2013年9月29日日曜日

ウイルソン・キプサングがマラソン世界新記録(ベルリンマラソン)

ベルリン・マラソンが29日行われ、男子は昨夏のロンドン五輪銅メダルのウィルソン・キプサング(ケニア)が2時間3分23秒(速報タイム)の世界新記録で初優勝した。

 
1 Kipsang, Wilson (KEN)  Kenia 2:03:23
2 Kipchoge, Eliud (KEN) Kenia 2:04:05
3 Kipsang, Geoffrey (KEN) Kenia 2:06:26
4 Chemlany, Stephen Kwelio (KEN) Kenia 2:07:44
5 Kiptanui, Maswai (KEN) Kenia 2:08:52
6 dos Santos, Marilson (BRA) Brasilien 2:09:24
7 Ishikawa, Suehiro (JPN) Japan 2:10:24
8 Kobayashi, Koji (JPN) Japan 2:11:31
9 Rui, Silva (POR) Portugal 2:12:16
10 Jisa, Sisay (ETH) Äthiopien 2:12:17


Split time diff min/km km/h
5 km 0:14:33 14:33 2:55 20.64
10 km 0:29:16 14:43 2:57 20.39
15 km 0:43:45 14:29 2:54 20.71
20 km 0:58:20 14:35 2:55 20.58
Half 1:01:34 3:14 2:57 20.41
25 km 1:13:13 11:39(14:53) 3:00 20.08
30 km 1:28:01 14:48 2:58 20.26
35 km 1:42:36 14:35 2:55 20.59
40 km 1:57:12 14:36 2:56 20.54
Finish 2:03:23 6:11 2:49 21.33













































































この世界新記録を裏付けるスプリットが素晴らしい!
  1. 上がりの2.195kmを6分11秒 (5km換算14分05秒)とはなんという速さだ!
  2. 入りの5kmが14分33秒はいい加減なスタートではない。しっかり世界新を意識している入りである
  3. 全体にペースの上がり下がりがほとんどない。素晴らしいイーブンペースである。
  4. 一番遅いスプリットが中間点あたりの14分53秒であり、最も多いのが14分30秒台で4回、14分20秒台が一回である。とにかく速い。
  5. negative split(後半のほうがペースが速いこと)で記録を出すことが多いのが最近のマラソンだと思っていたが、今回のマラソンは前半が1時間1分34秒で後半が1時間1分49秒。前半のほうがやや速い。
  6. 20-30kmがそれぞれあと15秒と10秒速ければ、(つまりこの5kがそれぞれ14:38であれば)記録は2時間2分台となる。
  7. 2時間2分台のマラソンとは、すべてのスプリットが14分30秒台で刻まれるマラソンのイメージとなる。もうすぐそこまで来ているのだ。わくわくする。

2013年9月28日土曜日

おもしろい論文はないのかね〜

8月9月とブログにノートする機会が激減した。6〜7年前にブログを始めて以来、このような「研究論文の夏枯れ」は良くある。基本「備忘録」であるから、無理矢理ノートしようとは思わないが、しかしこころ穏やかでない。

  1. 癌の研究世界の中心が、次第に自分の関心領域から離れていってしまっているのはないかという懸念。
  2. 小生はmajorな雑誌しか読まないが、これはmajorな雑誌しか読めぬ環境にいるからなので、実は次代を担う大きなテーマが周縁雑誌で今盛り上がっていたりはせぬかという懸念。小生だけ蚊帳の外はこまる。
というわけで、来週は「癌学会」に出かけてみることにした。こんなロートルにも学会は声をかけてくださる。少しは縁の下の力持ちをしなさいという呼びかけである。ほとんど人の入らない会場を探して、面白いことをやっている人を捜してみたい(今の時代、そんな研究があるのかな)。

