2011年8月28日日曜日

Lgr5 (family)がR-spondinと結合したあとの図:シグナル伝達


Lgr5 (family)がR-spondinと結合したあとの図


R-spondinについて簡単なレビューがnatureに追加で載った。Figureが大事かと・・・。

















幹細胞:居場所が見つかったオーファン受容体

Walter Birchmeier

Nature 476, 287–288 (18 August 2011)

  Published online 17 August 2011

・・・・・Lgr5タンパク質は腸などの幹細胞の決定的なマーカーとして貴重である。Lgr5やその近縁のタンパク質が、健康や疾病に関連する重要なシグナル伝達にもかかわっていることがわかってきた。・・・・・





2011年8月27日土曜日

14年間にわたり治療経過を観察している肺良性転移性平滑筋腫の1例

余り文献はないが、最近のものを一つnoteしておく・・・・

日本呼吸器学会雑誌, 49(4) : 271-276, 2011

14年間にわたり治療経過を観察している肺良性転移性平滑筋腫の1例

泉山典子1), 三木祐1), 斎藤泰紀2), 鈴木博義3), 菊池喜博1)


1)独立行政法人国立病院機構仙台医療センター呼吸器科, 2)独立行政法人国立病院機構仙台医療センター呼吸器外科, 3)独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床検査科病理



・・・・BMLは1939年のSteinerの報告以来,現在まで欧米では74例が報告され、本邦では著者の集計し得た範囲では本症例を含めて29例と稀な疾患である.そのため十分な症例の集積,検討が行われず,更に本疾患の病理組織像の良性所見と生物学的態度の悪性所見が必ずしも一致しないことから,その疾患概念ならびに病態について統一された見解が示されていないのが現状である.これまでの本疾患の解釈は①子宮筋腫の肺転移,② 過誤腫の亜型,③肺原発の平滑筋腫瘍が考えられている が,更にWolffらは低悪性度の子宮平滑筋肉腫の肺転移であるという考え方を主張している・・とのdiscussionである。

子宮筋腫の7割にMED12遺伝子の突然変異がある:フィンランドのAaltonenの報告

子宮筋腫はありふれた良性腫瘍であり、お腹にエコーを当てれば女性の半分くらいには筋腫が認められるのではないか・・・と思えるほど多い腫瘍である。病理組織学的には「平滑筋腫」であり、下腹部痛や出血特に慢性貧血の原因であることが多いことから子宮摘出や筋腫核出術の対象で手術も多そうだ。ありふれた病気だけに乳腺の良性腫瘍とともに、最先端の医療機器のターゲットになることも多い。すなわち「メスをいれることのない手術」である凍結手術や温熱凝固療法のターゲットになる。保険適応がない治療法であり高価である(ものも多い)。

さて、こんなにありふれた病気である子宮筋腫には昔から奇妙な病態がつきまとっていた。余り多くはないが、しかし病理の世界ではそこそこには有名な病態:「良性子宮筋腫の肺転移」である。

平滑筋腫の悪性バージョンは平滑筋肉腫であるが、筋腫ー肉腫は明確な境界があるわけではない。大きさや出血壊死像、核分裂像などが診断の基準であり、境界が明瞭でない証として「中間型」などという分類があった(今もあるのかな?)

いずれにしてもそのような組織分類で診断したとしても「良性」としか言いようがない「良性転移性平滑筋腫(benign metastasizing leiomyoma: BML)」が子宮筋腫の患者の肺に認められるというものである。この病態「良性転移性平滑筋腫」でググると2万5千件くらい検索される。いろいろ解釈があるが、しょせんおとなしく見えるけどこれは「肉腫」なのだとする考え方も多いようだ。そうでも考えないと納得できないわけだな。

このありふれてはいるが、時に解釈がむつかしい平滑筋腫について、またまたとんでもない研究成果が発表された。とりあえずBMLとは余り関係のない報告ではあるが、良性疾患における高頻度の変異遺伝子というのだから穏やかではない。フィンランドのAaltonenのグループからの報告だが、AaltonenもVogelsteinとともに何十年もの間、研究力が衰えない。素晴らしいな。

その成果だが70%の子宮筋腫にMED12遺伝子変異が認められるというものだ。225個の筋腫で調べて110個(49%)にコドン44の変異。この他のコドンにも変異は認められて、総計では159個(70%)にMED12変異があるというのだ。良性腫瘍でも変異が認められて良いわけではあるが、それにしてもこの変異頻度は例外的に高頻度だ。並行シークエンス法はすごいね、こんな変異を見つけてくる。

今回の成果が
BML(benign metastasizing leiomyoma)を説明するものではないが、しかし面白いではないか。同じ子宮でも平滑筋肉腫ではどうなのだろう? 子宮以外の筋腫、消化管の筋腫ではどうなのだろうね?

Science
Received for publication 25 May 2011.
Accepted for publication 15 August 2011.

