2012年11月28日水曜日

癌遺伝子耽溺:Oncogene Addiction

ちらっ、ちらっと視界に入るのだが、食指が伸びない概念の一つがOncogene Addictionという言葉であった。癌遺伝子中毒と訳されているようで、最近日本語に敢えて翻訳された珍しい医学用語である。小生は耽溺や依存がより良いと思いますがな。
この言葉、最初に聞いたときは「当たり前やん!」と思ったし、その後は「業界」での使われ方からして全く納得がいかない、つまり、役に立たない言葉のような気がしていた。

ところで最近、この言葉の周辺を探る必要があり、提唱者のBernard Weinstein教授の3本の総説を読んで、あるいは教科書を読んで、なるほどと納得がいったことが若干あるのでまとめてみた。

使いようによっては「Oncogene Addiction」はなかなか魅力的な言葉だが、誤解されやすい言葉でもある小生の「まとめ」は極論であるから注意されたし。

とはいえ、このくらい限定しないとこの「素敵な言葉」の切れ味は発揮されないと思うのだ。

  1. Weinstein教授は癌細胞株のcyclinD1の研究をしていた。この株はcyclinD1の発現量が過剰であり、この発現量を下げる工夫をしてみたところ、若干下げた段階で細胞は死んだ。健常発現レベルよりは随分高いレベルであるが死んだのだ。Weinstein教授は考えた。「この細胞が癌としての性質を維持するためには、高い量のcyclinD1が必要であり、この量を少し減らしても癌は自分を維持できない。正常細胞に戻ることもできない。死ぬ。この事象が示唆することは『癌細胞の中にはある特定の一つの遺伝子に依存してしまうものがあるらしい』ということである。1990年代後半のことである。
  2. これをWeinstein教授は直ちにOncogene Addictionと名付けたわけではない。
  3. これが概念として世に広がったのは、グリベック(1995年以来のDrucker )の華々しい治療成績があるのだ。なにしろグリベック単独投与で慢性骨髄性白血病細胞(CML)を(ほとんど)根絶できるのだから。このグリベックがBcr-Ablをターゲットにしている分子標的薬剤の皓歯であることは広く知られる。
  4. Bcr-Ablをターゲットにして グリベックは開発されたが、開発初期にこれがヒトCMLに投与されたとしてここまで効果があるとは誰も思っていなかったはずである。たった一つの遺伝子変化に癌化が依存しているなんて、当時の多段階発癌セオリーからしても考えにくいことだったはずだ。
  5. であるのに実際は臨床現場で効果が絶大であった。CMLにも個人間での多様性があるはずであるが、Bcr-Ablには例外なく依存していることがわかったわけである。
  6. これがOncogene Addictionの正しい概念を創出する現象であり、臨床的定義だったのである。
  7. 治療をするまではわからないのである。その腫瘍がある遺伝子に依存しているかどうかは。
  8. 小生がなるほどと納得いったのはこの「治療をするまでわからない」ということと、もうひとつ
  9. この世で Oncogene Addictionがあると認めてよいのはCMLにおけるBcr-Abだけのようであること。
  10. 変異をおこしたDriver遺伝子や融合遺伝子のなかに Oncogene Addictionを持つ治療の絶好のターゲットがあることは間違いない。ただし安易に Driver遺伝子や融合遺伝子をしてOncogene Addictionがあるかのような早とちりをしているヒトが多いのだ・・・・小生がOncogene Addictionという概念が胡散臭いと思っていた最大の理由はどうやらここにある。
  11. 臨床で治療をしてグリベックなみに効果が認められて初めて「耽溺」の栄冠は与えられるのだ。

  12. マウスのcondition knock in/out系の実験結果はヒト臨床系で再現されるまで評価しないこととする。きびしいな、我ながら。 
  13. もっとも最近では最新のいろんな指標でこの 「耽溺」を予想するプロジェクトがあるらしい。一つはAMLのMLL-AF9融合遺伝子が候補のようであるが如何・・・

2012年11月27日火曜日

世界便秘サミットやってほしいな:新しい便秘薬が登場

新しい便秘薬が登場したようだ。便秘薬は種類がいくら多くてもよい。最近は風邪の本が大流行り(たとえばこの本)だが、便秘の本も作ると売れると思いますな。意外と奥が深いのがこの領域である。

