2012年4月30日月曜日

上皮ターンオーバー機序の新しい説明:nature 2報

上皮ターンオーバーは実に微妙に調節されていることは日常感ずるところである。分子生理学的な細妙なチューニングもあるし、もっと大胆な再生もある。あるはずだ。実にこの生理的再生は興味深いし、一筋縄ではいかない。

体内の上皮細胞再生について、知っておいて良いのに、皆が知らないことがあるので、触れておく。つまり・・・・・・

  1. 正常細胞の増殖スピードについて、多くのヒトは勘違いしていることがある。体内では癌細胞の分裂速度は正常細胞の分裂よりは圧倒的に遅いという事実である。

  2. たとえば手術前に私たちは胃癌の診断をするために、胃内視鏡を使って胃癌組織をかじる。術後に切除胃を顕微鏡で調べると、穿った孔(生検のために)を覆っている再生上皮は、決まって正常胃粘膜上皮なのである。癌のど真ん中を狙って削り取るのであるから、埋め草は癌細胞であろうと思うのが自然であるが、実はそうではない。どこからやってくるのか興味津々であるが、穿たれた孔を覆い尽くすのは「正常胃粘膜である」

  3. もちろん時間が経ってしまうと、節操のない癌細胞の増殖によって、この「臨時のパッチ」は置き換えられてしまうことは否定できないので、生検から時間が経って切除された病理組織では、この現象は確認できないと思う。すべての生検イベントで確認できる事象ではないということだ。

  4. 臨床医以外は(あるいは外科医や内視鏡医や病理医以外)はこのことを知らないと思う。基礎の癌研究者もおそらく知らないと思う。

  5. このことを病理の医者はもっと、もっと一般に広報したほうが良いと思う。こんな大事なことがあまり知られていないというのは、ゆゆしきことだ。

  6. 生検は診断のために必須である。当然倫理的であり、無用の侵襲ではない。であれば倫理的に許される臨床試験が可能ではないか?。このシステムで、正常細胞と癌細胞のせめぎ合いを検討する臨床ー病理の統合研究ができないものかね?

さて、上皮再生機序の新しい説明が今週号のnatureに 2報でた。
natureが草稿を受け取ってから公開されるまで1年経つ論文であるから、随分紆余曲折あったのではないかと思うが、いずれにせよ面白い。面白いので日本語のアブストラクトを引用した。


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Nature 484, 542–545 (26 April 2012)
   Received 24 March 2011
   Accepted 23 February 2012
   Published online 15 April 2012

生理:生きた細胞層の剥離は上皮の増殖を相殺して、組織の過密化を制限している
Live-cell delamination counterbalances epithelial growth to limit tissue overcrowding

Eliana Marinari, Aida Mehonic, Scott Curran, Jonathan Gale, Thomas Duke & Buzz Baum
  • 上皮の発生と維持においては、増殖と細胞死の速度を精密に釣り合わせる必要がある。しかし、組織の増殖の適正なフィードバック制御を確実に行う機械的、生化学的機序については、これが脱調節すると腫瘍形成につながるにもかかわらず、ほとんど解明されていない。今回我々は、ハエの胸背板をモデル系として、密集によって誘発される細胞層の剥離という新規な過程を見いだした。この過程が増殖と釣り合うことで、細胞の十分に秩序立った詰め込みが起こる。組織中の細胞が密集した領域では、一部の細胞で細胞間結合が順次失われて、頂端領域がしだいに消失し、隣接する細胞群から押し出される。このような剥離に至る道筋 は、システムが平衡に向かう傾向があるために確率論的な細胞消失によって過密が解消されるという上皮系の単純なコンピューターモデルで再現できる。この剥離過程は、アポトーシスを介して起こる細胞の押し出しとは機構的に異なり、細胞死の最初の兆候よりも前に起こることが明らかになった。総合すると、今回の解析は、増殖の変動に抗して上皮を守る単純な緩衝機構があることを明らかにしている。生きた細胞層の剥離は、上皮過形成と細胞の浸潤とを機構的に結びつけ ているものの1つであり、がんの発生の初期段階を理解するうえで重要な意味を持つ可能性が高い。
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Nature 484, 542–545(26 April 2012)
   Received 24 March 2011
   Accepted 23 February 2012
   Published online 15 April 2012