さてさて おもしろい論文はないのかね〜。10月を期待しよう。過去の経験からいって2ヶ月静かだと、その反動はかなりのものがある。

2013年9月22日日曜日

小生の心の故郷:島の遺構がついに消滅

先日車で「ある島」へ遠乗りした。連休でやや混雑していたが、もとより観光地ではないので、最後は周りの車がほとんどいなくなり、気持ちがよかった。もうすぐ島というところに大きな湾がある。この湾を越える大きな橋を渡る時、ニューヨーク南からマンハッタンを迂回して、すなわちステッテン島からベラザノ大橋を越えて、クイーンズに入りJF・ケネディ空港へ向う感覚を思い出してしまった。ベラザノ大橋は標高が高いので、湾の向こうに自由の女神やマンハッタンが見えるのが気持ちが良いのだ。風も気持ちがよい。 






































この島には知る人ぞ知る、旧海軍の遺構がある造船所だったところだ。30年くらい前には月に一回ここに通りかかる用が数年に渡ってあり、丁度運転の休憩時間にふさわしいので、いつも一服していた。夏だと日が暮れる時間帯にさしかかり、それはそれは幻想的な空間に変貌する。感覚的にだが、周囲数キロの範囲に自分しかいない、そんな感覚になるのだ。これとおんなじ感覚は、ローマのカラカラ帝の大浴場で経験したことがある。このときは歴史が一挙に2000年くらい遡ったような感覚に陥った。屋根はない。朽ち果てた石柱の間に地中海の青空が見えるわけだが、島の遺構も同じくコンクリートの巨大な列柱の間に、蒼い蒼い空がのぞくというわけだ。悠久を感じることなんて滅多にあるものではないが、でもあの感覚はよい。とてもよい。

自分の子どもたちには、ぜひどこかで経験したもらいたいものだと思う。こればかりは、親が感じた場所でだれもが再現できるものでもないようなので、どこかでね。

さて、先日訪れると、そこは無惨にもなくなっていた。遺構は全く地上から消えていた。平地になり、あの独特のオーラがすっかり消えてしまっていた。 予想はしていたが、とても残念であった。

日本には廃屋・廃園・遺構が山のようにあるが、残念なことに一般の興味を引かない。引かないが故に、あまり人が訪れない。訪れないが故に、朽ち果てるままである。朽ち果てるままであるが故に、数十年の時間経過がそこにはびっしりこびりつく。苔むす。野生の叢林に覆われてしまう。コンクリートが割れて、鉄筋がむき出しになり、更に錆びる。

悠久の時間の無限性を実感するには、こんな環境に身を置くのが一番なのだが、いつか商業資本の目の敵にされ、今回のように取り壊されるのだ。この旧海軍の遺構はおそらく建設以来90年、戦後は70年近く誰にもじゃまされることなく、我々マニアの心のオアシスになっていたのだが、ついにこの世から消えてしまった。まことに残念である。

2013年もノーベル賞の季節がやってきた

さて10月7日(月)にはノーベル医学生理学賞が発表される。あと2週間である。受賞が予想される方々は、そろそろ気もそぞろであろう。

「さてさて今年は誰がもらうのか」 という興味がここ10年でだんだん、少しずつ減じてきたというのは正直なところである。ネットの世界を見ても7〜8年前の熱気は全く感じられない。これは世界的にもだ。

ネットで熱気を感じられないといっても、そこはそこ、いくつかのサイトが予想を試みている。

  1. 2013 Nobel Prize Predictions

     









このサイトなどはどうであろう。
  1. はmicroRNAの発見者たち
  2. はmicrobiomeと肥満の関連の発見者


    2006年に米国Washington大のJeffery Gordonらは、腸内細菌叢が肥満に影響するという内容の論文をNature誌に発表した。肥満者の腸内細菌叢をメタゲノム解析してその細菌叢の特徴となる菌や遺伝子を解析し、また無菌動物に投与して肥満が再現することを示した。

    Nature 444, 1022-1023 (21 December 2006)