食事・運動が大事である。了解、了解、わかっております。便通を整える食事・適度の運動が第一であることなどわかりきったことでありまするが、外来ではそんな条件さえ整えられない多くの患者殿を相手にしているわけだから現実的に考えてみたい。
  1. 薬剤の選択は? 酸化マグネシウム、センノシド(プルセニド)、アローゼン、ラキソベロン、マグコロール、(ヒマシ油)、テレミンソフト、レシカルボン、グリセリン浣腸、etc
  2. 漢方薬の使い方は?麻子仁丸、潤腸湯、大建中湯、大承気湯、桂枝加芍薬湯、etc
  3. 諸外国でどのように対応しているのか? アメリカはどうだろう、ドイツはどうだろう、ロシアは・・・?中国、韓国、ミャンマー、インドは?
3番の視点で医療サイドから出されている出版物があれば拝見したいものだ。各国の医者が集まって「世界便秘サミット」を行い、 プロシーディングでも出たら小生金を出しても買いたいと思うが。小生が知らないだけで、そんな情報は既にあるのかもしれませんが・・・・

 さてさてそのような中、 新しい便秘薬が売り出された。

慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の効能・効果で、ルビプロストン(商品名アミティーザ)の製造販売。慢性便秘症に適応を獲得したのは同薬が初めて。米SUCAMPO Pharmaceuticals社(メリーランド州)が開発した薬剤で、国内の販売はアボット ジャパンが担当する。薬価収載を受けて、平成24年11月22日に発売された。この薬、腹痛がないのだと。

ただねえ、この薬高すぎますな。

アミティーザカプセル24μg 1カプセル 156.60円
用法・用量は、1回1カプセル1日2回なので1日当たり313.2円。一ヶ月でほぼ一万円である。
 センノシド(プルセニド)は一錠5円なので普通2錠飲むとしても一ヶ月でほぼ300円。
これではあんまりだ。



2012年11月24日土曜日

子宮筋腫で変異率の高いMED12が今度はCellに・・・

子宮筋腫で変異率の高いことで当ブログで紹介したMED12が今度はCellの論文になっている。いろいろな腫瘍での薬剤耐性に関与するとの報告のようだ。良性疾患である子宮筋腫で極めて変異率が高い遺伝子として報告されたMED12である。小生は気になって仕方がないのである。




















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2011年8月27日土曜日 

子宮筋腫の7割にMED12遺伝子の突然変異がある:フィンランドのAaltonenの報告 

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 Cell, Volume 151, Issue 5, 937-950, 21 November 2012

MED12 Controls the Response to Multiple Cancer Drugs through Regulation of TGF-β Receptor Signaling

Authors 

Sidong Huang, Michael Hölzel, Theo Knijnenburg, Andreas Schlicker, Paul Roepman, Ultan McDermott, Mathew Garnett, Wipawadee Grernrum, Chong Sun, Anirudh Prahallad, Floris H. Groenendijk, Lorenza Mittempergher, Wouter Nijkamp, Jacques Neefjes, Ramon Salazar, Peter ten Dijke, Hidetaka Uramoto, Fumihiro Tanaka, Roderick L. Beijersbergen, Lodewyk F.A. Wessels, René Bernards

(著者の中に産業医科大学の先生がいるのは誰だ?)

Summary

Inhibitors of the ALK and EGF receptor tyrosine kinases provoke dramatic but short-lived responses in lung cancers harboring EML4-ALK translocations or activating mutations of EGFR, respectively. We used a large-scale RNAi screen to identify MED12, a component of the transcriptional MEDIATOR complex that is mutated in cancers, as a determinant of response to ALK and EGFR inhibitors. MED12 is in part cytoplasmic where it negatively regulates TGF-βR2 through physical interaction. MED12 suppression therefore results in activation of TGF-βR signaling, which is both necessary and sufficient for drug resistance. TGF-β signaling causes MEK/ERK activation, and consequently MED12 suppression also confers resistance to MEK and BRAF inhibitors in other cancers. MED12 loss induces an EMT-like phenotype, which is associated with chemotherapy resistance in colon cancer patients and to gefitinib in lung cancer. Inhibition of TGF-βR signaling restores drug responsiveness in MED12KD cells, suggesting a strategy to treat drug-resistant tumors that have lost MED12. 