上皮では過密化が生細胞の押し出しを引き起こして恒常的な細胞数が維持される
Crowding induces live cell extrusion to maintain homeostatic cell numbers in epithelia

George T. Eisenhoffer, Patrick D. Loftus, Masaaki Yoshigi, Hideo Otsuna, Chi-Bin Chien, Paul A. Morcos & Jody Rosenblatt
  • 上皮が保護的障壁となるためには、分裂する細胞の数と死滅する細胞の数とを合わせることで細胞数を恒常的に維持しなくてはならない。死にゆく細胞は、その消失を補う細胞分裂を引き起こすことができるが、増殖による過密化を細胞死が救済しうる仕組みは知られていない。上皮でアポトーシスを誘発すると、死にゆく細胞が押し出されて障壁機能が維持される。押し出しは、死にゆく細胞が周囲の上皮細胞にアクトミオシンリングを収縮するためのシグナルを送り、この収縮によって死細胞が閉め出されることによって引き起こされる。

  • しかし、正常な恒常状態にある際に何が細胞死を引き起こすかは不明である。今回我々は、ヒト、イヌ、セブラフィッシュの細胞では、増殖と遊走による過密化が生細胞の押し出しを誘導し、これによって上皮細胞数が制御されることを示す。生細胞の押し出しは、 in vivo では最も密集度が高い部位で起こり、 in vitro では実験的に過密化させた単層によって引き起こされる。アポトーシス細胞の押し出しと同じく、過密化によって起こる生細胞の押し出しも、スフィンゴシン1–リン酸シグナル伝達とRhoキナーゼ依存性ミオシン収縮を必要とするが、伸展活性化チャネルを介するシグナル伝達を必要とする点で異なっている。また、セブラフィッシュで伸展活性化チャネルPiezo1を欠損させると押し出しが起こらなくなり、上皮細胞塊が形成される。今回の知見は、恒常的な代謝回転が行われている際には、狭い基層上での上皮細胞の増殖と分裂が過剰な密集を引き起こし、それによって細胞が押し出され、その結果生存に必要な因子が失われて細胞死が起こることを明らかにしている。これらの結果は、生細胞の押し出しは過剰な上皮細胞蓄積を防ぐ腫瘍抑制機構である可能性を示唆している。
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満員電車から扉の外に追い出されたかつての小生を思い出す。あるいは。満員電車にさらにヒトが乗ってくることで、次第に両足が床から離れ、空中に浮かび上がったかつての小生を思い出す。1980年ころのことだが、今ではそこまでの満員はあるのだろうか?

2012年4月27日金曜日

加齢黄斑変性症とDicerと反復配列Alu:natureに続いて今回はCell

去年印象に残る報告の一つが加齢黄斑変性症の原因がDicerであり反復配列Aluの細胞内蓄積(細胞毒)であるというnature論文だった。続報なのだろう。最新のセルにまた一報載っている。反復配列オタクの小生としては見逃せない報告だ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆2011年3月18日金曜日
最近気になる論文から・・・3報

Nature 471,325–330 06 February 2011
DICER1 deficit induces Alu RNA toxicity in age-related macular degeneration

加齢黄斑変性症の原因の一つがDICER1(RNA のプロセッシングユニット)によることも面白ければ、こともあろうに反復配列「Alu」が蓄積することが細胞毒になるというという事象も初めて聞く話で面白かった。

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Cell, 26 April 2012

DICER1 Loss and Alu RNA Induce Age-Related Macular Degeneration via the NLRP3 Inflammasome and MyD88



