2011年9月30日金曜日

遊走性関節炎でしょうかね?

今朝の最後の外来患者は関節痛を愁訴とする65歳男性。午後からは整形外来もあるのでそちらにどーぞと言いたかったが、なんだか病歴が奇妙であり診ることに。

☆☆
☆ 病歴 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

この半年の間に全身の関節に数日だけ炎症が出るのだそうだ。一回出ると数日腫れ上がり痛いのだとか。無治療でも直ぐに炎症収まるが、しばらくすると全く別の関節がやられる。今朝は左の4指の基節部が相当に腫れ上がっていた。数日前のランセットの小指とまではいかないが、それに似た状態だ。この他に右の下肢の足指が侵されている。
これまでに10個近い関節がやられたようだ。小関節中心だな。

実は10年前に同様のエピソードが半年続いたそうで、近医で「関節リウマチ」を疑われている。程なくして消退したので放置していた。
母親が「関節リウマチ」でRAには絶望的イメージを持っている。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

そんなこんなだが、まず浮かんだのは「遊走性関節炎」という言葉だ。これはmigratory arthritisの訳語のようだが、今ではmigrating arthritisとも言うらしく、日本語では移動性関節炎ともいうらしい。

遊走性関節炎はケアネットDVDシリーズのDr.岸本の関節ワザ大全<第1~3巻セット>で覚えた(様な気がする)。

まあ最低RAは否定しておきたいので本日は例の抗CCP抗体とCRP ESRを採血して、明日の膠原病外来へ回って頂いた。

なんか頭に引っかかった遊走性関節炎ではあるが、外来中は「淋菌性関節炎」のことまでは思い出せなかった。あとで調べて「あったよな〜〜」と・・・。

移動性関節炎
  • 急性リウマチ熱
  • 播種性淋菌感染症
  • 播種性髄膜炎菌感染症
  • ウイルス性関節炎
  • 全身性エリテマトーデス
  • 急性白血病
  • Whipple

2011年9月28日水曜日

MDSにおけるスプライス蛋白変異(2): サンガーからNEJM

MDSにおけるスプライス蛋白変異について今度はサンガー研究所からNEJMに報告が出た。前回の東大小川さんの報告と違うのは、
  1. スプライス関連蛋白パスウェイが変異を受けるという捉え方ではなく、その中の一つSFB1が(比較的)高頻度に変異を受けるという報告になっていること。(72/354 20%)

  2. MDSのサブタイプでsideroblastsを伴うグループに変異が多いこと(53/82: 65%)

  3. そのグループ(SFB1変異陽性群)は比較的予後がよろしいとのこと

  4. MDS以外の広範な腫瘍群へ解析が及んでいること。他のタイプの白血病、乳癌を初めとする固形癌には5%以下の頻度で(例外的に)変異を認める程度であり、この変異はMDSに集中していることを示している。
スプライス蛋白変異というのが確かにある種の癌化に関連していることは間違いなさそうである。

Original Article

Somatic SF3B1 Mutation in Myelodysplasia with Ring Sideroblasts

E. Papaemmanuil, M. Cazzola, J. Boultwood, L. Malcovati, P. Vyas, D. Bowen, A. Pellagatti, J.S. Wainscoat, E. Hellstrom-Lindberg, C. Gambacorti-Passerini, A.L. Godfrey, I. Rapado, A. Cvejic, R. Rance, C. McGee, P. Ellis, L.J. Mudie, P.J. Stephens, S. McLaren, C.E. Massie, P.S. Tarpey, I. Varela, S. Nik-Zainal, H.R. Davies, A. Shlien, D. Jones, K. Raine, J. Hinton, A.P. Butler, J.W. Teague, E.J. Baxter, J. Score, A. Galli, M.G. Della Porta, E. Travaglino, M. Groves, S. Tauro, N.C. Munshi, K.C. Anderson, A. El-Naggar, A. Fischer, V. Mustonen, A.J. Warren, N.C.P. Cross, A.R. Green, P.A. Futreal, M.R. Stratton, and P.J. Campbell for the Chronic Myeloid Disorders Working Group of the International Cancer Genome Consortium

September 26, 2011 (10.1056/NEJM  oa1103283)


Background

Myelodysplastic syndromes are a diverse and common group of chronic hematologic cancers. The identification of new genetic lesions could facilitate new diagnostic and therapeutic strategies.

