jüni, M.D.
N Engl J Med 2014; 370:1965-1967  May 22, 2014



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