Authors

  • Highlights
  • Alu RNA accumulation due to DICER1 deficiency activates NLRP3 inflammasome in RPE
  • Pharmacological inhibition of the inflammasome, MyD88, or IL18 prevents degeneration
  • Alu RNA induced RPE degeneration via mitochondrial ROS production, IL18, and MyD88
  • RPE in human geographic atrophy eyes display evidence of NLRP3 and MyD88 activation
  • Summary

  • Alu RNA accumulation due to DICER1 deficiency in the retinal pigmented epithelium (RPE) is implicated in geographic atrophy (GA), an advanced form of age-related macular degeneration that causes blindness in millions of individuals. The mechanism of Alu RNA-induced cytotoxicity is unknown. Here we show that DICER1 deficit or Alu RNA exposure activates the NLRP3 inflammasome and triggers TLR-independent MyD88 signaling via IL18 in the RPE. Genetic or pharmacological inhibition of inflammasome components (NLRP3, Pycard, Caspase-1), MyD88, or IL18 prevents RPE degeneration induced by DICER1 loss or Alu RNA exposure. These findings, coupled with our observation that human GA RPE contains elevated amounts of NLRP3, PYCARD, and IL18 and evidence of increased Caspase-1 and MyD88 activation, provide a rationale for targeting this pathway in GA. Our findings also reveal a function of the inflammasome outside the immune system and an immunomodulatory action of mobile elements.

2012年4月21日土曜日

劇症型の中毒性巨大結腸症にレミケードを使うという話

この間、劇症型の中毒性巨大結腸症にレミケードが効いた話を研究会で聴いた。皆が当然のように静かに拝聴していた。例によって一人蚊帳の外のような疎外感を味合う。普段出ることのない消化器内科系の研究会だったのだが、居心地のわるかったこと。
しかし中毒性巨大結腸症にいつ出くわすかもわからないので、少し調べてみた。

いずれもネット情報である。

  1. メルク・マニュアル(2007年改訂):ここにはシクロスポリンまでは書いてあるがレミケードは触れていない
  2. 潰瘍性大腸炎ガイドライン(2011年改訂中との記載):レミケードは触れられているが、推奨されていない
  3. 潰瘍性大腸炎治療指針(2011年7月:班会議渡辺班):これにはレミケードが登場する。

 どうであろう。おそらく研究、論文では随分前から話題になっているんだと思う、小生は知らなかったけど。それで賛否両論あったのだと思う。一時は非推奨治療だったのだから。皆が納得できるほどのエビデンスではないのだろう。しかし、なんせ重症であり、常に外科手術がちらつきながらの内科治療である。わらにもすがりたい。班会議では治療薬に加えてみたい、というところなのかしらね。

先日の発表ではタクロリスムその他が副作用で使えなかったなかでのレミケードであり、よく効いているようだ。覚えておこう。


重症UCの治療方針 潰瘍性大腸炎ガイドライン(2011年改訂中との記載))

























◇◇潰瘍性大腸炎治療指針(2011年7月:班会議渡辺班)から一部引用◇◇◇◇

C. 重症
  1. 入院のうえ全身状態の改善に対する治療を行う。常に手術治療の適応に注意し、必要に応じて外科医等と連携して治療に当たる。

  2. 薬物療法としては、当初よりプレドニゾロン1日40~80mg(成人においては1~1.5mg/kgを目安とする)の経口投与あるいは点滴静注を追加する。さらに症状や状態に応じてペンタサ®錠1日5~4.0gまたはサラゾピリン®錠1日3~4gの経口投与やアサコール錠®1日2.4~3.6g、及び注腸剤を併用しても良い。

    これで明らかな効果が得られたら、プレドニゾロンを漸次減量し40mgで寛解導入を期し、その後は30mg、20mgと2週間以内を目安に病態に応じて減 量し、以後は中等症の(1)、(2)に準じた治療を行う。発熱や白血球増多が著明な期間は、広域スペクトル抗生物質を短期間併用する。必要と思われる症例 には、当初より難治例の(1)の【ステロイド゙抵抗例】の治療を行ってもよい。

