2011年3月30日水曜日

膵内分泌腫瘍のゲノム解析:Vogelsteinの新作サイエンス

ちょっと古い論文であり、膵内分泌腫瘍のゲノム解析という特殊な研究であるがVogelsteinに敬意を示してnoteする。一般の膵癌とは随分違うものだ。PDACとは通常の膵癌(ductal adenocarcinoma)の事である。PanNETとはpancreatic neuroendocline tumorである。68例もよく集めて解析したものだ。
通常の膵癌でのKRAS 100%やp53 85%というのもこれは確定頻度に近いのだろうな。

先日大腸癌のKRAS変異頻度について面白いデータを教えてもらった。論文の上では実に様々な数字が出ていたものだが、最近は例の分子標的(アービタックスやベクティビックス)の投薬適応条件としてまずKRAS変異を調べることが必須になってきたので、実は武田やメルクには膨大なデータが存在する。40%というのが現状数千例の変異頻度ということだ。先行していた諸外国の値も実は40%だったという。KRAS変異:日本も世界と変わらず40%なんだ。

(注解)この40%は「大腸癌
全体におけるKRAS変異の頻度」ではないということを付記しておかなければならないことに気がついた。なぜなら調査対象は分子標的(アービタックスやベクティビックス)を受ける患者群なのである。手術不能の進行癌か術後再発転移群なのである。悪性度がより高いサブグループにおける頻度が40%であったと理解すべきなのだね。

Published Online 20 January 2011
Science 4 March 2011:
Vol. 331 no. 6021 pp. 1199-1203

DAXX/ATRX, MEN1, and mTOR Pathway Genes Are Frequently Altered in Pancreatic Neuroendocrine Tumors


Yuchen Jiao, Chanjuan Shi, Barish H. Edil, Roeland F. de Wilde, David S. Klimstra, Anirban Maitra, Richard D. Schulick, Laura H. Tang, Christopher L. Wolfgang, Michael A. Choti, Victor E. Velculescu, Luis A. Diaz Jr., Bert Vogelstein, Kenneth W. Kinzler1, Ralph H. Hruban, and Nickolas Papadopoulos

例によってダブルクリックで大きくなります。

















Abstract

Pancreatic neuroendocrine tumors (PanNETs) are a rare but clinically important form of pancreatic neoplasia. To explore the genetic basis of PanNETs, we determined the exomic sequences of 10 nonfamilial PanNETs and then screened the most commonly mutated genes in 58 additional PanNETs. The most frequently mutated genes specify proteins implicated in chromatin remodeling: 44% of the tumors had somatic inactivating mutations in MEN1, which encodes menin, a component of a histone methyltransferase complex, and 43% had mutations in genes encoding either of the two subunits of a transcription/chromatin remodeling complex consisting of DAXX (death-domain–associated protein) and ATRX (α thalassemia/mental retardation syndrome X-linked). Clinically, mutations in the MEN1 and DAXX/ATRX genes were associated with better prognosis. We also found mutations in genes in the mTOR (mammalian target of rapamycin) pathway in 14% of the tumors, a finding that could potentially be used to stratify patients for treatment with mTOR inhibitors.

多発性骨髄腫(38例)のシークエンス:GolubやLanderの施設から

Nature 471, 467–472 (24 March 2011)

Initial genome sequencing and analysis of multiple myeloma

  • Multiple myeloma is an incurable malignancy of plasma cells, and its pathogenesis is poorly understood. Here we report the massively parallel sequencing of 38 tumour genomes and their comparison to matched normal DNAs. Several new and unexpected oncogenic mechanisms were suggested by the pattern of somatic mutation across the data set. These include the mutation of genes involved in protein translation (seen in nearly half of the patients), genes involved in histone methylation, and genes involved in blood coagulation. In addition, a broader than anticipated role of NF-κB signalling was indicated by mutations in 11 members of the NF-κB pathway. Of potential immediate clinical relevance, activating mutations of the kinase BRAF were observed in 4% of patients, suggesting the evaluation of BRAF inhibitors in multiple myeloma clinical trials. These results indicate that cancer genome sequencing of large collections of samples will yield new insights into cancer not anticipated by existing knowledge.