過去二年のMED12について参考文献を掲載しておく。
  1. Makinen N, Mehine M, Tolvanen J, et al.:  MED12, the mediator complex subunit 12 gene, is mutated at high frequency in uterine leiomyomas. Science; 334:252-255,2011
  2. Makinen N, Heinonen HR, Moore S, et al.:  MED12 exon 2 mutations are common in uterine leiomyomas from South African patients. Oncotarget; 2:966-969,2011
  3. Barbieri CE, Baca SC, Lawrence MS, et al.:  Exome sequencing identifies recurrent SPOP, FOXA1 and MED12 mutations in prostate cancer. Nature genetics; 44:685-689,2012
  4. Markowski DN, Bartnitzke S, Loning T, et al.:  MED12 mutations in uterine fibroids--their relationship to cytogenetic subgroups. International journal of cancer; 131:1528-1536,2012
  5. McGuire MM, Yatsenko A, Hoffner L, et al.:  Whole exome sequencing in a random sample of North American women with leiomyomas identifies MED12 mutations in majority of uterine leiomyomas. PloS one;7: e33251,2012
  6. Perot G, Croce S, Ribeiro A, et al.:  MED12 alterations in both human benign and malignant uterine soft tissue tumors. PloS one; 7:e40015,2012

    3番目の論文は前立腺癌であり・・・
Nat Genet. 2012 May 20;44(6):685-9.

Exome sequencing identifies recurrent SPOP, FOXA1 and MED12 mutations in prostate cancer. 

Barbieri CE, Baca SC, Lawrence MS, Demichelis F, Blattner M, Theurillat JP, White TA, Stojanov P, Van Allen E, Stransky N, Nickerson E, Chae SS, Boysen G, Auclair D, Onofrio RC, Park K, Kitabayashi N, MacDonald TY, Sheikh K, Vuong T, Guiducci C, Cibulskis K, Sivachenko A, Carter SL, Saksena G, Voet D, Hussain WM, Ramos AH, Winckler W, Redman MC, Ardlie K, Tewari AK, Mosquera JM, Rupp N, Wild PJ, Moch H, Morrissey C, Nelson PS, Kantoff PW, Gabriel SB, Golub TR, Meyerson M, Lander ES, Getz G, Rubin MA, Garraway LA. Source Department of Pathology and Laboratory Medicine, Weill Cornell Medical College, New York, New York, USA.

Abstract

 Prostate cancer is the second most common cancer in men worldwide and causes over 250,000 deaths each year. Overtreatment of indolent disease also results in significant morbidity. Common genetic alterations in prostate cancer include losses of NKX3.1 (8p21) and PTEN (10q23), gains of AR (the androgen receptor gene) and fusion of ETS family transcription factor genes with androgen-responsive promoters. Recurrent somatic base-pair substitutions are believed to be less contributory in prostate tumorigenesis but have not been systematically analyzed in large cohorts. Here, we sequenced the exomes of 112 prostate tumor and normal tissue pairs. New recurrent mutations were identified in multiple genes, including MED12 and FOXA1. SPOP was the most frequently mutated gene, with mutations involving the SPOP substrate-binding cleft in 6-15% of tumors across multiple independent cohorts. Prostate cancers with mutant SPOP lacked ETS family gene rearrangements and showed a distinct pattern of genomic alterations. Thus, SPOP mutations may define a new molecular subtype of prostate cancer.

2012年11月23日金曜日

マンモグラフィーの微妙な位置づけ:最新のNEJM

乳癌のスクリーニングにマンモグラフィーが導入されて諸外国では乳癌死亡率が減少したといわれてきた。日本でも遅ればせながらマンモグラフィー・スクリーニングが導入されているが、実施率は低いレベルのままである。あのいい加減な国であるアメリカの実施率が日本より遥かに高いのは何故なのか。日本の実施率の低さは何故なのか?
というようなことが、問題・課題であったのが(あるのが)乳癌検診である。 

今回そのマンモグラフィーの役割に大きな影響を及ぼすであろう論文がNEJMに載った。

その論旨は「マンモグラフィーによる乳癌早期診断スクリーニング検査は、その国の乳癌死亡者を減らすことには、ほとんど役に立っていない」というものだ。

これは充分議論を尽くすべきテーマである。「この論文によって、スクリーニング・マンモグラフィーが無くなる(勧奨されなくなることにより)ことで、乳癌死亡者が今後大幅に増加すると危惧する“多くの”意見も当然ある」 更に医療政策策定側のミスリード(財政支出を減らしたい)であるという反論も当然あろう。