  3. 前項の治療を行っても1~2週間程度で明らかな改善が得られない場合 (ステロイド抵抗例)は、劇症の(1)に従いステロイド゙強力静注療法、あるいは難治例の(1)に従い血球成分除去療法・シクロスポリン(サンディミュン®)静注療法(*)・タクロリムス(プログラフ®)経口投与・インフリキシマブ゙(レミケード®)の点滴静注のいずれかの治療法を行う。

  4. 以上の治療でも明らかな改善が得られない、または改善が期待できない時は、すみやかに手術を考慮する。

※ 重症度にかかわらず、ステロイドの使用は漠然と投与することを避ける。

※ 重症例・ステロイド抵抗例の治療は専門知識を要するため、可能な限り専門家に相談することが望ましい。


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Nature, ScienceのIFが6前後だった時代

前回1985年前後の曖昧な記憶でIFのことを書いたが、その後5年おきのIFの変遷を書いた資料を見つけた。
そもそもインパクトファクターは1975年に始まったと記されている。数年間、データを溜め込む時期が必要だっただろうから、実際には下の表にある1980年度くらいから数字が出始めたと行って良いだろう。少なくとも1980年のデータは最も初期のIFとそう相違はないだろう。
  1. Cellは1974年創刊のはずだが、いきなり高いIFを得ており面白いですな。
  2. Nature, Scienceの IFが 6前後だったという「牧歌的」時代があったんだね
  3. 1990年代後半からNature姉妹誌による「侵略」が顕著になり、Cellの高IFが崩れた
  4. Cellも姉妹誌を発行するので、このあおりを受けている雑誌群があるはずである
  5. Scienceが影響を受けそうで受けていないのは、とびきりの老舗ブランドを皆が忘れなかったことと、Scienceにとって「生物学」はたくさんあるフィールドの一つにすぎないということであろう
  6. 「生物学」の老舗の雑誌が影響を受けたということになるのであろうか?















Nature, Cellの姉妹誌に影響を受けた(かもしれない)雑誌群↓。
少なくとも、小生が研究を始めた頃は迫力のある雑誌だったことは間違いがないのである。



2012年4月20日金曜日

インパクト・ファクターについて:1994年ころのIF値

アカデミアを離れるとインパクト・ファクターのことなど気にならなくなってしまった。気にする状況が周りにないからね。といって、IFのことが嫌いというわけではない。きっかけさえあれば、興味が湧く。

昨日のことだったが、NEJMのインパクト・ファクターが50を越えているとことを初めて教えて貰った。小生は数年前からかならずブラウズする雑誌にNEJMを加えているのだが、この雑誌のインパクト・ファクターなんか意識になかったのだが、教えられてこの50という数字には驚くのだ。知っている限りで50なんていう数字は初めてみるからだ。

小生が初めてインパクト・ファクターなるものを知ったのはおそらく1985年頃のことだろうと思う。詳しいことは覚えていないが、上司に図書館で調べてこいと命ぜられたことがあるからだ。どなたかの助教授採用に関してデータ取りだったと思う。なかなか鮮明に覚えているのは、当時は確かIFのソースデータがマイクロフィルムだったからだ。これを専用のビューワーで拡大して投射したものから必要な雑誌のIFを書き写したのだ。なんだかスパイ大作戦のようなことをしているなあと思ったのだ。個々の雑誌の数字は覚えていないが、まあ当時はnature, scienceが二大巨頭だったんだと思う。Cellは創刊から10年経っていないはずだし。

自分のパソコンで古いデータがないかどうか調べてみたところ、1994年のデータがあった。このリストいわゆる総説誌は省いてある。このころは総じて臨床誌はIFが低い傾向にある。NEJMは今の半分以下だし、ランセットもそうである。いわゆる3大誌はまあこんなものであるが、Cellはこのあと40を越え、しばらく孤高の数年を謳歌するのである。

