2013年2月7日木曜日

VogelsteinらのPNAS: 2013年2月5日号

PNAS  February 5, 2013 vol. 110 no. 6 1999–2004

Half or more of the somatic mutations in cancers of self-renewing tissues originate prior to tumor initiation

  1. Giovanni Parmigiania,b,1 
  2.  
    Abstract Although it has been hypothesized that some of the somatic mutations found in tumors may occur before tumor initiation, there is little experimental or conceptual data on this topic. To gain insights into this fundamental issue, we formulated a mathematical model for the evolution of somatic mutations in which all relevant phases of a tissue’s history are considered. The model makes the prediction, validated by our empirical findings, that the number of somatic mutations in tumors of self-renewing tissues is positively correlated with the age of the patient at diagnosis. Importantly, our analysis indicates that half or more of the somatic mutations in certain tumors of self-renewing tissues occur before the onset of neoplasia. The model also provides a unique way to estimate the in vivo tissue-specific somatic mutation rates in normal tissues directly from the sequencing data of tumors. Our results have substantial implications for the interpretation of the large number of genome-wide cancer studies now being undertaken.
     
     
これは面白い論文である。過去5年の研究で癌組織(細胞)の遺伝子変異は20個内外のdriver変異と50〜100個のpassenger変異を認めることが広く知られるようになったが、このうちpassenger変異の多くは、その腫瘍が「がん化する前に」に蓄積されているという主張が本論文の要旨である。このストーリーが成り立つのは、大腸癌、子宮体がん、慢性リンパ性白血病、脳腫瘍(Glioblastome, Mudduloblastoma)などである。ところが膵癌では成り立たず、更に興味深いことに、乳癌でも成り立たないのだそうだ。何故かについては一応論文中に説明がある。

なおここでのがん化 (tumor initiation) とは、最初のdriver変異が起こる時点のことを言う(定義されて初めて議論が成立するが、この論文においてはそのような定義である。これはこれで良しとしよう。)

がん化する前に、どこでどのようにclonalityを維持しながら、変異を蓄積していったかが興味深いが、それについては触れていない。 まあ組織のステムセルであろうと予想されるが、触れていないのだ。想像力をかき立てるという意味で、極めて刺激的で面白い論文である。 

Vogelsteinらは実験はしていない。Cancer Atrasなどの既存のデータを元に数理解析しているだけだ。この数理解析の結果は簡単に言うと

種々の癌での変異個数を調べると、その個数は診断時の年齢に比例する

というのが単純な結論である。

一昨年だったか子供の腫瘍、脳腫瘍の髄芽腫では変異遺伝子数が少ないという論文が出たが、これなど子供だから生まれて変異を蓄積する時間が充分ないということを意味する。


  1. 「長らく生き延びることの出来る細胞から癌は出来ていく」
  2. 「リニューアルの可能な細胞が癌化の元になる」 
  3. 「そのような細胞は生まれたときからずっと体内、組織に存在し続ける(あるいはゲノムを受け渡しながら、生き延びる)」
  4. 「パッセンジャー変異の数とは、一つの細胞が生まれてから蓄積していく突然変異の総和を表すのかもしれない」

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