Michael A. Chapman, Michael S. Lawrence, Jonathan J. Keats, Kristian Cibulskis, Carrie Sougnez, Anna C. Schinzel, Christina L. Harview, Jean-Philippe Brunet, Gregory J. Ahmann, Mazhar Adli, Kenneth C. Anderson, Kristin G. Ardlie, Daniel Auclair, Angela Baker, P. Leif Bergsagel, Bradley E. Bernstein, Yotam Drier, Rafael Fonseca, Stacey B. Gabriel, Craig C. Hofmeister, Sundar Jagannath, Andrzej J. Jakubowiak, Amrita Krishnan, Joan Levy, Ted Liefeld, Sagar Lonial, Scott Mahan, Bunmi Mfuko, Stefano Monti, Louise M. Perkins, Robb Onofrio, Trevor J. Pugh, S. Vincent Rajkumar, Alex H. Ramos, David S. Siegel, Andrey Sivachenko, A. Keith Stewart, Suzanne Trudel, Ravi Vij, Douglas Voet, Wendy Winckler, Todd Zimmerman, John Carpten, Jeff Trent, William C. Hahn, Levi A. Garraway, Matthew Meyerson, Eric S. Lander, Gad Getz & Todd R. Golub

The Eli and Edythe L. Broad Institute, 7 Cambridge Center, Cambridge, Massachusetts 02412, USA(所属施設は多いので筆頭とランダー、ゴーラブの施設だけ引用した)

2011年3月27日日曜日

福島原発放射線拡散の系時的地図イメージ

朝テレビを見ていたら、大震災以降の放射線拡散の系時的地図イメージが出てきた。一瞬だったがこんな情報があるのかとちと驚いた次第である。直ぐに画面は消えたがキーワードを2個記憶した。「フランス」と「SPEEDI」であるが、Googleするとすぐにこれが、フランスIRSN(放射線防護原子力安全研究所)が作った「福島原発放射線拡散の系時的地図イメージ」のYoutubeイメージであることが知れた。

これが新たに我々に告げる新事実はないかもしれない。しかし、この程度のデータも国内では公表されないというのは困ったものだ。

フランスが今回の原発事故に敏感であると前にも触れたが、何故なのか?
実はフランスは世界一のプルサーマル先進国なのである。敏感にならざろうえないかもしれない。私たちとしては、少し醒めた目でフランスの情報は眺めた方が良いと思うが、しかし同様の情報が今後も日本の外では公開されていくだろうことは意識しておいてよいと思う。

2011年3月25日金曜日

プルトニウムが使われているということをどう受け止めたらよいのか?

福島原発の三号機にプルトニウムーウラニウム混合燃料が使われているのだというニュースを先ほど知った。いわゆるプルサーマルであり、知られている日本の原発では九州の玄海発電所などで使われている。ところで昨年12月の時点でこのプルサーマル燃料が福島原発の三号機に使われ始めているのだそうだ。しかもこの事実は公知である例えば読売新聞は昨年8月21日に報道している

このことを政府やNHKやメディアに登場する原子力の専門家はこれまで触れてこなかった。どうしてだろう?3号機の白煙や黒煙にプルトニウムが混在している可能性はあると思うが、地区ごとの放射線値としてヨウ素やセシウム以外にプルトニウムの濃度測定も発表したほうがよいのではないかと思う。

現在わかっていることは
  1. MOX燃料プルトニウムーウラニウム混合燃料)が昨年から福島原発の三号機に使われているということ
  2. 福島原発の三号機は破損しているということ
この二つが諸外国の過剰とも思える反応(特にフランス)の原因だとしたら、それは困る。海外報道ではプルトニウムの話題がホットのようだ。問題ないのなら、過剰報道の火を消さなくてはいけない。

今現状はどうなのか?プルトニウムは漏出していないと政府は宣言してほしい。あとから「実は・・・」では困るのだ。

2011年3月20日日曜日

大震災を伝える写真196枚:ワシントンポスト紙のギャラリーから

地震についての報道に戸惑いを覚え始める今日この頃である。報道管制されている部分があるようである。メディアの意識的な制限と無意識の抑制とによるものである。こんな時は海外の報道に目を向けてもよい。今日の世界は「リビア」一色であろうと思ったが、かならずしもそうでない。

