2013年3月9日土曜日

銀座のイエナ書店


銀座というのは地方出身の私たちには大変わくわくする街であった。実は今もワクワクする。小生が初めて銀座に行ったのは、白黒ゴジラが有楽町を破壊して数年たったころであろうから、もはや戦争の傷跡は癒された頃なのだろう。朝日新聞は有楽町にあったし、数寄屋橋には赤尾敏がいたころだ。

大学に入った時分、銀座に行く楽しみは「近藤書店+イエナ」であった。洋書店というのは、当時は通常余程大きな都市にしかなかった。だから大都会の記号の一つだったわけさな。その中でもこのイエナというのは洋書店の中でも老舗の一つで、全国的にも有名であり、だから小生初めて「意識して」イエナに行った時は興奮したものだ。ところがどこにあるのかがわからない。ようやく見つけたビルの、その一階は「近藤書店」という普通の、というか普通よりかなり小さなたたずまいの本屋、その階上にイエナはあった。随分わかりにくい構造なのだ。(ちなみにこれは同じ銀座の教文館に絵本あるいはキリスト関連の書物を探しにいく人も同様だったろう。教文館も一階は小さな狭い本屋だったもの)

イエナで当時の大学生が感激したのは、画集や写真集であった。これは日本の書籍では手に入らないものだったからね。ただし高価だったから見るだけなのね。本屋に行って感激することはその後を含めてもそうそうなく、その次の興奮は数十年後にボストンの本屋さんやニューヨークのDoubleDayやリゾーリに行ったときだろうかな。リゾーリはこれも画集や写真集が良い本屋であるから、見つけた時は胸が高鳴った。ボストンの本屋では、第二次大戦の会戦地図集というのを手に入れたが、これはマニアックであった。例えばノルマンジーの上陸作戦なら系時的に何枚もの地図が連続して続いていくのだ。何ページにも渡って。ダンケルクの戦いの凄さなどもわかる。

例えば太平洋戦争中に日本は米軍から空襲を受けたというのは当然皆知っているが、これがいつからいつまで続いて、どの都市がいつどれくらいの規模の爆撃を受けたかなどという地図を見たことがある方がおられるだろうか?

この会戦地図には、それは事細かな空襲地図が(もちろん日本地図)が掲載されている。何月何日何時から新潟。翌日は北九州といった具合である。 戦争の悲惨さを後世に残そうとするのなら、このような記録を教育の過程で生徒に提示すべきではなかろうか?ただただ丹念に歴史的経過が時間軸をたよりに綴ってある地図だけに、幾百の説明記述より多くのことが伝わってくるというものだ。この空襲の系時的地図の最後はもちろん、あの二発の「新型爆弾」 で終わるのだ。

ボストンの本屋で手に入れた写真集で今でも大事にしているのが、世界の巨匠指揮者の写真集である。二キッシュやヨッフム、クレンペラーを初めとしてまだ若いバレンボイムあたりまでが載っている。ほとんどが白黒であるが、これがいい。こういった写真集はやはりなかなか日本では手に入らない(入らなかった)。

さて洋書店であるが、なかなか難しいことになっているだろうことは大いに予想できる。昔は必ず買っていた層が買わなくなっているからなあ。医学書で今でも「定番」といっていいのはおそらくハリソンやセシルくらいではないだろうか?外科ではザビストンやシュワルツが定番であるが、どうであろう、今時洋書教科書を買う外科医がいるだろうかね。分子遺伝/生物学ならば良い本はすぐに翻訳が出るので、洋書を買わなくても済む。今は翻訳も随分ましになってきたし。

画集・写真集 は洋書にいいものがいっぱいある。この領域が最後のとりでかもしれないな。画集・写真集はネットでは買わないから、やはり本屋で手に取りたいものだ。洋書屋さんがなんとか生き延びていってほしいものです。これを読んだ人は、洋書は本屋で買ってくださいな。donationくらいのつもりで皆さん本屋で買いましょう。





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