    Microbial ecology: Human gut microbes associated with obesity

    Ruth E. Ley, Peter J. Turnbaugh, Samuel Klein & Jeffrey I. Gordon

  3. は神経科学での新しい方法論の発明ー光

    Nature Neuroscience 8, 1263 - 1268 (2005) Edward S Boyden Feng Zhang Ernst Bamberg Georg Nagel Karl Deisseroth


    Millisecond-timescale, genetically targeted optical control of neural activity
  4. は分子標的薬ー抗FGFR抗体(アバスチン)ーの開発者の1人

外科医としては当然アバスチンにもっとも馴染みがあるし、実際アバスチンはよく使う薬である。 切れ味は良い薬であるが、いつか効かなくなるのは残念。とはいえ進行再発大腸癌の生命予後がいくばくか延長したのはこの薬のおかげであるのは実感するところである。

しかし分子標的ならグリベックにもやりたいとは思わないか?フェラーラというよりブライアン・ドラッカーでしょう、まず。

でもでもこんな話題よりもまずゲノムプロジェクトに落とし前を付けて欲しいワトソンが生きている間にけりをつけてくれ。論文が載って60年、ダブルへリックスでノーベル賞が授与されてから51年だ。

当ブログでは毎年の主張であるが、クレイグ・ベンターに授与してほしい。あとは誰でも良いのだ。世評でいえば、フランシス・コリンズであろうが、小生には疑問だ。 コリンズにあげるくらいなら、我が国の小原雄治博士にあげて欲しい。
ポストゲノムプロジェクトも視野にいれる見方もあって、これだとエリック・ランダーも充分受賞資格があると思う。

文句のある人も多かろう。いろんな意見で侃々諤々となるのがゲノムプロジェクトの偉大なところなのだ。それだけ貢献者は多い。科学への真の貢献者が誰なのか?肝心なのはそこである。

ノーベル賞の権威を保つというのは、ノーベル賞にとってもっとも大事な役割であろうが、あっといわせるような受賞を期待したいものだ。








2013年9月15日日曜日

久しぶりの耳鼻科イメージ:NEJM

日本人でNEJMのimages in clinical medicineに登場した方々はいろいろいらっしゃるが、その中で耳鼻科のプレゼンテーションはかなり目立つ。多摩医療センター耳鼻科の渡邊先生による3回のプレゼンはあっぱれであった。

今週号のNEJMを見て「おぉ!」と思ったのは、一見して鼓膜であり、耳鼻科であることがわかったからだ。また渡邊さんなのかと思ったが違った。今回は埼玉医療センターの大木さんである。病態のことはよくわからないが、きっと珍しいものなのだろう。日本の耳鼻科医は頑張りますね。

Images in Clinical Medicine

Hyperectasis of the Tympanic Membrane

Masafumi Ohki, M.D.
N Engl J Med 2013; 369:1046September 12, 2013

大木 雅文
講師 耳鼻咽喉科学、
耳科学、平衡神経学
埼玉医療センター



A 44-year-old woman presented with bilateral ear fullness. She had been given a diagnosis of atelectatic tympanic membranes several years earlier and had been advised to perform the Valsalva maneuver, which raises the air pressure in the nasal cavity and aerates the middle-ear cavity through the eustachian tube, leading to temporary disappearance of the sensation of ear fullness. She continued to perform the Valsalva maneuver four times a day for 6 years. On examination, the tympanic membranes were ballooned outward with no signs of effusion or inflammation in the tympanic cavity (Panels A and B; 5 hours after the last Valsalva maneuver). An audiogram (Panel C) showed mild conductive hearing loss on the right (o symbols) and normal hearing level on the left (x symbols); the brackets delineate the normal range. Bilateral hyperectasis of the tympanic membrane was diagnosed, most likely resulting from excessive performance of the Valsalva maneuver. The patient was directed to perform the maneuver gently only once a day as needed. The ballooning of the tympanic membranes diminished 1 month later.

          菊池さんの名前がないのが、小生には不思議であるが、これは医療文化の違いなのだろう。