一方検診に対する過度の期待をしていないグループによる賛成の声もあろう。

小生としては「わかりやすい論文であるが故に、どこかに落とし穴がないか不安である」という意見、というより印象である。医療行政に大きな影響力のあるこのような論文は、いろいろな立場の専門家が意見を述べてくれないと、判断が難しい。といいながらも、なんだか残念な研究結果だなとも思う。思いっきり「違うぞ!こんな論文に引きずられるな!』という意見も聞きたい。

日本の今後の乳がん検診への影響も必須であるから、乳癌専門家にはしっかりとした見解を述べてほしいものだ。


N Engl J Med 2012; 367:1998-2005
November 22, 2012

Effect of Three Decades of Screening Mammography on Breast-Cancer Incidence 

Archie Bleyer, M.D., and H. Gilbert Welch, M.D., M.P.H.

Results 
The introduction of screening mammography in the United States has been associated with a doubling in the number of cases of early-stage breast cancer that are detected each year, from 112 to 234 cases per 100,000 women — an absolute increase of 122 cases per 100,000 women. Concomitantly, the rate at which women present with late-stage cancer has decreased by 8%, from 102 to 94 cases per 100,000 women — an absolute decrease of 8 cases per 100,000 women. With the assumption of a constant underlying disease burden, only 8 of the 122 additional early-stage cancers diagnosed were expected to progress to advanced disease. After excluding the transient excess incidence associated with hormone-replacement therapy and adjusting for trends in the incidence of breast cancer among women younger than 40 years of age, we estimated that breast cancer was overdiagnosed (i.e., tumors were detected on screening that would never have led to clinical symptoms) in 1.3 million U.S. women in the past 30 years. We estimated that in 2008, breast cancer was overdiagnosed in more than 70,000 women; this accounted for 31% of all breast cancers diagnosed. 

米国で乳癌検診スクリーニングにマンモグラフィーが導入されたことで早期乳癌の発見数は二倍になった。すなわち10万人女性あたり年間112人だったものが234人への増加となっている、絶対数では10万人あたり122人の増加である。同時に進行癌の発見率は8%低下しーすなわち10万人女性あたり年間102人だったものが94人に低下しー絶対数では10万人あたり8人の減少をみた。乳癌の発症が一定の割合で続いていたと仮定すると、上記122人の早期発見者のうち(従来であれば)進行癌に進展したと考えられるのはわずか8人ということになる。過度のホルモン治療や40歳未満乳癌の最近の動向を除外してみよう。そこから推定されること:

「過去30年間に米国女性のうち130万人が乳癌との過剰診断を受けていたということである。」

この130万人は乳癌検診スクリーニングで乳癌と診断されたものの、本来臨床的症状を発症することは決してなかったであろう。我々の推計では2008年一年間で、7万人以上の米国女性が乳癌であるとの過剰診断を受けており、これはその年乳癌と診断を受けた患者の31%に達することになる。 

以上が当論文の結果であり、以下が結論。 

Conclusions
Despite substantial increases in the number of cases of early-stage breast cancer detected, screening mammography has only marginally reduced the rate at which women present with advanced cancer. Although it is not certain which women have been affected, the imbalance suggests that there is substantial overdiagnosis, accounting for nearly a third of all newly diagnosed breast cancers, and that screening is having, at best, only a small effect on the rate of death from breast cancer. 


早期乳癌の発見数が充分増加しているとはいうものの、マンモグラフィーによるスクリーニングで進行乳癌を減少させる効果は限定的である。早期発見者が充分増えているのに、進行乳癌発見があまり減っていないというバランスの悪さはどこに由来するのかーーーー推察するにこれは「新たに乳癌と診断を受けた患者のほどんど3分の1が過剰診断であったということなのだろう」。

