2010年10月6日水曜日

これまでの医学生理学賞を振り返る

これまでの医学生理学賞を個人的に振り返ってみる。

まずこの10年。

1999-2008年度のノーベル医学生理学賞

1999年    タンパク質が細胞内での輸送と局在化を司る信号を内在していることの発見
2000年   神経系における情報伝達に関する発見
2001年    細胞周期における主要な制御因子の発見
2002年   「器官発生とプログラム細胞死の遺伝制御」に関する発見
2003年    核磁気共鳴画像法に関する発見
2004年   におい受容体および嗅覚系組織の発見
2005年   ヘリコバクター・ピロリ菌およびその胃炎や胃かいようにおける役割の発見
2006年   RNA干渉-二重鎖RNAによる遺伝子サイレンシング-の発見
2007年   胚性幹細胞を用いての、マウスへの特異的な遺伝子改変の導入のための諸発見
2008年  子宮頸癌を引き起こすヒトパピローマウイルスの発見・ヒト免疫不全ウイルスの発見



ベッドサイドに最も近いレベルの発見は「核磁気共鳴画像法(MRI)」と「ピロリ」である。MRI、これは消化器を主戦場とする小生には余り存在価値がないのだが、同時に整形外科も診なくてはいけない立場としては必須。背骨関係では絶大である。腰椎圧迫骨折で手術適応なんてとんでもない状況に追い込まれるかもしれないかのばあさまなど、MRI無しでは経過を追うのは不可能だ。

ピロリは実はこれは困っている。ピロリ除菌と保険診療の狭間で悩んでいるというのが現実だ。ほっておけば週に10人以上は該当者が現れる。今後どうなるのかね。今の「エビデンス」(括弧付きね、あくまでも)ではピロリ陽性者の胃癌発癌危険率は5.1倍だ。例えば下の文献はがんセンターの津金さんのグループ。n=123,576であり1990-2004のcase-control studyである。

  • Sasazuki S, Inoue M, Iwasaki M, et al.: Effect of Helicobacter pylori infection combined with CagA and pepsinogen status on gastric cancer development among Japanese men and women: a nested case-control study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev;15:1341-1347,2006
しかしさ。該当者の年齢ではほぼ70%近くが陽性なんてこともあるピロリを除菌すると2つの問題点が生じる。

(1)  一つはよく言われる医療費である。下の表はピロリ除菌に熱心な北大の除菌外来(チーフは教授の浅香正博さん)の料金。これは自由診療である。

区分 料金 備考
1.検査料 内視鏡検査の場合 27,405円 検査のみで終わる方
尿素呼気試験の場合 15,330円
2.検査除菌料 内視鏡検査(初回実施)の場合 40,845円 検査でピロリ菌陽性となり、除菌治療を行い、除菌の成否を確認する方
内視鏡検査(2回目に実施の場合) 46,830円
尿素呼気試験の場合 28,770円
3.除菌料 初回治療で除菌されず2次除菌をする場合及び3次除菌をする場合 13,440円 初回治療で除菌されず、2回目以降の除菌治療を希望する方

おそらくこれを厳密に履行している診療所はいないだろう。自由診療にはリスクが伴う。 IC(Informed consent)が不可欠だが、こんなもの取りながら通常外来はできんぞ。浅香さんに頑張ってもらい、保険診療になると楽である。

(2)    といいながら、重大な懸念もある。50歳以上だと平均すると50%以上は陽性となるピロリに根こそぎ除菌を行うというのは、壮大な人類にとって経験のない実験でもある。胃癌の発生をどれだけ抑えることができるのだろう?抑えることと引き替えに私たちが被る惨禍はないのか?  高齢者はおそらく対象にならんだろう。中高年が対象になる。その人達の腸内フローラは一時的に激変する。これは確実だ。小生はこれが将来のあらたな疾病に結びつくような気がしてならない。これを単なる予想・懸念で終わらせないために誰かが実験で理論武装してくらないと困る。少なくとも予備実験で腸内フローラとメタゲノムくらいはやって欲しい(理論武装の第一歩として)


話が狭隘化した。ノーベル賞だった、始まりは。まあいいか・・・・。

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