さて、この20年近くで飛躍した雑誌といえばなにが挙げられるであろうか?
目立たない雑誌だったGutなんかどうであろう?3以下をうろうろしていた雑誌が現在11くらいのIFらしいが、このような飛躍はめずらしい。JCIやJCOあるいはGastroenterologyはGutほどではないが地道に上昇しているようだ。

では停滞している雑誌は?これは山ほどある。JBCやJIはそうかもしれない。いつの間にか相対的に落ちてきている。昔は一流誌だったExperimental resとかBBAも今では寂しい雑誌になっている。

1994年のインパクト・ファクター

1 Cell 39.19
2 Nature 25.47
3 New England Journal of Medicine 22.67
4 Nature Genetics 22.57
5 Science 22.07
6 Neuron 18.35
7 Genes & Development 17.33
8 Lancet 17.33
9 EMBO Journal 13.87
10 Journal of Experimental Medicine 13.85
11 Journal of Cell Biology 12.15
12 Proceedings of the National Academy of Sciences 10.67
13 Molecular and Cellular Biology 10.2
14 Molecular Biology of the Cell 10.05
15 Journal of National Cancer Institute 9.46
16 Development 8.64
17 Circulation 8.63
18 American Journal of Human Genetics 8.6
19 Journal of Clinical Investigation 8.47
20 Blood 8.28
21 Journal of Biological Chemistry 7.72
22 Journal of Clinical Oncology 7.51
23 Oncogene 7.39
24 Journal of Immunology 7.38
25 Gastroenterology 7.25
26 Circulation Research 6.97
27 Cancer Research 6.82
28 Diabetes 6.26
29 Bioessays 6.02
30 Journal of Molecular Biology 6.02
31 Molecular Pharmacology 5.93
32 Hepatology 5.57
33 American Journal of Pathology 5.53
34 Brain 5.04
35 Human Molecular Genetics 4.59
36 British Medical Journal 4.41
37 Journal of Cell Science 4.34
38 Gut 2.95

2012年4月16日月曜日

がん分子標的薬開発状況に関する情報

がん分子標的薬開発状況に関する情報

2012/2/20現在 30種類が承認済みか承認を待つ

最新情報



2012年4月12日木曜日

ERCP後の膵炎をインダシン座薬で予防する:NEJM

ERCPをするときに嫌なのは合併症としての膵炎である。ERCPをしなくてはいけない状況そのものが膵炎予備状態であることが多いので、ある意味しょうがないし、頻度も低くない(ケミカルなものを入れると)はずだ。

さて今週のNEJMであるが、ERCP直後にインドメタシン座薬を入れておくと膵炎予防になるという論文である。肝心の膵炎の定義だが、

  1. 上腹部痛
  2. 24時間後の酵素が3倍以上上昇
  3. 最低2日は入院してしまう

なので、まあ納得できるかな。

症例数は602人であり前向きのダブルブラインド試験なんですって。これってコントロール群ではプラセボの座薬を入れられるということですね。で、結果は

  • 27 of 295 patients (9.2%)  インドメタシン座薬群
  • 52 of 307 patients (16.9%)  コントロール群 (P=0.005)
半分程度に減らせるのなら良しとしたい、という結果である。では重症(中等度も)膵炎の予防はというと

  • 13 patients (4.4%)   インドメタシン座薬群
  • 27 patients (8.8%)   コントロール群   (P=0.03)

むしろこっちの結果が大事かな。こちらも半分に減っている。もともとゼロにはできない話である。座薬一個で発症が減るならよろしいかもね。

Original Article

A Randomized Trial of Rectal Indomethacin to Prevent Post-ERCP Pancreatitis

Background

Preliminary research suggests that rectally administered nonsteroidal antiinflammatory drugs may reduce the incidence of pancreatitis after endoscopic retrograde cholangiopancreatography (ERCP).