ニューヨークタイムスは福島原発について厳しい記事をきっと載せているだろうと思ったが、あいにく気が付かなかった。そのかわり日本人のメンタリティについてー好意的なのだろうーコラムが載っていた。「The Japanese Could Teach Us a Thing or Two」というそのコラムは読んでみてちと複雑な気分にさせられた。

ワシントンポストには地震勃発以来の写真ギャラリーがあるのを見つけた。196枚のその写真集は、日本のメディアが意識的に避けている「body」にも視線を寄せている(言うまでもないが直接的なものではない)。それと同時に避難所で体操をする避難民の皆さんの写真もあったりして、随分奥行きの深い報道写真で感じ入った。

http://www.washingtonpost.com/world/massive-rescue-cleanup-efforts-underway-in-japan/2011/03/12/AB2d0aS_gallery.html#photo=100

2011年3月19日土曜日

加齢黄斑変性にこだわる理由

眼科の病気なのに、外科の小生が気になっているのはなぜか? いくつかの理由がある。
  1. 最も大きな理由はVGEFに対する分子標的薬剤が標準治療(?)として使われている疾患であること
  2. さらにはなんとアプタマーが臨床応用されている疾患であること
  3. これらはいずれも眼球内に直注射投与するわけだが、この投与法も非眼科医である小生には印象的
  4. 失明といえば糖尿病性網膜症しか知らなかった小生には、もう一つの失明原因として最近とみに話題になるこの病気が気になる。自分がなるのではないかという怖れは確かにあるのだな。
  5. この病態には2つの病型がある。「滲出型」と「非滲出型」である。滲出型」というのは血管増殖型であり頻度的には「非滲出型」の2倍あるという。話題の抗VEGF抗体(アプタマー)は当然抗血管薬剤だから適応は前者滲出型」である。
  6. 今回Aluが貯まりDICERがそれを処理できないことで発症するタイプは後者「非滲出型」であり、これを萎縮型という。網膜黄斑部にはドルーゼン(なんだか懐かしい言葉)がたまりこれがgeographic atrophyとして観察されるのかな。この古典的病理所見を呈する細胞変性の原因がAlu発現異常というのだから、いきなりぶっ飛んでいるのである。
  7. 今回Aluのことを調べてみると東工大の岡田教授の教室が詳しいHPを作っておられた。この岡田教授は例の「鯨はカバにに最も近い」という報告をNatureに1997年頃報告して有名になった方である。
以下、難病情報センター:加齢黄斑変成より引用
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/011_i.htm
欧米の研究結果
  • 人口あたりの頻度:チェサピークベイ(米国)の住人を対象にした場合、50歳以上の1.8%が加齢黄斑変性であり、米国の人口に 換算すると75歳以上では640,000人が加齢黄斑変性であると推定されている。ビーバーダム(米国)の住人を対象にした場合、人口の1.6%、75歳 以上の7.1%、ロッテルダム(オランダ)の55歳以上の住人の1.7%、85歳以上の11%、ブルーマウンテン(オーストラリア)の49歳以上の住民の 1.9%、85歳以上の18.5%が加齢黄斑変性に罹患していると報告されている。滲出型と非滲出型の比はいずれの研究でも2:1ある。性比は 1.9:1.6(ビーバーダム)、1.9:1.4(ロッテルダム)、2.4:1.9(ブルーマウンテン)と女性に多い。しかし、これらのスタディでは年齢 をマッチさせて比べると性差は有意ではない。
我が国における調査結果
  • 1998年に九州久山町の50歳以上の住民を対象におこなわれた調査では少なくとも1眼に滲出型を有する人は0.67%、萎縮型 を有する人は0.2%であり、人口に換算すると滲出型は約35万人、萎縮型は10万人になる。男女比は3:1で男性に多い。5年発症率は滲出型0.6%、 萎縮型0.3%と報告されている。2000〜2002年に舟形町に住む35歳以上の住民を対象にした検討では、加齢黄斑変性は0.5%に見られたと報告さ れた。加齢黄斑変性は滲出型は特に視力予後不良であり、社会的失明の主要疾患として来るべき高齢化社会の問題点になると予測されているので、以下滲出型に ついて述べる。
