2011年4月13日水曜日

大腸過形成性ポリープ:最近の「こまった」話題

大腸の過形成性ポリープの一部に発癌ポテンシャルを持つ一群が混在するという報告がある。最近このような動きがちらつくようである。
これはとても困る。過形成は過形成であって、hyperplasticはあくまでself limittedであるから、すなわち良性でなくてはいけない・・・・・・というのが病理学の基本原理である。これがゆらぐようでは困るのである。

このようなサブタイプに私たちが遭遇するとして、結果「取り逃がさない」「見逃さなければ」それでいいのだが、その大腸ファイバー観察上の特徴はなんだろう?よくわからないのが現状である。

右側大腸にあり、大きさは10mmは越えている。有茎というよりは無茎性ポリープであり、肉眼的に「あっ、これsessile adenomaかも」なんていう印象を持つ一群の中に含まれてくるようだ。 EMR.ESDの病理組織の結果にSSA/SSPなんていう診断名がついてくる可能性がある。これをsessile serrated adenoma/ sessile serrated polypという。あえて日本語化すると無茎性鋸歯状腺腫/無茎性鋸歯状ポリープ、こんなやつ↓である。


私たち臨床家としては結果として癌を見逃さなければ良いのである。あるいは高頻度で癌化する前癌病変を見逃さなければ良いのだが、それでも「過形成性ポリープ」の中に癌化する可能性があるものがあるというような「物騒な」表現は気持ち悪い。病理が「過形成性」とつけるのなら、それは癌であっては困る。

病理学者は、一般臨床家の前で公言する前に、コンセンサスを作っておいて欲しい。病理は基本HEによる顕微鏡レベルの形態学的診断を本旨とする。過形成性組織像に似ているが、やはり違うということをきちんとさせてそんな一群には「過形成性という言葉を迂回した病理組織学的診断名」を付けて欲しい。

いやそこの貴方私ら病理学者はいちども過形成性ポリープが癌化するとはいっとらんぞ、私らがいっておるのは「大腸鋸歯状病変」というサブグループのことであるぞ。とあなた方は言われるかも知れない。でも文献・テキストを読みますと、病理で鋸歯状病変といえばそれは過形成性変化を指すのではないでしょうか?実にわかりにくいのね。
ところでこんな病変が癌化する可能性はどれくらいあるのだろう?

大腸病理の専門家の仕事でこんな報告もある。



胃と腸 ISSN 0536-2180 (Print) ISSN 1882-1219 (Online) 42巻3号(2007.03)P.288-298(ISID:1403100966)

大腸鋸歯状病変の発生と発育進展─発育進展―鋸歯状腺腫と過形成性ポリープの癌化

原岡 誠司 ※1
岩下 明徳 ※1
太田 敦子 ※1

※1 福岡大学筑紫病院病理部

【キーワード】 serrated adenoma,hyperplastic polyp,癌化,cytokeratin,粘液形質


 癌を合併した鋸歯状腺腫(SA)14病変および癌を合併した過形成性ポリープ(HP)11病変について,臨床病理学的に検討した.発生部位は癌合併SAの64%,癌合併HPの80%が盲腸~横行結腸であり,右側結腸に多くみられ,病変の大きさは両者 ともに平均16mmであった.肉眼形態は癌合併SAは有茎性隆起が多く,癌合併HPでは無茎性隆起が多かった.癌の多くは粘膜内に限局する高分化腺癌 で,SA成分やHP成分より構成割合の少ない病変が多く認められた.免疫組織学的にcytokeratin(CK)7は,癌合併SAにおけるSAで 35.7%,癌部で50%に陽性であり,癌合併HPではHPで27.3%,癌部では36.4%が陽性であった.特に癌合併SAにおける癌部の50%は CK7+/CK20+であった.癌を合併するSAおよびHPにおけるCK7の発現頻度は癌病巣で最も高く,次いでSA,HPという傾向がみられた.粘液形 質の発現については混合型(胃腺窩上皮型+腸型)粘液形質の発現(MUC5AC+/MUC2+)を示すものが,癌合併SAにおけるSAで78.6%,癌部 は42.9%,癌合併HPのHPは全病変で,その癌部では90.9%を占めた.癌合併SA病変において胃型粘液形質を発現する頻度は高く,癌合併HP病変 においてはその多くがHP,癌成分ともに胃型粘液形質を発現していた.以上より,SAおよびHPに合併する癌は,通常の大腸癌とは異なる,併存病変に類似 した免疫組織学的特徴を有するものがあり,SAおよびHPは一部の大腸癌の前駆病変であることが示唆された.

福大筑紫病院で14例、11例であるから推して知るべしといったところなのかもしれないな。

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