マンモグラフィーによるスクリーニングで乳癌の死亡者数を減らすことはほとんど出来ない。

2012年11月17日土曜日

もちを詰まらせたー> ご家庭用の救命器具があるんだね

毎年恒例の餅による窒息の季節がやって来た。今朝の出勤前に医療関係フォーラム(m3.comカンファレンス )を見ていたら餅窒息のテーマに気がついた。医者になる前はハイムリッヒか緊急気管切開を、医者になってからは「掃除機で吸い出せ!」「気管に18Gの針を三本刺せ」というのを知った。やったことがあるのは、ハイムリッヒと挿管(あるいは気切)であるが、これは病院だからだ。家ではどうするかしら。やはり掃除機であろうが、なんせやったことがないから、あの直線的な器具が果たして曲がった気道に役に立つか心配だ。フォーラムでなるほどと思ったのは「掃除機のスイッチは最後に入れること」というのである。これは意識していなかったが、そうかもしれないね。

さて、世の中には便利な器具があることがこのフォーラムで紹介されていた。
















本当に役に立つとすれば素晴らしい。2500円らしい。どうでしょう、一家に一本常備するというのは。

http://imamura.shop-pro.jp/?pid=18241259
でどうぞ。

2012年11月14日水曜日

active LINE-1のゲノムマップ(2003年のPNAS)

故きを温ねて新しきを知る

次のマップは今から10年前、2003年にペンシルバニア大学Kazazian教授のところから出たactive LINE-1のゲノムマップである。(今年のENCODE関連の論文と比較すると面白いかもしれない)

PNAS vol. 100 no. 9 5280-5285 

Hot L1s account for the bulk of retrotransposition in the human population

Brook Brouha, Joshua Schustak, Richard M. Badge, Sheila Lutz-Prigge, Alexander H. Farley, John V. Moran, and Haig H. Kazazian, Jr.

このマップの上にはすでに90個のactive LINE-1がマップされている。この論文を参考文献としてその後どのような論文が出ているか、ざっと網羅した(下記) 。 active LINE-1には当然プロモーターがあるが、このメチレーションstatusについてはブームのようでここのところ様々な論文が出ている。どのLINE-1がターゲットになっているんだろうね。

小生の知る限り、個々のプロモーターについて個別にメチル化解析をした論文は余りないように見えるのだ。10年前には、このようなマップが既に報告されているのだが、そのことは余り意識されずに LINE-1メチル化研究が進んでいるように見える。どうもすっきりしないなあ。























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2012年11月13日火曜日

クインケの浮腫

全身どこに症状が出てもおかしくないのに、ある一定の臓器・器官にきまって発現する場合その病態には「名前がつく」ことが多い。例えば蕁麻疹である。一般に蕁麻疹は全身の皮膚に出る。地図状の膨疹であり紅斑を伴い、なんといっても痒い。この蕁麻疹の一種であるが「血管性浮腫」と呼ばれる病態がある。顔面特に唇や眼瞼に多いと報告されている。

これまでの説明では蕁麻疹の一分症として「血管性浮腫」が含まれる・・・とされてきたがどうであろう。ヒスタミン遊離で血管が拡張し、血漿・リンパ液が間質にあふれて浮腫を起こすことが「蕁麻疹」であろうから病理形態学的には蕁麻疹=血管性浮腫でなんら差し支えないはずである。蕁麻疹はすべからく皆「血管性浮腫」のような気がするが、まああまり突っ張らないようにしよう。

さて、話を簡単にしようと思ったのだが、かえって混乱して来たな。蕁麻疹の中に「名前がつく」ものがあるというのが、テーマであった。そのようなものの中に「クインケの浮腫」がある。血管性浮腫であり顔面に出るものをこのように呼ぶようだ。

最近これに悩まされている。

誰がって?小生自身がである。

悩まされながら発作が終わると不思議なんだな、これが。決まって上唇に出るのが小生のパターンである。痒くはないが、厚く腫れぼったくなり、困るのは人相が変わることだ。半日から一日続く。だから外来はマスクをしています。

最初に発作が出た時は鏡を見て「あれこれは浮腫ではないか。まてよ 「クインケの浮腫」か、これが」と思った。次に「クインケの浮腫」に出会ったのはNEJMであった。Angioedemaであった。ご覧になった方も多かろう。

理由がよくわからないので、じっくりいくつかの検査をしている。一般血液検査 では全く異常がない。IgEとやらを測ってみたがやはり高い。570〜と出た。書き忘れたが、蕁麻疹そのものも出るのでアレルゲンテストもしたが、これが魚関係で複数陽性となる。というわけでしばらく「刺身」を食べていない。しばらく「寿司」と縁がない。生さかなを食べなくなってからも時々「クインケの浮腫」になるので悩ましいのだ。