Methods

We used massively parallel sequencing technology to identify somatically acquired point mutations across all protein-coding exons in the genome in 9 patients with low-grade myelodysplasia. Targeted resequencing of the gene encoding RNA splicing factor 3B, subunit 1 (SF3B1), was also performed in a cohort of 2087 patients with myeloid or other cancers.

Results

We identified 64 point mutations in the 9 patients. Recurrent somatically acquired mutations were identified in SF3B1. Follow-up revealed SF3B1 mutations in 72 of 354 patients (20%) with myelodysplastic syndromes, with particularly high frequency among patients whose disease was characterized by ring sideroblasts (53 of 82 [65%]). The gene was also mutated in 1 to 5% of patients with a variety of other tumor types. The observed mutations were less deleterious than was expected on the basis of chance, suggesting that the mutated protein retains structural integrity with altered function. SF3B1 mutations were associated with down-regulation of key gene networks, including core mitochondrial pathways. Clinically, patients with SF3B1 mutations had fewer cytopenias and longer event-free survival than patients without SF3B1 mutations.

Conclusions

Mutations in SF3B1 implicate abnormalities of messenger RNA splicing in the pathogenesis of myelodysplastic syndromes. (Funded by the Wellcome Trust and others.)

2011年9月25日日曜日

マラソンで世界新記録:マカウ(ケニア)が2時間3分38秒

Sunday, 25 September 2011

Makau stuns with 2:03:38 Marathon World record in Berlin!

本日のベルリンマラソンでパトリック・マカウ(ケニア)が2時間3分38秒の驚異的な世界新記録を樹立して2連覇を果たした。2008年の同マラソンでハイレ・ゲブレシラシエ(エチオピア)がマークした従来の世界記録2時間3分59秒を21秒更新した。

世界陸連のHPから引用 

とにかく各5kmのスプリットタイムが素晴らしい。前半は14分30秒台で推移する。このペースに前世界記録保持者ゲブルセラシエもついて行ったというのだから凄いが、その彼も最後は結局棄権してしまったとのこと。

中間点付近で一旦14分48秒に落ちたペースが一気に14分20秒に上がるのだ。ペースは最後まで14分台で終始する。

この春のボストンの幻の記録には及ばないが、ついに公式の世界新記録が破られることになった。凄い!!




Berlin, Germany - The 38th BMW Berlin Marathon lived up to all expectations, with the seventh world record in 13 years, this time for defending champion Patrick Makau of Kenya, who first broke Haile Gebreselassie, then took the Ethiopian legend’s world record with 2:03:38*.


Such was the damage done behind him when Makau streaked away after 27 kilometres, that one of the pacemakers, also a Kenyan, Stephen Chemlani hung in and finished second, in 2:07:55, with another Kenyan, Edwin Kimaiyo third in 2:09:50 at this IAAF Gold Label Road Race.


Gebrselassie, who stopped in discomfort when Makau surged away, recommenced and briefly reclaimed second place, but eventually dropped out after the 35 kilometre point.


There was another Kenyan success in the women’s race. Florence Kiplagat, the 2009 World Cross Country champion, who had dropped out of her only previous Marathon, in New York last autumn, was never headed.


World record holder Paul Radcliffe, returning from childbirth and a barren two years competitively, stayed with Kiplagat for 12 kilometres, before gradually dropping away. Kiplagat won by almost as big a margin as Makau, with her 2:19:44. Radliffe was passed by the steady starting local hero, Irina Mikitenko at 33 kilometers, and the German went on the take second in 2:22:18, with Radcliffe a creditable third in 2:23:46.