Methods

In this multicenter, randomized, placebo-controlled, double-blind clinical trial, we assigned patients at elevated risk for post-ERCP pancreatitis to receive a single dose of rectal indomethacin or placebo immediately after ERCP. Patients were determined to be at high risk on the basis of validated patient- and procedure-related risk factors. The primary outcome was post-ERCP pancreatitis, which was defined as new upper abdominal pain, an elevation in pancreatic enzymes to at least three times the upper limit of the normal range 24 hours after the procedure, and hospitalization for at least 2 nights.

Results

A total of 602 patients were enrolled and completed follow-up. The majority of patients (82%) had a clinical suspicion of sphincter of Oddi dysfunction. Post-ERCP pancreatitis developed in 27 of 295 patients (9.2%) in the indomethacin group and in 52 of 307 patients (16.9%) in the placebo group (P=0.005). Moderate-to-severe pancreatitis developed in 13 patients (4.4%) in the indomethacin group and in 27 patients (8.8%) in the placebo group (P=0.03).

Conclusions

Among patients at high risk for post-ERCP pancreatitis, rectal indomethacin significantly reduced the incidence of the condition. (Funded by the National Institutes of Health; ClinicalTrials.gov number, NCT00820612.)

2012年4月11日水曜日

変形性頸椎症:自分が罹患するとは・・

なりたくない病気の筆頭は「頸椎症性脊髄症」であるとかつて記したことがある。自分がリハビリを担当してもスッキリと退院できた患者を見たことがあまりないからだ。これについては北見の脳神経外科の先生からコメントをいただいたことで、脳神経外科的マイクロサージャリーが実は良いのではないかという印象は持った。持ったが実例は経験したことがないので、感触はまだ実感としてはわからない。

実はこの半年くらいかなりつらい後頸部の痛みに悩んでいる。正確にはH23年の11月ころからだ。症状が出るのは決まって朝の起きがけだ。これについてはかなり正確に記述することができる。
  1. H23年11月ころから朝目が覚めると頚の後ろがこわばっているのに気がついた。それ以来毎日欠かさずこわばっている。
  2. そのうち、目覚めると頚が動かせないことに気がつく。動かすとひどく痛むのである。動かさないと痛くないがこわばっている。
  3. 我慢して起き上がる(ふとんから出て立ち上がる)。これには工夫がいる。そのまま立ち上がるのはつらい。顔を横にして、荷重がかからないようにして起きる、頭を起こすという意識である。
  4. 一旦立ち上がると、数分はつらいが、10分もすると痛かった頚のことを忘れてしまう。その後は一日なんともない。夜寝る時もなんともない。夜中に痛みで起きることは一回もない。
  5. ただし朝方一旦目覚めておき上がるまでが、相当につらいのである。
  6. 3月になり、起き上がるときにめまいが始まった。吐気もする。まるでmorning sicknessである。
  7. 実は小生この年まで病名簿に掲げるような病気をしたことがない。手術も受けたことが無い。めまい、頭痛、胃痛、腰痛その他一切縁がない。それゆえこのめまいには驚いた。
  8. 更に心なしか右4〜5指に軽いしびれを最近感ずるのである。これはほっとけないではないか。
  9. そこでMRIを撮ってみた。自分で自分のMRIを読むのは正直しんどい。
  10. 外来の整形外科医に相談してみたところTh4~6の変形性頸椎症との診断を受けた。自分に初めて病気らしい病名が付くのは、心穏やかではないが、しょうがないな。
  11. 整形Dr.の「まくらを変えましょう」というサジェスチョンと「意外に軽快消失するヒトも多いですよ」とのお言葉がうれしかった。

