2011年4月27日水曜日

自己抗体を振り返る(1)

外科系を歩いてきた小生に自己抗体を振り返る資格があるかといえば、無くはない。大学院時代ヒト型抗体が研究テーマだったので、坦癌患者や健常人の末梢血に「いかに多くの自己組織と反応する抗体を作るリンパ球がいるか」実感はあるのだ。小生の研究手法では末梢血からリンパ球を分離し、EBウイルスによるトランスフォームでオリゴクローン化するというものであった。EBウイルスではsingle cellからの増殖は不可能であることは同様の研究をされている方には自明であろう。しかし5ー6個のオリゴクローンからなら増えてくる。このオリゴクローンは事実上は抗体産生については単クローンと見なして良い。

研究の主たるテーマとして自分の癌と反応するクローンを見つけることに心血を注いでいた小生としては、山のようにクローン化されてくる「抗核抗体」がじゃまでじゃまで腹がたつやらあきれるやらであった。自分の成分に対する免疫反応は「禁止クローン」となっているのが当時の定説だったので、これも寛容かと思いつつ、これではあまりにルーズな免疫システムではないかと理論と実際の乖離にあきれたものだ(実際はそこまで乖離していないというのがその後わかったのだが、これはこれ)

さて最近2週間で自己抗体にまつわることが2回もあったので、最近の抗体業界がどうなっているかを振り返ってみたわけだ。その2回とはこうだ。

その(1):35歳の女性が1週間前から朝のこわばり、つまり四肢指の関節痛と腫脹を訴えてやってきた。中途は省くがCRPは5以上と中等度に高かったので内科にお回ししたところRAを疑われてCCPというものを測定された。このCCPというものに興味を持ったわけだ。これは膠原間質組織にあるflagerinという蛋白に対する「自己抗体」であり、いわゆる膠原病のなかでもRAに比較的特異的に発現するらしい。RFとともに診断基準(2009年のRA診断基準)の最初の項目に取り上げられているわけだ。自己抗体ですか。ふむふむ。ところでどうやって測定するんだろう。

まず人工的にflagerinペプチドを合成するわけだ。これを96孔プレートに固相化する。ふむふむ。そして患者血清を振りかける。洗う。そして反応基をカップリングされた抗ヒトIgG抗体(マウス由来)を二次抗体として振りかけるわけだ。またまた洗う。そして反応基質をいれて待つこと数分。反応色素の濃さを読み取るわけだな。まあ単純なELISA(Enzyme-Linked-Immuno-Sorbent-Assay) そのものである。

いくつかのことがわかる。対応抗原は短いペプチドである。これを工夫進化させたことで今現在3世代目のELISAキットがあるのだそうだ。2代目からは合成したペプチドの両端をカップリングさせて(まあお手々をつながせて・・ということ)円環状にしている。これでグッと反応性があがるのだそうだ。これがCCPの由来。すなわちcyclic citrullinated peptide。んっ?まんなかのシトリンって何?これは関節リウマチになるとこのflagerin蛋白の一部がシトリン化するらしい。この部分を反応抗原ペプチドに取り入れているということだ。

ここまでマニアックだと正常人血清では反応しないだろうと思われるかも知れないが、実は反応価は低いが弱陽性では反応するらしい。しかしこれは実験室レベルの話かも知れない。実際の臨床現場では、この程度のことはなんのその。十分に十二分にお役に立っているということである。

その(2):25歳女性:1週前から左の頚部リンパ節が累々と腫れている。痛い。発熱無し。白血球減少あり(2300→
1900
1600)。詳しいことは省くがまたまた「菊池病」の可能性がある方がやってきたわけだ。小生のよく知っている女子なので生検はなるだけ避けたい。2週間目までは小生が見たがリンパ節はますます腫れている。ややこしい病気を見逃すわけにはいかないので、ここでこの町でもっとも私が信頼する血液リンパ内科の先生へご紹介した。一ヶ月で何回か見てもらったが、炎症のピークはようやく過ぎたようだ。かの先生の見立ても「(暫定)菊池病」であった。生検はしていない。(生検しないでほしいなんて、全く言ってない。むしろ確定診断して欲しかったのだが)。お返事のお手紙にいろいろな検査結果が書いてあったが、その彼女が「血液検査だけなのに高かった!」とぼそぼそ言う。わがまま言うんじゃない!その検査結果の中にANAの結果がずらっと載っていたわけだ。ANAこれは抗核抗体なのだ。これがびっくりするくらい種類が多い。これには驚いた。自己抗体である抗核抗体について次回書いてみよう。

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