2011年9月23日金曜日

トムソン・ロイターによるノーベル賞予想


いつものようにダブルクリックで大きくなります。

    元記事はこちらです

当たらないので有名だったトムソン・ロイターによるノーベル賞予想2011年版である。


このトップのDruker博士は小生も一押しの有力候補だとこのところ思っていた。そう思っていただけにトムソン・ロイターが上位に予想してきたことで実はがっかり(笑)。

それはそれとしてノーベル賞は有効な治療法の開発にはこれまでも細心の注意を払って賞を贈ってきたのである。分子標的治療薬も一度は受賞するであろう。そして分子標的治療薬で現在のところその有効性が飛び抜けて高い薬剤として知られるのはグリベックである。IRIS試験は外科の小生が端から見ていても美しい臨床試験であった。最近では8年生存率なんていうのも出ている。いずれもNEJMだが主導者はDruker博士である。1994年から2011年までDrukerがヘゲモニーを握っている。たいしたものだと敬服ものである。

ハーセプチンも良い線行っているのだが、今ひとつ弱い。相手が固形癌だしね。しょうがない。でもハーセプチンならDr. Slamonもビッグネームだ。この人が貰っても文句を言う人はいないと思う。この1987年の論文は衝撃的だったよ、小生には。


Slamon DJ, Clark GM, Wong SG, et al. "Human breast cancer: correlation of relapse and survival with amplification of the HER-2/neu oncogene." Science, Vol.235, No.4785, 1987, p.p. 177-182.

ところで昨年受賞の試験管ベイビーに続いて実地臨床に近いテーマが二年連続受賞することがあるだろうか?実はこれまでそんな例は無いのである。従ってDrukerが貰うのは来年以降ではないか。

また同じ意味合いで遠藤章博士のスタチンも(あるとして)来年以降だと思う。コレステロール関連はノーベル賞が好きなテーマの一つで何回も受賞している。最近では1985年だから間隔も開いたしそろそろいいのでは。来年ね。

  1. 1927年 ハインリッヒ・ヴィーラントが胆汁酸とその類縁物質の構造研究によりノーベル化学賞を受賞した。
  2. 1928年 ヴィンダウスがステロール類の構造(およびそのビタミン類との関連性)についての研究によりノーベル化学賞を受賞した。
  3. 1939年 ブーテナントがコレステロールから産生される性ホルモンの研究、ルジチカがコレステロールを含むステロイド類(およびテルペノイド)の研究によりノーベル化学賞を受賞した。
  4. 1964年 コンラート・ブロッホ、フェオドル・リュネンらがコレステロールと脂肪酸の生合成機構と調節に関する研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞。
  5. 1985年 マイケル・ブラウン、ヨセフ・ゴールドスタインらはコレステロール代謝の詳細とその関与する疾患の研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞。彼等によりLDL受容体とその機能が発見される。

さて基礎系の予想はいかがなものか。

再生工学のバカンティ博士ですか。ある時期論文を随分読んだ覚えはあるなあ。
あと免疫系ならAKIRA博士も入れてくだされば良いのにと思います。まあ自然免疫だからずれるが、でもThなんかより自然免疫の方がおもしろくないか?

免疫よりも今年のラスカーのHeat shock proteinの方がおもしろいかもしれないなあ・・とも思う。

といいつつ、本当は「一日も早くゲノムプロジェクトにやれよ」といいたい。Venterとあとの2人はコリンズとううむ。そうだよな、あとの2人が大変なのだよな。生々しすぎるな。しかし伝統あるノーベル賞委員会はこれまでも地雷を踏むのには慣れているではないか。大抵の非難・中傷にはびくともしないはずだ。きちっと説明できればあとの2人はだれでもいいぞ。ゲノムプロジェクトはエポックな仕事だったんだから。きちっと評価しておかないといけないよ。今年あげちゃいましょう。

トピック(カッコ内の日本語は参考訳): for their development of imatinib and dasatinib, revolutionary, targeted treatments for chronic myeloid leukemia (慢性骨髄性白血病(CML)に対する革新的な分子標的治療薬であるイマチニブとダサチニブの開発)

Brian J. Druker (米国)
Professor of Medicine, JELD-WEN Chair of Leukemia Research, and Director, OHSU Knight Cancer Institute, Oregon Health & Science University, Portland OR USA. Also, Howard Hughes Medical Institute Investigator.
Nicholas B. Lydon (米国)
Founder, Granite Biopharma, LLC, Jackson Hole, WY USA; Co-founder and Director, AnaptysBio, San Diego, CA USA; and Co-founder and Director, Blueprint Medicines, Cambridge, MA USA
Charles L. Sawyers (米国)
Marie-Josée and Henry R. Kravis Chair in Human Oncology and Pathogenesis, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY USA. Also, Howard Hughes Medical Institute Investigator.