治療薬としての抗VEGF薬
 Ranibizumab
  • 2009年、わが国においてRanibizumab(Lucentis®)0.5mgが承認、販売された。RanibizumabはVEGF-Aの全ての アイソフォームを阻害できるBevacizumabの断片であり、マウス由来のヒト化モノクロナール抗体である。Ranibizumabの分子量は 48kDであり、しかもBevacizumabのアミノ酸配列を一部変更してあるため、硝子体内投与によって網膜を浸透しやすく、VEGFへの親和性は Bevacizumabよりさらに強力になっている。海外で行われたminimally classic CNVとoccult CNVを対象にした臨床研究では0.3mgと0.5mgの4週毎の硝子体内投与によって3か月後視力は改善し、12か月後0.3mgで6.5文字、 0.5mgで7.2文字、24か月後それぞれ5.4文字、6.6文字の視力の改善が維持された。また、Predominantly classic CNVを対象にして同様の方法で行われた臨床研究でも3か月後視力は改善し、12か月後0.3mgで8.5文字、0.5mgで11.3文字、24ヵ月後そ れぞれ8.1文字と10.7文字の改善が維持されている(5文字は少数視力表の約1段に相当)。わが国の同様の臨床試験では0.5mg投与開始6か月後 9.0文字、12か月後10.5文字の改善が得られた。硝子体内投与の際の眼内炎の発症は1/1200〜1/2000程度とされている。わが国の臨床治療 研究に際しては、眼内炎の発症はなく、一過性の高眼圧が認められる程度で、重篤な有害事象は報告されていない。中心窩CNVに対して、視力改善が得られた 治療法はこれまでなかったことを考えると、AMDの治療の第一選択になった。しかしRanibizumabは全てのVEGFを阻害するため正常な VEGF-Aの作用を阻害する可能性がある。脳血管障害の既往がある場合にはそれらの再発が起こりやすくなる可能性があり、riskとbenefitを考 えて投与を決める必要がある。改善された視力を維持し、なるべく安全に使用するために、一般臨床ではRanibizumabは3か月間、月1回、計3階の 投与を行い、その後は1か月に1回視力や眼底検査、OCTを行い、必要であれば再投与を行う方法がとられている。
 Pegaptanib
  • Pegaptanib(Macugen®)は2008年眼科で初めて承認、発売された抗VEGF薬である。VEGF165分子に対するアプタマーである。 アプタマーとは標的蛋白質と特異的に結合する核酸分子であり、Pegaptanibの場合にはVEGF165が標的蛋白であり、VEGF165が抗体と結 合するのを阻害する。欧米で行われた検討では6週毎の0.3mg、計9回の硝子体内投与によって54週後15文字未満の視力低下は70%であり、未治療群 に比較して有意に良好であることが示された。この成績は欧米におけるPDTの成績とほぼ同じである。わが国における0.3mgを用いて同様の方法で行われ た臨床試験では54週後15文字未満の視力低下は79%であった。本剤の欠点はVEGF121など他のVEGF-Aの活性を阻害で きないため、抗血管新生作用が弱いことである。しかし、アプタマーであるので免疫性がなく、安全性が高い。抗VEGF薬治療はCNVの活性を抑えるための 導入期と抑えたまま維持するための維持期において複数回投与が必要である。薬剤の特性を考えるとPegaptanibは維持療法に適している。また病変サ イズが小さな初期例に対する治療効果が期待できる。

2011年3月18日金曜日

最近気になる論文から・・・3報

今度の地震や津波あるいは原子力発電所災害で苦労されている方々には本当にご苦労様ですと申し上げたい。これだけ多くの被災者がおられるので、さすがに小生の親戚・知己も多少は災害に巻き込まれている。従兄弟は空港近くにあった新築の家を津波で流されたが、奇跡的に一家3人は助かったと連絡を受けた。老いた両親はその後も続く余震、電力制限、物資の欠乏に悩まされ続けている。電池や薬をそのたびごとに送るのだが、日にちが大変かかる。しょうがないとはいえつらい日々である。

