2010年5月13日木曜日

The Nature Top Ten アクセスランキング 2010年4月-5月

The Nature Top Ten アクセスランキング
2010年04月15日~2010年05月13日


1. 小惑星24番テミスの氷
Nature 464 (April 2010)
2つの独立した研究グループが、主小惑星帯の小惑星24番テミスの赤外スペクトルを、ハワイのマウナケアにあるNASAの赤外線望遠鏡施設(IRTF)を 使って観測し、このスペクトルはテミスが水氷と有機物を含む凍った物質で広範囲に覆われていることと一致するのを見いだした。一部の小惑星の表面に水が存 在することは、いくつかの小型小惑星の活動が彗星に似ていることから推測されていたものの、主小惑星帯に存在する水と有機物が実際に測定されたのは今回が 初めてである。表面に氷が存在することは、とりわけ意外な結果である。なぜなら、火星と木星の軌道の間にあるテミスから太陽までの距離では、曝露された氷 の寿命は比較的短いからだ。

2. 多発性硬化症のゲノム:1人が多発性硬化症を発症し、もう1人は発症 していない双生児のゲノム完全塩基配列の解読
Nature 464 (April 2010)
「一卵性」双生児は、ヒトの疾患への遺伝のかかわりや環境の影響を研究する際に広く用いられている。双子のうちの1人が多発性硬化症を発症し、もう1人は 発症していない3組の一卵性双生児について今回行われた研究は、最新のゲノムシーケンシングと解析の技術をこの分野に導入したもので、また双子で多発性硬 化症患者の女性のゲノム塩基配列を初めて公表している。双生児の1組については全塩基配列が解読され、この組を含む3組について、CD4+リ ンパ球のmRNAトランスクリプトームおよびエピゲノム配列が決定された。意外にも、双生児の一方が発症し、他方が発症しないことの説明となる遺伝的、エ ピゲノム的違い、あるいはトランスクリプトームの差異は見いだされなかった。このデータを詳しく検討したeQTL(発現量的形質遺伝子座)マッピングから は、双生児間の興味深い違いが明らかになり、これはさらに詳細な解析を行うのに値する。また、多発性硬化症の発症について考えられる原因のいくつかは除外 することができた。今後は、ほかの細胞型やエピジェネティックな修飾の研究が集中的に行われるだろう(Letter p.1351, News p.1259, www.nature.com/podcast)。

3. スプライシングコードの謎を解く:RNA塩基配列から予測される 選択的スプライシングのパターン
Nature 465 (May 2010)
単独の遺伝子から2つ以上の異なるタンパク質が生成できるようになる選択的スプライシングは、脊椎動物ゲノムのコーディング容量を大幅に増やしている。選 択的スプライシングは、遺伝情報による細胞過程制御を実現しており、多くのヒト疾患にみられる変異はスプライシングに影響を及ぼしている。選択的スプライ シングを受けた異なるメッセンジャーRNAの発現を、ゲノム塩基配列データから予測できるようにすることは、遺伝子発現の分野で長らく追求されてきた目標 である。トロント大学のFrey たちとBlencoweたちは、数千のエキソンについて、数百のRNA特性が協働して組織依存的な選択的スプライシングを調節する仕組みを正確に予測する 「スプライシングコード」を解読した。これを用いて、発生過程と神経学的過程で選択的スプライシングがどのように重要な役割を果たしているかが予測され、 スプライシング調節機構に関する手がかりが得られた。また、このコードを組み込んだウェブツールを作り、機能が未知のエキソンとイントロン塩基配列を探索 して、組織特異的なスプライシング・パターンを予測できるようにした(Article p.53, N&V p.45, News p.16)。

4. がん進行のゲノミクス
Nature 464 (April 2010)
最新のDNAシーケンシング技術を用いれば、腫瘍の進行に伴って生じる遺伝的変異について、ゲノム全体にわたるスクリーニングを行うことが可能である。こ うした方法を用いて、基底細胞型乳がん患者(44歳のアフリカ系アメリカ人)の原発腫瘍、末梢血、脳の転移巣と原発腫瘍の一部を異種移植したサンプルから の初代培養細胞という、4種のDNA標品の完全な塩基配列が得られた。変異解析から、転移した腫瘍は、原発腫瘍の既存の変異を含む細胞群の1つを特異的に 選択し、さらに少数の全く新しい変異も起こしていることが示唆された。