トピック: for their pioneering research in tissue engineering and regenerative medicine (ティッシュエンジニアリング/再生医療分野における先駆的研究)

Robert S. Langer (米国)
David H. Koch Institute Professor, Department of Chemical Engineering, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA USA
Joseph P. Vacanti (米国)
John Homans Professor of Surgery, Harvard Medical School; Surgeon-in-Chief and Chief of the Department of Pediatric Surgery and Director of the Laboratory for Tissue Engineering and Organ Fabrication, Massachusetts General Hospital, Boston, MA USA

トピック: for his discovery of the function of the thymus and the identification of T cells and B cells in mammalian species (哺乳類における胸腺機能の発見およびT細胞とB細胞の同定)

Jacques F. A. P. Miller (オーストラリア)
Emeritus Professor, Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research and the University of Melbourne, Parkville, Melbourne, Australia

トピック: for their discovery of two types of T lymphocytes, TH1 and TH2, and their role in regulating host immune response (2つのタイプのTリンパ球、TH1およびTH2の発見と宿主免疫応答制御における役割)

Robert L. Coffman (米国)
Vice President and Chief Scientific Officer, Dynavax Technologies, Berkeley, CA USA
Timothy R. Mosmann (米国)
Professor, Department of Microbiology and Immunology, and Michael and Angela Pichichero Director in the David H. Smith Center for Vaccine Biology and Immunology, University of Rochester Medical Center, University of Rochester, Rochester,NY USA

* Miller, Coffman, Mosmannの3氏は同系列の研究における受賞

2011年9月17日土曜日

2011年のラスカー賞とそのホームページ

ラスカー賞はノーベル賞の前哨戦としても有名である。2011年のラスカー賞が最近報告された。このラスカーのホームページには1946年以来65年にわたる受賞者の簡潔な紹介ページがあるが、このページを眺めるとある意味感無量である。写真が良いのである。昔のものほど良い。何人か紹介してみよう。写真をご覧頂きたい。

  1. George Papanicolaou: パパニコロウ染色は今でも細胞診には欠かせない染色法であるが、1928年の報告、1950年受賞。
  2. George Beadle: ビードルはアカパンカビで一遺伝子一酵素説
  3. Hans Krebs: クエン酸回路 クレブス回路
  4. Albert Szent-Gyorgyi: ビタミンC発見のセントジョルジ
  5. Robert HolleyRNAのホーリーモデル
  6. H. Gobind Khorana and Marshall Nirenberg: 遺伝子コドンの意味 トリプレットコドン 
  7. Seymour Benzer, Sydney Brenner and Charles Yanofsky ショウジョウバエに移る前のベンザー。若い若いブレナー(1971年)ー31年後にノーベル賞受賞する。
  8. Barbara McClintock : 動く遺伝子(トウモロコシのトランスポゾン)でノーベル賞単独受賞の2年前にラスカー受賞
  9. Hidesaburo Hanafusa :日本人初の受賞は花房秀三郎博士。このころはロックフェラー研究所
  10. Susumu Tonegawa: 日本人二番目の受賞(1987年)は利根川進博士。同年ノーベル賞単独受賞。
今年はどなたが受賞したのだろう?

Lancetの今週のイメージ:変わった小指



















Lancetのimageは正解するとpower point imageを配布してくれる。


今週号はこんな写真(今気が付いたが、実は2008年の記事であった!嗚呼)。90歳女性の左5指。全てが非典型的なので、余り参考にならないが、それにしても変わった写真である。病名はありふれたモノだ。

参考ページ

2011年9月16日金曜日

10例目のモンドール病がやってきた。

今年はモンドールが少ないなあと思っていたら、昨日今年の2例目、通算10例目のモンドールがやってきた。

この人は典型的な迷いヒトである。胸が痛いからと大きな総合病院で、まず外科、整形外科、循環器内科を受診され、原因がはっきりせず、痛みが取れないので次いで別の病院である我が外来を訪れてきている。顔が鬱気分の顔である。こんな患者は先入観を持たれてしまうのだ、外来医に。心気症的な扱いを受けるのだな。

典型的なモンドールであったよ。腋窩から左乳腺(このひとも左だ!)外側を通り最下肋骨レベルまで固い一筋が触知される。長さにして15cmくらいか。この患者殿の血管炎は探しにいかないと見つからないかもしれないとは思った。MMGとエコーは行ったが、エコーでは上手くこの血管炎は出なかったよ。