MED12, the Mediator Complex Subunit 12 Gene, Is Mutated at High Frequency in Uterine Leiomyomas

Netta Mäkinen, Miika Mehine, Jaana Tolvanen, Eevi Kaasinen, Yilong Li, Heli J. Lehtonen, Massimiliano Gentile, Jian Yan, Martin Enge, Minna Taipale, Mervi Aavikko, Riku Katainen, Elina Virolainen, Tom Böhling, Taru A. Koski, Virpi Launonen, Jari Sjöberg, Jussi Taipale, Pia Vahteristo, and Lauri A. Aaltonen

Published online 25 August 2011

1Department of Medical Genetics, Genome-Scale Biology Research Program, University of Helsinki, Helsinki, Finland.
2CSC-IT Center for Science Ltd., Espoo, Finland.
3Science for Life Laboratory, Department of Biosciences and Nutrition, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden.
4Department of Pathology, Haartman Institute, University of Helsinki, Helsinki, Finland.
5HUSLAB, Helsinki University Central Hospital, Helsinki, Finland.
6Department of Obstetrics and Gynecology, Helsinki University Central Hospital, Helsinki, Finland.

Abstract

Uterine leiomyomas, or fibroids, are benign tumors that affect millions of women worldwide and that can cause significant morbidity. To study the genetic basis of this tumor type, we examined 18 uterine leiomyomas derived from 17 different patients by exome sequencing, and identified tumor-specific mutations in the mediator complex subunit 12 (MED12) gene in 10. Through analysis of 207 additional tumors, we determined that MED12 is altered in 70% (159/225) of tumors from a total of 80 patients. The Mediator Complex is a 26-subunit transcriptional regulator that bridges DNA regulatory sequences to the RNA polymerase II initiation complex. All mutations resided in exon 2, suggesting that aberrant function of this region of MED12 contributes to tumorigenesis.


2011年8月25日木曜日

再度「腸管気腫症」:α‐グルコシダーゼ阻害剤による医原病

今週号のNEJMのimagesは台湾から腸管気腫症である。この「腸管気腫症」症例は糖尿病薬剤であるα‐グルコシダーゼ阻害剤による医原病のようで、読むとα‐グルコシダーゼ阻害剤を中止すること3ヶ月で気腫症は消失したとのことだ。

α‐グルコシダーゼ阻害剤:小生の病院ではボグリボースという名称の薬剤であるがまあ極めてよく処方されている薬の一つだ。この薬剤は糖尿病薬としてはハンドリングが容易で安全域が広いので非専門医でも安心して使えるが、一方腹部ガスがひどく多く、女性には嫌われる薬剤の代表でもある。このガス異常発生が腸管気腫に結びつくのだろう。




日本語で
「腸管気腫症」「α‐グルコシダーゼ阻害剤」でググると900件近く検索される。良く知られている最近はやりの病態なのであろう。NEJMが良くこの投稿を採用したものだ。

この腹単やCT像(蜂の巣状と表現されている)は覚えておきたい。とはいえ腹単像はそれほど特徴的とはいえないな。やはりCT像だろうな。

以前の腸管気腫を再掲
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2009年8月20日木曜日

Pneumatosis Cystoides Coli

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2011年8月20日土曜日

ロイヤラクチンと鎌倉講師が気になる

ロイヤラクチンと富山県立大学鎌倉講師が気になる今日この頃である。

ミツバチ社会のヒエラルキー:女王蜂システムにロイヤルゼリーが深く関わっていることは昔から知られている。それ故に人間界でもロイヤルゼリーは高値の華であり、重宝されているのだろう。このロイヤルゼリーの本体、すなわち女王蜂を作る作用素の本体はなにか?これは長年にわたる謎の一つだった。この秘密を解き明かしたのが富山県立大学の鎌倉昌樹講師によるNatureの論文だったわけだが、これは発表されてすでに4ヶ月経過した。

24 April 2011

Royalactin induces queen differentiation in honeybees

Masaki Kamakura

Nature 473, 478-483 doi:10.1038/nature10093


この論文発表当時は素晴らしいものとして国内のメディアは伝えた。そうなんだけど、その後のフォローが今ひとつ物足りないのだ。小生はこの論文を読む代わりに鎌倉博士がNature Japanに投稿した日本語の解説を読ませていただきましたが、この内容は素晴らしいものだと思いました。

  1. 特にRoyalactinを単離したのち、この作用を見るのにショウジョウバエの社会にRoyalactinを持ち込み、ショウジョウバエにおいても擬似的な女王蜂を構築したという実験モデルには驚いた。

  2. 更にショウ ジョウバエの変異体(RNAi 誘導系統と Gal4 系統)を使って、ロイヤラクチン がどの組織で何の遺伝子発現を制御して いるのかを調べたところロイヤラクチンは、脂肪体(末梢の栄養を感知する組織で、脊椎 動物の肝臓と脂肪組織に相当する)の上 皮増殖因子受容体(EGFR)を介するシ グナル伝達経路を刺激することがわかっ た。