しばらく休んでいた文献整理をやっておこう。
3つほど・・・・・

Cancer Cell
Volume 19 Issue 3: March 15, 2011

Cooperativity within and among Pten, p53, and Rb Pathways Induces High-Grade Astrocytoma in Adult Brain

Lionel M.L. Chow, Raelene Endersby, Xiaoyan Zhu, Sherri Rankin, Chunxu Qu, Junyuan Zhang, Alberto Broniscer, David W. Ellison, Suzanne J. Baker

Mutations in the PTEN, TP53, and RB1 pathways are obligate events in the pathogenesis of human glioblastomas. We induced various combinations of deletions in these tumor suppressors in astrocytes and neural precursors in mature mice, resulting in astrocytomas ranging from grade III to grade IV (glioblastoma). There was selection for mutation of multiple genes within a pathway, shown by somatic amplifications of genes in the PI3K or Rb pathway in tumors in which Pten or Rb deletion was an initiating event. Despite multiple mutations within PI3K and Rb pathways, elevated Mapk activation was not consistent. Gene expression profiling revealed striking similarities to subclasses of human diffuse astrocytoma. Astrocytomas were found within and outside of proliferative niches in the adult brain.

興味深い論文であるが読む暇がない。誰か読んで教えてくれないものだろうか?



Nature (13 March 2011) on line

Tumour evolution inferred by single-cell sequencing

Nicholas Navin, Jude Kendall, Jennifer Troge, Peter Andrews, Linda Rodgers, Jeanne McIndoo, Kerry Cook, Asya Stepansky, Dan Levy, Diane Esposito, Lakshmi Muthuswamy, Alex Krasnitz, W. Richard McCombie,James Hicks & Michael Wigler

Genomic analysis provides insights into the role of copy number variation in disease, but most methods are not designed to resolve mixed populations of cells. In tumours, where genetic heterogeneity is common, very important information may be lost that would be useful for reconstructing evolutionary history. Here we show that with flow-sorted nuclei, whole genome amplification and next generation sequencing we can accurately quantify genomic copy number within an individual nucleus. We apply single-nucleus sequencing to investigate tumour population structure and evolution in two human breast cancer cases. Analysis of 100 single cells from a polygenomic tumour revealed three distinct clonal subpopulations that probably represent sequential clonal expansions. Additional analysis of 100 single cells from a monogenomic primary tumour and its liver metastasis indicated that a single clonal expansion formed the primary tumour and seeded the metastasis. In both primary tumours, we also identified an unexpectedly abundant subpopulation of genetically diverse ‘pseudodiploid’ cells that do not travel to the metastatic site. In contrast to gradual models of tumour progression, our data indicate that tumours grow by punctuated clonal expansions with few persistent intermediates.




ダブルクリックで大きくなる・・・。
























鬼才ウィグラーの畢竟の論文・・・にはならないだろうが、個人的には非常に興味深い論文。一細胞を追いかけるというのは小生の究極の夢であったから。10年前から臨床の癌で[Single cell fate analysis]が早く出来ないものかと思っていた。この論文はretorospectiveだが、できたらprospectiveが見てみたいものだ。ウィグラー小生には随分久しぶりである。Cold Spring Harborでいまも頑張っているのだね。



Nature

Volume:471,
Pages:325–330
Date published:17 March 2011)

Received30 July 2010
Accepted18 January 2011
Published online 06 February 2011

DICER1 deficit induces Alu RNA toxicity in age-related macular degeneration


Hiroki Kaneko, Sami Dridi, Valeria Tarallo, Bradley D. Gelfand, Benjamin J. Fowler, Won Gil Cho, Mark E. Kleinman, Steven L. Ponicsan, William W. Hauswirth, Vince A. Chiodo, Katalin Karikó, Jae Wook Yoo, Dong-ki Lee, Majda Hadziahmetovic, Ying Song, Smita Misra, Gautam Chaudhuri, Frank W. Buaas, Robert E. Braun, David R. Hinton, Qing Zhang, Hans E. Grossniklaus, Jan M. Provis, Michele C. Madigan, Ann H. Milam, Nikki L. Justice, Romulo J. C. Albuquerque, Alexander D. Blandford, Sasha Bogdanovich, Yoshio Hirano, Jassir Witta, Elaine Fuchs, Dan R. Littman, Balamurali K. Ambati, Charles M. Rudin, Mark M. W. Chong, Patrick Provost, Jennifer F. Kugel, James A. Goodrich, Joshua L. Dunaief, Judit Z. Baffi & Jayakrishna Ambati