「一月以上かかるかもしれませんが、絶対に痛みは取れますから」と言うと、ようやく鬱顔に笑みが浮かんだよ。


女性で胸(お乳)が痛むと言った場合、モンドール病は外してはいけない鑑別疾患だと思うぞ。

↓:過去のモンドール病

2011年1月12日水曜日
9例目のモンドール病

2010年12月24日金曜日
8例目のモンドール病

2010年12月7日火曜日
7例目のMondor病

2010年1月15日金曜日

2011年9月15日木曜日

遺伝子(多)型と薬剤感受性

遺伝子(多)型と薬剤感受性について最もauthorizeされた薬剤とはなにか?
使用頻度が高く、またその薬剤の個人的感受性が遺伝薬理学的にーすなわち遺伝子型にー関連づけられている薬剤はなにか?
そんな一覧表を捜していたのだが、うってつけの表をNEJMの最新号に見つけた。

Genomic Medicine

W. Gregory Feero, M.D., Ph.D., Editor, Alan E. Guttmacher, M.D., Editor

Genomics, Health Care, and Society

Kathy L. Hudson, Ph.D.

N Engl J Med 2011; 365:1033-1041September 15, 2011




2011年9月14日水曜日

大腸癌でも融合遺伝子(natrure genetics):VTI1A-TCF7L2融合蛋白

Nature Genetics | Letter

Nature Genetics (2011)
Received 29 March 2011
Accepted 11 August 2011
Published online 04 September 2011


Genomic sequencing of colorectal adenocarcinomas identifies a recurrent VTI1A-TCF7L2 fusion

Adam J Bass, Michael S Lawrence, Lear E Brace, Alex H Ramos, Yotam Drier, Kristian Cibulskis, Carrie Sougnez, Douglas Voet, Gordon Saksena, Andrey Sivachenko, Rui Jing, Melissa Parkin, Trevor Pugh, Roel G Verhaak, Nicolas Stransky, Adam T Boutin, Jordi Barretina, David B Solit, Evi Vakiani, Wenlin Shao, Yuji Mishina, Markus Warmuth, Jose Jimenez, Derek Y Chiang, Sabina Signoretti, William G Kaelin, Nicole Spardy, William C Hahn, Yujin Hoshida, Shuji Ogino, Ronald A DePinho, Lynda Chin, Levi A Garraway, Charles S Fuchs, Jose Baselga, Josep Tabernero, Stacey Gabriel, Eric S Lander, Gad Getz & Matthew Meyerson

  • Prior studies have identified recurrent oncogenic mutations in colorectal adenocarcinomaand have surveyed exons of protein-coding genes for mutations in 11 affected individuals. Here we report whole-genome sequencing from nine individuals with colorectal cancer, including primary colorectal tumors and matched adjacent non-tumor tissues, at an average of 30.7× and 31.9× coverage, respectively. We identify an average of 75 somatic rearrangements per tumor, including complex networks of translocations between pairs of chromosomes. Eleven rearrangements encode predicted in-frame fusion proteins, including a fusion of VTI1A and TCF7L2 found in 3 out of 97 colorectal cancers. Although TCF7L2 encodes TCF4, which cooperates with β-cateninin colorectal carcinogenesis, the fusion lacks the TCF4 β-catenin–binding domain. We found a colorectal carcinoma cell line harboring the fusion gene to be dependent on VTI1A-TCF7L2 for anchorage-independent growth using RNA interference-mediated knockdown. This study shows previously unidentified levels of genomic rearrangements in colorectal carcinoma that can lead to essential gene fusions and other oncogenic events.