  3. 驚くべきことはこの研究は単名論文なのである。鎌倉博士は講師なのである。上司に教授がおられる、そんな普通の教室に所属されている。通常は鎌倉博士は研究室の皆さんと論文を共著で発表されているようだ。しかしこの歴史的な論文に限っては、単名なのである。二つの意味ですごいと思う。

  4. 一つは、実験系としてもかなり複雑なシステムである。ハチのシステムとショウジョウバエのシステムを維持していくだけでも大変だろう。形態変化、分子遺伝学、DNA, RNA, RNAi等々一人で進めていくにはかなり大変な実験系だと思うがよくこのシステムを動かしたものだと思う。

  5. もう一つは講師という立場である。この論文があるいは仕事が歴史的なものになるであろうことは教室の周りの皆さんもよくよく分かっておられただろう。教授が偉いのだろうな。多くの教室では、少なくとも教授は名前を併記させたがると思う。そこを単名で通せる環境というのが素晴らしい思う。
さて、その後の国内でのフォローであるが、なぜか物足りないのだ。例えばnatureは日本語による鎌倉博士の論説に続き、Nature digestの8月号で再度レビューを掲載している。

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ロイヤルゼリーの神秘の成分 pp20 - 22

Entomology: Royal aspirations

Gene E. Robinson

doi:10.1038/ndigest.2011.110820 Original source: Nature 454-455 (2011); doi:10.1038/473454a

ミツバチの幼虫を「女王」に変身させるのは、ロイヤルゼリーのどの成分なのか。長年にわたるこの謎に、ようやく決定的な答えが見つかった。この発見は、生物の社会的な特性と昆虫ゲノムの双方の進化の研究において重要な手がかりとなることだろう。

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というレポートである。

翻って国内ではどうなのだろう? 週刊誌や月刊誌がこの論文を紹介しただろうか? 新聞も最初だけ記事にしただけではないか?小生は不満である。このような面白い研究は、小学生や中学生にわかるようになんども、何度も繰り返しメディアが報道すべきである。国外の方が熱心なのだ。全く不満であるなあ。

新聞や雑誌の科学記者はこのような研究に魅力を感じないのだろうか? 
もう少し頑張ってほしいと思うのは小生だけ?

2011年8月8日月曜日

肝細胞癌で変異を起こす遺伝子ARID2・・・アジアでは否定的?

AT rich interactive domain 1A (SWI-like)

ARIDという遺伝子がある。昨年暮れには卵巣癌で高頻度に変異を起こすことが報告されたのがARID1Aである。


2010年11月3日水曜日

高率に変異を起こす遺伝子ARID1A:NEJM続報

卵巣の明細胞癌で高率に変異を起こす遺伝子ARID1Aについてサイエンスの報告をnoteしたが、NEJMにも同様の報告が載っていた。こちらも 55/119 (46%) であり、この遺伝子は知られている癌関連遺伝子の中でも極めて高率に再現性良く(といっても2報)変異を起こす遺伝子ということになるかもしれないね。追 加であるがendometorioid carcinoma(卵巣)でも10/33 (30%)と高率に変異を起こしている。

ARID1A Mutations in Endometriosis-Associated Ovarian Carcinomas

N Engl J Med 2010; 363:1532-1543October 14, 201



AT rich interactive domain 2 (ARID, RFX-like)

今回C型肝炎由来の肝細胞癌で10%程度変異をおこすという報告がARID2であった。いずれもVogelsteinらのグループが報告しているのでややこしいが、更にややこしいのはこの遺伝子北米・ヨーロッパ系の肝細胞癌でないと変異がないようなのだ。中国の肝細胞癌では61例調べても1例(1.6%)にしか変異を認めない。今ひとつわかりにくいNature Geneticsの報告である。どうしてNature Geneticsに通るのだろう?





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Nature Genetics (2011)

   Received 26 April 2011
   Accepted 14 July 2011
   Published online 07 August 2011

Inactivating mutations of the chromatin remodeling gene ARID2 in hepatocellular carcinoma

Meng Li, Hong Zhao, Xiaosong Zhang, Laura D Wood, Robert A Anders, Michael A Choti, Timothy M Pawlik, Hubert D Daniel, Rajesh Kannangai, G Johan A Offerhaus, Victor E Velculescu, Linfang Wang, Shibin Zhou, Bert Vogelstein, Ralph H Hruban, Nick Papadopoulos, Jianqiang Cai, Michael S Torbenson & Kenneth W Kinzler

Through exomic sequencing of ten hepatitis C virus (HCV)-associated hepatocellular carcinomas (HCC) and subsequent evaluation of additional affected individuals, we discovered novel inactivating mutations of ARID2 in four major subtypes of HCC (HCV-associated HCC, hepatitis B virus (HBV)-associated HCC, alcohol-associated HCC and HCC with no known etiology). Notably, 18.2% of individuals with HCV-associated HCC in the United States and Europe harbored ARID2 inactivation mutations, suggesting that ARID2 is a tumor suppressor gene that is relatively commonly mutated in this tumor subtype.