Geographic atrophy (GA), an untreatable advanced form of age-related macular degeneration, results from retinal pigmented epithelium (RPE) cell degeneration. Here we show that the microRNA (miRNA)-processing enzyme DICER1 is reduced in the RPE of humans with GA, and that conditional ablation of Dicer1, but not seven other miRNA-processing enzymes, induces RPE degeneration in mice. DICER1 knockdown induces accumulation of Alu RNA in human RPE cells and Alu-like B1 and B2 RNAs in mouse RPE. Alu RNA is increased in the RPE of humans with GA, and this pathogenic RNA induces human RPE cytotoxicity and RPE degeneration in mice. Antisense oligonucleotides targeting Alu/B1/B2 RNAs prevent DICER1 depletion-induced RPE degeneration despite global miRNA downregulation. DICER1 degrades Alu RNA, and this digested Alu RNA cannot induce RPE degeneration in mice. These findings reveal a miRNA-independent cell survival function for DICER1 involving retrotransposon transcript degradation, show that Alu RNA can directly cause human pathology, and identify new targets for a major cause of blindness.

加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい、Age-related Macular Degeneration: AMD)とは、加齢に伴い眼の網膜にある黄斑部が変性を起こす疾患である。失明の原因となりうる。最近ではマスコミで盛んに喧伝されている疾患である。この病気の原因が
Alu リピートの発現過剰であるというのだ。 驚くではないか!

一般の病気で
Alu の直接関連を示唆するようなものはこれまで無かったはずだ。だいたいAlu は短いし(250〜60塩基、壊れていないフルの状態で)、ほとんどのAluは発現レベルでは死んでいる(はずだ)。

当該論文ではmicroRNAのコンテクストでDICERとからんで
Alu がこの網膜細胞(色素細胞)で過剰に発現するとtoxicであるというのが論旨のようだ。ゲノム屋でLINEやAluと長い付き合いがある小生には、にわかにはピンとこない論文である。Aluが発現するとなんでtoxicなの?ゲノムレベルでのAlu integrationはよく知られた事象なのだが、今ひとつよくわからない。続報が待たれる。一発花火はナシだぜ。

2011年3月10日木曜日

トリプルネガティブ乳癌を説明するPTPN12:最新のCellから

Cell, Volume 144, Issue 5, 703-718, 4 March 2011

Activation of Multiple Proto-oncogenic Tyrosine Kinases in Breast Cancer via Loss of the PTPN12 Phosphatase

トリプルネガティブ乳癌(TNBC)とは二つのホルモンレセプター(エストロゲン、プロゲステロン)と成長因子Her2レセプターのいずれもを欠く乳癌であ り、日本人乳癌では15~20%を占める。悪性度がより高い癌である。また術前にせよ術後にせよホルモン治療や分子標的療法(ハーセプチンやタイケルプ) が使えないという困ったサブタイプである。必然的に抗がん剤主体の治療ということになる。分子分類でbasal likeと呼ばれるサブタイプと「かなり」オーバーラップしているというが、まあ80%というのが最も進んだ研究成果であろう(先日のNEJM総説)

こ のTNBCを起こす分子基盤として PTPN12が関与しているというのが今回のセル論文の骨子である。この PTPN12とはチロシンフォスファターゼでありファスファターゼであるから「よい子ちゃん」役であるーーつまり腫瘍抑制遺伝子の可能性があるというものである。そしてこのPTPN12は一番下にある図のごとくEGFR、Her2などの上流にあってこれらを制御する。