大腸癌9名患者のdeep sequenceを30xで施行。一症例平均75個の突然変異を見出した。さらに11種類の転座—融合蛋白遺伝子を見つけたが、この中には反復して(recurrent)認められる転座があった。(この世界、融合遺伝子は複数の症例で認められないと重きをおかれないーrecurrentというのは反復して違った症例で認められたーという意味である)その中でもVTI1A and TCF7L2融合遺伝子は97例の大腸癌で3例に認められた。すごいだろう!という報告である。

nature geneticsに載ったのはEric S Lander, Gad Getz & Matthew Meyersonらの報告であったからか。

なんとも素直には喜べない報告である。recurrent fusion というのは滅多にない・・・というわけではない。白血病やリンパ腫、肉腫では結構多い。しかし病因論的に重きが置かれるほどの頻度はないのが実情だ。

頻度が高いものではわずかに白血病のBcr-abl、固形癌では前立腺のTMPRSS2-ERG 融合遺伝子が有名であり、間野さんらの肺腺癌でのEML4-ALK融合遺伝子は(低頻度ながら)特異的分子標的薬剤が奏功することで有名である。頻度が低くても特異的治療の可能性は魅力である。

今回のVTI1A and TCF7L2融合遺伝子も頻度は低そうである。97例の大腸癌で3例というのは肺腺癌でのEML4-ALK融合遺伝子よりも更に低頻度である。但しこれらが肺腺癌でのEML4-ALKのように臨床病理学的にある特異的なサブグループの指標になるのなら素晴らしい。また特異的分子標的薬剤が開発されればなお素晴らしい。肺癌とならんで大腸癌は絶対数が多い。多くて〜5%の頻度でも臨床レベルでの対象症例数はかなりのモノとなろうからな。


〜たら、〜ならばという条件付きであるから素直には喜べないと言った。とはいえゲノム屋としては大腸癌でよくまあ、こんな貴重なモノを見つけてくれたものだと驚いてはいるのだ。

2011年9月12日月曜日

MDS臨床症例におけるスプライス関連蛋白高頻度突然変異: 東大小川誠司博士のnature

Nature(2011)

Received 07 June 2011
Accepted 24 August 2011
Published online 11 September 2011

Frequent pathway mutations of splicing machinery in myelodysplasia

Kenichi Yoshida, Masashi Sanada, Yuichi Shiraishi,・・・・・Satoru Miyano & Seishi Ogawa

  • U2AF35, ZRSR2, SRSF2 and SF3B1. Myelodysplastic syndromes and related disorders (myelodysplasia) are a heterogeneous group of myeloid neoplasms showing deregulated blood cell production with evidence of myeloid dysplasia and a predisposition to acute myeloid leukaemia, whose pathogenesis is only incompletely understood. Here we report whole-exome sequencing of 29 myelodysplasia specimens, which unexpectedly revealed novel pathway mutations involving multiple components of the RNA splicing machinery, including U2AF35, ZRSR2, SRSF2 and SF3B1. In a large series analysis, these splicing pathway mutations were frequent (~45 to ~85%) in, and highly specific to, myeloid neoplasms showing features of myelodysplasia. Conspicuously, most of the mutations, which occurred in a mutually exclusive manner, affected genes involved in the 3′-splice site recognition during pre-mRNA processing, inducing abnormal RNA splicing and compromised haematopoiesis. Our results provide the first evidence indicating that genetic alterations of the major splicing components could be involved in human pathogenesis, also implicating a novel therapeutic possibility for myelodysplasia.
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腫瘍化の原因論として遺伝子変異が高頻度で認められることを明らかにしたという意味では、下に列挙された各種癌に先を越されるが、しかし面白いのは
  1. MDSでパスウェイ変異を見出したことである。このパスウェイとはRNAのスプライシングを担う一連の蛋白群のことであり、「どれかがやられる」ことと「一個やられれば、他の蛋白は正常であること」という排他性から、このパスウェイ変異は癌化にとって「より本質的である」可能性が高い。





    U2AF35, ZRSR2, SRSF2 and SF3B1

  2. このようなパスウェイ変異は臓器特異性が高いようで、固形癌ではこれまで大腸癌、乳癌、膵癌、肺癌、脳腫瘍(グリオーマ)などで詳細に解析されている。これら固形癌では一個人の癌における突然変異の数は50以上100以下程度であるが、一方白血病やリンパ腫では趣がかなり異なる(変異が少ない、転座などのゲノム改変が特徴的)というのがこれまでの印象である。

  3. この印象は本論文でもかなり正しかったことが示されている。確かに突然変異を起こす遺伝子の数は相対的にはかなり低いのがMDSである。

  4. ちなみに(RNA)スプライシングを担う一連の蛋白群の突然変異とそれが発癌に結びつくことはこれまで知られておらず、今回の研究で初めて明らかにされた。これは非常に面白い発癌機構であると思う。