そこで枕を変えてみた。というか、その日以来、枕なしで寝るようにしてみた。もともと小生は高い枕が好みであり、家人に言わせると相当無理があると以前から思っていたそうだ。枕大好きであったのだが、この日を境に枕なしで寝るようになった。枕なしはつらいので、タオル一おりを頭の下に引くことにした(これは気休めである。タオル一おりなんて、実際にはほとんど高さがあってないようなものだ)。それでも、眠ることは可能だ。それから3週間くらいして、ある日を境に朝のこわばりが無い日が出現した。毎日続くわけではないが、痛くない日があるのだ。すごい!  めまいはいつのまにか消失した。指のしびれも少し軽くなっている。ついでに言えば湿布、薬物服用は一切しておりません、これまで。

とにかく手術はいやだ。頚の手術など受けたくない。なんとか悪化しない方法を見つけることが、今年の課題である。MRIでみると素人の小生が見ても明らかな骨棘が脊髄嚢にあたっているのだ。この客観的事実は元に戻すことはできないだろう。でも症状の発現やその悪化はなんとか阻止したい。なんとか、頑張ってみたい。

2012年4月3日火曜日

リンパ管腫二例目は鼠径部腫瘤だった。

めったに見ることのない病気が立て続けにくることがある。小生の場合最近ではBaker嚢胞がそうであった。他にも調べればいくつかはあるだろう。
鼠径部腫瘤の中年女性がやって来たのは、先の頸部腫瘤の方の翌日であった。この腫瘤も先の頸部腫瘤と同様、それまで数十年存在には気がついていたものが、この3週間で急に大きくなったという(長計60mm程度)。鼠径靱帯の下方で、丁度鼠径からルートを取ったり、あるいは血ガスの穿刺をする場所。硬く緊満している。なんだろう?最初に考えるのはやはり大腿ヘルニアである。あとはリンパ節からみの病気。エコーをするが、リンパ節や腸管ではなさそうである。そこでこの方にはCTを行った。CTでみると丁度閉鎖孔ヘルニアが恥骨筋の表在に現れたかのようである。これも下部組織が気になる。

でもなんか似ている。頸部のリンパ管腫に似ている。そこで刺してみたのだ。そうすると、まったく同様の黄色淡明液が30ml程度引けた。ヘルニアの可能性は一応否定的だったとはいえ、あとから考えるとよく刺したものだ。

診断は左鼠径部リンパ管腫

これはとても珍しいらしい。こんなのもあるのだという症例報告だ。下の引用は臨床皮膚科のもの。

臨床皮膚科 ISSN 0021-4973 (Print) ISSN 1882-1324 (Online) 64巻4号(2010.04)P.315-318(ISID:1412102554)

症例報告
左鼠径部に生じた後天性嚢胞状リンパ管腫の1例

西本 和代 ※1
舩越 建 ※1
橋本 玲奈 ※1
齋藤 昌孝 ※1
谷川 瑛子 ※1
大山 学 ※1
石河 晃 ※1

※1 慶應義塾大学医学部皮膚科学教室

【キーワード】 嚢胞状リンパ管腫,鼠径部,成人,外科的切除


要約 44歳,男性.左鼠径部に生じた胡桃大の皮下結節が急速に増大した.初診時,左鼠径部に径 6cm大の皮下腫瘤を認め,CTでは皮下に限局し,周囲との境界が明瞭な嚢腫を認めた.全身麻酔下に切除し,術中にリンパ液様の嚢胞内容液を認めた.病理 組織学的には,複数の嚢胞を有する結節性の病変で,嚢胞壁はD2-40染色で陽性であった.腫瘤内容液の所見と病理組織学的所見から嚢胞状リンパ管腫と診 断した.嚢胞状リンパ管腫は,通常は頸部・腋窩に生下時から2歳までに発症するが,成人発症はきわめて稀である.その成因は不明だが,組織学的に多彩な炎 症細胞浸潤,線維化を伴う肉芽腫を認め,顕症化に炎症が関与していたことが示唆された.