ざっと眺めてみたが、vitro系の実験はさすがに素晴らしい。でも小生は臨床サイドの人間なので「実際のヒト乳癌TNBCでの突然変異の頻度は?」と問いたくなる。

(1)まず遺伝子変異は・・・?  これはあるのである。素晴らしい。しかしその頻度は低い。

  Tumor-type    PTPN12-mutant
  -----------------------------------------------------------
  ER- / HER2-       4/83 (4.8%)
  ER+ or HER2+   0/202 (0.0%)      p<0.001

説明するまでもないことであるが、285例の乳癌で変異は4例である。しかしTNBCでない乳癌202例に突然変異症例は一例もない。一方ヒト乳癌TNBC(PgR情報がないが、まあ良しとしよう)では4例(5%)に突然変異を認めたというものである。低いなあ。

(2)そこで蛋白発現量で見たのがFig4の右下に載っている。引用できないのが残念だが、なに簡単な頻度表である。

   ER- / HER2-      70%~の症例でPTPN12抗体発現が陰性

   ER+ & HER2-    35%~の症例でPTPN12抗体発現が陰性

   ER- & HER2+    10%~の症例でPTPN12抗体発現が陰性

TNBC乳癌ではPTPN12蛋白発現陰性症例が多い・・・ということを示している。

今後PTPN12 がどのような進歩を見せるのか楽しみである。乳癌ではER,PgR,Her2いずれも治療に結びついている。PTPN12が第4の因子となりうるのか? あるいは乳癌のPTPN12蛋白発現と予後の関連など大規模検索で見てみたいものである(どうせ直ちに報告されるだろうが・・)

  • Among breast cancers, triple-negative breast cancer (TNBC) is the most poorly understood and is refractory to current targeted therapies. Using a genetic screen, we identify the PTPN12 tyrosine phosphatase as a tumor suppressor in TNBC. PTPN12 potently suppresses mammary epithelial cell proliferation and transformation. PTPN12 is frequently compromised in human TNBCs, and we identify an upstream tumor-suppressor network that posttranscriptionally controls PTPN12. PTPN12 suppresses transformation by interacting with and inhibiting multiple oncogenic tyrosine kinases, including HER2 and EGFR. The tumorigenic and metastatic potential of PTPN12-deficient TNBC cells is severely impaired upon restoration of PTPN12 function or combined inhibition of PTPN12-regulated tyrosine kinases, suggesting that TNBCs are dependent on the proto-oncogenic tyrosine kinases constrained by PTPN12. Collectively, these data identify PTPN12 as a commonly inactivated tumor suppressor and provide a rationale for combinatorially targeting proto-oncogenic tyrosine kinases in TNBC and other cancers based on their profile of tyrosine-phosphatase activity.

  • Tingting Sun, Nicola Aceto, Kristen L. Meerbrey, Jessica D. Kessler, Chunshui Zhou, Ilenia Migliaccio, Don X. Nguyen, Natalya N. Pavlova, Maria Botero, Jian Huang, Ronald J. Bernardi, Earlene Schmitt, Guang Hu, Mamie Z. Li, Noah Dephoure, Steven P. Gygi, Mitchell Rao, Chad J. Creighton, Susan G. Hilsenbeck, Chad A. Shaw, Donna Muzny, Richard A. Gibbs, David A. Wheeler, C. Kent Osborne, Rachel Schiff, Mohamed Bentires-Alj, Stephen J. Elledge, Thomas F. Westbrook Verna & Marrs McLean

  • Department of Biochemistry & Molecular Biology, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Department of Molecular & Human Genetics, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Department of Pediatrics, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Division of Biostatistics, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Dan L. Duncan Cancer Center, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA The Lester & Sue Smith Breast Center, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Department of Medicine, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Department of Molecular & Cellular Biology, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA The Human Genome Sequencing Center, Baylor College of Medicine, One Baylor Plaza, Houston, TX 77030, USA Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research, Basel CH-4002, Switzerland Howard Hughes Medical Institute, Department of Genetics, Harvard Medical School, Division of Genetics, Brigham & Women's Hospital, Boston, MA 02115, USA Department of Cell Biology, Harvard Medical School, Boston, MA 02115, USA Department of Pathology, Yale University School of Medicine, New Haven, CT 06520, USA