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小生の興味はこの他には突然変異の頻度である。

deep sequenceした結果MDS症例での変異数は平均9.2 ( 0-21)であり、これはこれまで固形癌での報告に比べると頻度はかなり低い
 
   固形癌での一症例平均16.2-302
  1. Lee, W. et al. The mutation spectrum revealed by paired genome sequences from a lung cancer patient. Nature 465, 473477 (2010)
  2. Shah, S. P. et al. Mutational evolution in a lobular breast tumour profiled at single nucleotide resolution. Nature 461, 809813 (2009)
  3. Varela, I. et al. Exome sequencing identifies frequent mutation of the SWI/SNF complex gene PBRM1 in renal carcinoma. Nature 469, 539542 (2011)

    2010年12月14日火曜日
    様々な癌腫の変異リスト:関連する参考文献
ミエローマでは一症例平均32.4
  1. Chapman, M. A. et al. Initial genome sequencing and analysis of multiple myeloma. Nature 471, 467472 (2011)

    2011年3月30日水曜日

    多発性骨髄腫(38例)のシークエンス:GolubやLanderの施設から


AMLでは一症例平均7.3-13
  1. Ley, T. J. et al. DNMT3A mutations in acute myeloid leukemia. N. Engl. J. Med. 363, 24242433 (2010)
  2. Mardis, E. R. et al. Recurring mutations found by sequencing an acute myeloid leukemia genome. N. Engl. J. Med. 361, 10581066 (2009)
  3. Yan, X. J. et al. Exome sequencing identifies somatic mutations of DNA methyltransferase gene DNMT3A in acute monocytic leukemia. Nature Genet. 43, 309315 (2011)
CLL では一症例平均11.5
  1. Puente, X. S. et al. Whole-genome sequencing identifies recurrent mutations in chronic lymphocytic leukaemia. Nature 475, 101105 (2011)

2011年9月9日金曜日

クヌッドソン博士健在:Natureへの寄稿(2011年8月)

Nature 476, 163-169 10 August 2011

A continuum model for tumour suppression

Alice H. Berger, Alfred G. Knudson & Pier Paolo Pandolfi

This year, 2011, marks the forty-year anniversary of the statistical analysis of retinoblastoma that provided the first evidence that tumorigenesis can be initiated by as few as two mutations. This work provided the foundation for the two-hit hypothesis that explained the role of recessive tumour suppressor genes (TSGs) in dominantly inherited cancer susceptibility syndromes. However, four decades later, it is now known that even partial inactivation of tumour suppressors can critically contribute to tumorigenesis. Here we analyse this evidence and propose a continuum model of TSG function to explain the full range of TSG mutations found in cancer.













Nature 476, 163-169




このグラフは腫瘍抑制遺伝子の量効果による腫瘍化寄与率の可能性を示しているのだろう。two hit hypothesisから40年、1922年生まれのクヌッドソン博士もいよいよ90歳に近づいておられる。ご自分の仮説について21世紀流の解釈を加えたというところか。今年のノーベル賞医学生理学賞発表は10月3日月曜日である。ノーベル賞を臨床の癌でもらうのは至難であるが、クヌッドソン博士どうであろうか、今年は。

2011年9月8日木曜日

ノーベル賞クイズ:受賞者の出身国は?

ノーベル賞クイズ

ノーベル賞の中でも医学・生理学賞の受賞者の所属国として多いのは米国、英国、独逸である。次いで多いのは瑞典、仏蘭西、瑞西、伊太利亜、墺太利、濠太剌利、デンマーク、ベルギーである。ちなみにベルギーは4名。この4人が誰かといわれても答えられる人などいないであろう。

  1. さて次はオランダの3人であるが、この3人が誰かわかるであろうか?