口の悪い仲間からは「さかなが食べられなくなったら、俺ならば生きる意欲を失うね」と言われるが、一方「口唇で良かったじゃないの、お前さん、喉頭とかが浮腫ったら大変よ」とか言われると、「ああそうか、そうだよね」とも思う。

N Engl J Med

2012; 367:1539
October 18, 2012
 
Images in Clinical Medicine

Disfiguring Angioedema 

Didier G. Ebo, M.D., and Chris H. Bridts, B.Sc. 

























ベルギーのこの方は遺伝性の血管浮腫だったとのことである。小生も補体を調べておく必要はあるな。

2012年11月4日日曜日

最近 c-myc が騒がしいことにお気づきであろうか?

詳細は明日以降再掲するが、とにかく c-myc が騒がしいことになっている

<お話しその壱>
一つは  c-mycが発現すると、ありとあらゆる発現遺伝子はおしなべて、なべて等しく、強発現しますよ・・ということを実験的に主張している人たちがいるということである。

それがどうした・・・と言われそうだが、ちょっと待ってくれ。

彼らが強く主張することが、アレイ発現遺伝子解析のこれまでの結果には重大な疑義があるというのだから穏やかではない。

 Cell 151, 476-   October 26, 2012

Revisiting Global Gene Expression Analysis 












上の段が「これまでのc-myc」一番左遺伝子B,Fに影響を与えている。アレイの解釈が一番右、B,Fは確かに発現↑
下の段は「最近の c-myc」」:全ての発現遺伝子をドライブしている。発現量の微細な「ブレ」がアレイの結果に影響。

彼らの主張:.....Levens says, that he proposed “with a great deal of trepidation” that a cancer-promoting Myc doesn't activate specific genes, as had been assumed for years. Instead, he argued, it works like a “universal” switch to boost RNA output by all genes expressed in a cell......


彼らの更なる主張:「アレイ実験は全部やり直せ、特に癌はいかん。癌細胞では大抵mycは発現上昇しているからな。これまでのデータ、およびそれから得られたストーリーには疑義があるぞ」

実に穏やかでない主張である。無視できない主張となっていくのか今後注目していきたいと思う。


<お話しその壱>
多くのがんでGWASの結果が染色体8番の長腕8q24に集まることは良く知られた事実である。遺伝子多型解析で最も関連する多型がこの場所にあるということである。具体的なSNPsとしてはrs6983267が有名である。

問題はこの場所が遺伝子砂漠であること。偽遺伝子が3つ。あとは350kbくらい離れたところに大御所c-mycが鎮座していることは知られているが直接効果としては離れすぎている。当初からこのc-mycとrs6983267を結びつけようという研究はあったが、今回ついにその連携が本物らしいという報告がサイエンスに登場した。

元ネタは3年前のLauri A AaltonenのNature Genetics  の論文であるが、今回のお話しはrs6983267を含む狭い領域(この領域がmycのエンハンサーであるというのが骨子である)をCre-LoxPで除去したマウスをminAPC発癌マウスと掛け合わせると明らかに大腸での発癌イベントが減少するというお話しである。作者はやはりフィンランドのAaltonenのグループのようだ。

Science Published online 1 November 2012

 Mice Lacking a Myc Enhancer That Includes Human SNP rs6983267 Are Resistant to Intestinal Tumors 

Inderpreet Kaur Sur,Outi Hallikas,Anna Vähärautio,Jian Yan,Mikko Turunen,Martin Enge,Minna Taipale,Auli Karhu,Lauri A. Aaltonen,and Jussi Taipale

小生のコメント:これまで長い間 c-mycの扱いは微妙だったと思うのだ。細胞生物学全般では主役の一人だったかもしれないが、がん研究特に2000年以降のポストゲノム研究、特に臨床 がん研究では生彩を全く欠いていたと思うのだ。膨大なデータのどこにもmycは現れない。

しかし今回のこの2つの研究でmycはいきなり主役級に返り咲くかもしれないと思うようになった。これは2000年以降、最大の「発見」かもしれない。(といいながら、半分くらいしか信じていない小心者の小生ではあるが....)