2011年3月9日水曜日

The Hallmarks of Cancer :11年後の今




Cell, Vol. 100, 57–70, January 7, 2000,

The Hallmarks of Cancer

Douglas Hanahan, Robert A. Weinberg

という有名(?)な総説がある。ハナハンとワインバーグの共著である。今ではネットで自由に読める。

この総説のことを久しぶりに思い出したのは今週号のCellをbrowsingしていたときのこと。あれっと思ったわけだ。だって、こんな↓総説が載っていたのだ。

ハナハンとワインバーグが総説を書いているなあ・・・・・・ふーん「Hallmarks of Cancer」ってか。と・・・ここで強烈なデジャブですな。
déjà-vuですね。どっかで見たことあるな。あれっ、ひょっとして・・・「Hallmarks of Cancer」でググってみたら11年前のCellの総説が出てきたわけですな。これ読んだよ。参考文献にしたもの、かつて。

11年たったから「 The Next Generation」なんですね。前回の総説はかなり引用度が高い総説である。おそらく今回もそうなるだろうね。

2011年3月8日火曜日

パフォーマンスステータス

パフォーマンスステータス (Performance Status;PS)

とは全身症状の指標であり、ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)によってグレード毎に分類される。

グレード0
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発症前と同様に振舞える。
グレード1
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働、座業はできる。例えば軽い家事、事務など。
グレード2
歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している。
グレード3
身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している。
グレード4
身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている。

2011年3月4日金曜日

EGFR陰性大腸癌をどうするか?

セツキシマブのバイオマーカー

EGFRの発現強度は,セツキシマブの抗腫瘍効果と相関しないことがわかってきており,EGFR陰性大腸癌においても,セツキシマブの有効性が示されるようになった1)2)

一方,KRAS のmutasion症例では,セツキシマブが無効であることが,レトロスペクティブな解析ではあるがASCO2008のCRYSTAL試験3),OPUS試験4)などで示された(図1,2)。



図1
CRYSTAL: PFS according to KRAS status
図2
OPUS: PFS according to KRAS status


  1. Lenz HJ,et al:Multicenter phase II and translational study of cetuximab in metastatic colorectal carcinoma refractory to irinotecan,oxaliplatin,and fluoropyrimidines.J Clin Oncol 24:4914〜21,2006.

    RESULTS: The response rates in 346 patients, as determined by the investigators and IRC, were 12.4% (95% CI, 9.1 to 16.4) and 11.6% (95% CI, 8.4 to 16.4). The median progression-free survival (PFS) and survival times were 1.4 months (95% CI, 1.4 to 2.1) and 6.6 months (95% CI, 5.6 to 7.6), respectively. An acneiform rash occurred in 82.9% of patients; grade 3 rash was observed in 4.9%. Response and survival related strongly to the severity of the rash. In contrast, clinical benefit did not relate to EGFR immunostaining. EGFR tyrosine kinase domain mutations were not identified, and EGFR gene copy number did not relate to response or PFS, but to survival (P = .03).

    CONCLUSION: Cetuximab is active and well tolerated in metastatic CRC refractory to irinotecan, oxaliplatin, and fluoropyrimidines. The severity of rash was related to efficacy. Neither EGFR kinase domain mutations nor EGFR gene amplification appear to be essential for response to cetuximab in this setting.



  2. Meropol NJ:Epidermal growth factor receptor inhibitors in colorectal cancer:It’s time to get back on target.J Clin Oncol 23:1791 〜 3,2005.Epub Jan 27,2005

       この論文はeditorialである

  3. Van Custem E,et al:Randomized phase III study of irinotecan and 5-FU/FA with or without Cetuximab in the fi rst-line treatment of patients with metastatic colorectal cancer(mCRC):The CRYSTAL Trial; ASCO Annual Meeting(Abstr 400),2007.

  4. Bokemeyer C,et al:KRAS status and effi cacy of fi rst-line treatment of patients with metastatic colorectal cancer(mCRC)with FOLFOX with or without cetuximab :The OPUS experience.ASCO Annual Meeting(Abstr 4000),2008.