  2. 2人輩出した国はアルゼンチン、カナダ、ポーランド、ロシア、南アフリカがある。2人とも名前を挙げよとは言わない。しかし1人は答えて欲しいがお分かりか?易しいのはカナダとロシアかな? 難しいのはポーランドと南ア

  3. 最後は1人輩出の国:インド、スペイン、ハンガリー、フィンランド、ポルトガル、日本となる。フィンランドは難しいが、残りはそれなりに有名である

こんなのは答えを知っていてもしょうがないのであるが、あの有名人の母国はあんな小国だったのかという意外性は面白いので・・・。

答え

  1. オランダの3人はアイントーフェン(心電計)、エイクマン(ビタミンB1)、ティンバーゲン(動物行動学)である。医学生・医師ならアイントーフェンは知っているだろう。インプリンティング(刷り込み:生まれて直ぐ側にいるものを母親と認知してしまう・・・等々)に興味があるなら、ティンバーゲンやコンラッド・ローレンツの名前くらいは知っているだろう。

  2. 易しいといったわけは、カナダにはインスリンを発見したバンディングがいるからな。ロシアはメチニコフとパブロフがいる。医学生・医師なら知らないとは言わせない。アルゼンチンはモノクローナル抗体のミルシュテイン。南アはCTの開発者であるコーマック。ポーランドは「ノーベル賞の決闘」で有名なシャーリーとギルマンのうちシャーリー。脳内ペプチドホルモンの単離・同定でノーベル賞。

  3. インドはDNAコドンの決定で有名なコラーナがインド(正確にはパキスタンらしい)。スペインは神経解剖・組織学で超有名なカハール。ハンガリーはビタミンC単離のセント・ジョルジ。フィンランドは視覚のグラニト。ポルトガルは医学歴史の暗部・恥部といってもよい「ロボトミー」の開発者モーニス。前額部大脳神経切断という表現が良く用いられる。統合失調症が精神分裂病と呼ばれていた時代、開頭して前頭葉をスパッと切断して落としてしまう手術を施していたわけである。これが治療といえるのであろうか?これをノーベル賞委員会は認知したわけであるが、この時代がこの治療を許しノーベル賞まで与えてしまった背景を知ることは極めて重要であろう。統合失調症がどう捉えられていたかということにつきるわけであるが・・・。

受賞者の出身国を決めるのは実は難しいのです。Wikipedia辺りを参考にしています。移民が多く、国籍を取り直している人も多いので、スペイン(オチョアをもし入れれば2人になっちゃう)等々増減ある国もあります。硬いこと抜きでどうぞ。

Announcements of the 2011 Nobel Prizes

The Nobel Prize in Physiology or Medicine
Monday 3 October, 11:30 a.m. CET, 9:30 a.m. GMT, at the earliest

The Nobel Prize in Physics
Tuesday 4 October, 11:45 a.m. CET, 9:45 a.m. GMT, at the earliest

The Nobel Prize in Chemistry
Wednesday 5 October, 11:45 a.m. CET, 9:45 a.m. GMT, at the earliest

The Nobel Prize in Literature
According to tradition, the Swedish Academy will set the date for its announcement of the Nobel Prize in Literature later.

The Nobel Peace Prize
Friday 7 October, 11:00 a.m. CET, 9:00 a.m. GMT

Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel
Monday 10 October, 1:00 p.m. CET, 11:00 a.m. GMT at the earliest.

2011年9月2日金曜日

「学ぶ力」という文章:内田 樹作

内田 樹さんのしばらく元気がなかったブログが、ここのところ復活してきている。本日は「学ぶ力」 というとても良いお話が載っていたので転載する。といっても全文転載は気が引けるので(内田さんはいつも自分の文章の引用は御自由にと言われているので、部分的には頂くことにするが・・・)さわりを引くことにする。もともとは中学二年生用国語教科書への書き下ろしだという。

元の文章はこちらで読んでね。

http://blog.tatsuru.com/2011/09/02_1151.php
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「学ぶ力」  

日本の子どもたちの学力が低下していると言われることがあります。そんなことを言われるといい気分がしないでしょう。わたしが、中学生だとして も、新聞記事やテレビのニュースでそのようなことを聞かされたら、おもしろくありません。しかし、この機会に、少しだけ気を鎮めて、「学力が低下した」と はどういうことなのか、考えてみましょう。

そもそも、低下したとされている「学力」とは、何を指しているのでしょうか。「学力って、試験の点数のことでしょう」と答える人がたぶんほとんどだと思い ます。ほんとうにそうでしょうか。「学力」というのは  「試験の点数」のことなのでしょうか。わたしはそうは思いません。・・・・・

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