5. 糖尿病を理解する
Nature 464 (April 2010)
膵臓のβ細胞の機能がしだいに失われ、日常的にインスリン投与が必要になるという、1型糖尿病の臨床像が明らかになってから100年以上も経つが、この病 気の進行経過の詳細はまだ解明の途上にある。しかし最近、げっ歯類モデルや糖尿病患者での詳細かつ幅広い研究によって、糖尿病の発生病理や遺伝学的特徴の 解明は急速に進歩した。ReviewでJ Bluestone、K HeroldおよびG Eisenbarthは、この10年の大きな進歩のいくつかを概括し、現在試験が行われている有望な新しい治療法について報告している。そのいくつかは、 糖尿病以外の自己免疫疾患にも応用できる可能性がある。

6. がんゲノムのネットワーク
Nature 464 (April 2010)
2010年には数百のヒトがんのゲノム塩基配列が公表されると予想されており、さらに来年以降、その数は毎年数千になるだろうと考えられている。国際がん ゲノムコンソーシアム(ICGC)は、成人と小児の主要ながんのすべて(全部で50種の異なるタイプまたはサブタイプのがん)について、大規模ながんゲノ ム解読研究データの状況把握を目的として立ち上げられた。本号では、ICGCチーム(www.icgc.org) がプロジェクトの方針と計画を詳細に説明している。

7. アディポネクチンと肥満
Nature 464 (April 2010)
脂肪細胞由来のホルモンであるアディポネクチンは、グルコースと脂肪酸代謝の調節に関与し、抗糖尿病作用とアテローム産生抑制作用をもつ。筋細胞のアディ ポネクチン受容体AdipoR1を欠損するマウスを用いた研究で、このマウスはインスリン抵抗性を示し、野生型のマウスよりも運動に対する持久力が低いこ とが示された。アディポネクチンは骨格筋で、AdipoR1を介した細胞外Ca2+の流入を誘導するが、これはミトコンドリア機能 や酸化ストレスに密接に関係する、下流のさまざまなシグナル伝達に欠かせない。このことは、AdipoR1受容体を刺激するか、あるいは骨格筋の AdipoR1受容体の数を増加させれば、ミトコンドリア機能不全、インスリン抵抗性や肥満と関連のある2型糖尿病の治療に有効である可能性を示してい る。

8. 直接的な作用:特異的に働くNotch受容体アンタゴニストの抗 がん剤としての可能性
Nature 464 (April 2010)
Notchファミリーの4つの受容体は広く発現している膜貫通タンパク質であり、哺乳類細胞はこれらを介して相互に情報交換を行い、細胞の運命と増殖を調 節している。Notchシグナル伝達の欠陥は、急性リンパ芽球性白血病などの多くのがんと関連している。今回、ジェネンテック社の複数部門の研究者からな る研究チームがファージディスプレイ法を用いて、Notch1とNotch2の強力かつ特異的なアンタゴニストとして作用する合成抗体を作出した。抗 Notch1は、前臨床マウスモデルで、がん細胞の増殖と血管新生の両方を阻害する抗がん活性を示し、また培養されたヒト、あるいはがん細胞に対しても活 性がみられる。Notch1と2を同時に阻害すると腸に毒性があるが、どちらか一方だけの阻害ではこの副作用はおおむね回避され、「全Notch」阻害剤 に勝る治療上の利点が見込まれる。表紙は、Salamander Design StudiosのG Vionによるもので、リガンドを発現している細胞(右側)が、隣の細胞のNotchシグナル伝達を活性化しているようすを描いたもの。刺激の受け手とな る細胞の膜にはNotch1と2(赤と青)が発現している。特異的アンタゴニストの作用によって、青色のシグナルの情報だけが細胞核に伝わる (Letter p.1052)。

9. 色の符号化:Winglessは、ショウジョウバエのなかなか見つ からなかったパターン誘導因子である

Nature 464 (April 2010)
貝殻や熱帯魚、ヒョウなどでみられるような動物体表の複雑な色彩パターンの形成は、発生生物学における古典的な難題である。パターン形成を説明しようとす る試みの大半は、反応拡散機構に着目した理論的なものである。この機構では、狭い領域で拡散する活性化因子(モルフォゲン)と、広範囲に拡散する阻害因子 の相互作用により、安定なパターンが生成されると仮定している。しかしこうした因子の候補となるモルフォゲンや阻害物質はこれまで明らかにされていなかっ た。S Carrollたちは、モデルとしてショウジョウバエの一種であるDrosophila guttiferaの翅の鮮やかな水玉模 様を用いて、斑点がモルフォゲンのWinglessにより誘導されることを明らかにした。さらに彼らは、新たな部位でWinglessを発現させること で、この複雑な水玉模様がより単純なスキームから進化した可能性を示している。表紙の合成画像で、左の翅はD. guttiferaの翅脈 上の16の斑点と翅脈間の4つの着色部分を示し、右側の翅はダブルトランスジェニックD. guttiferaの蛹の翅の翅脈上の斑点と翅 脈間着色点のシス調節配列活性を合わせて示している(Article p.1143)。

10. C型肝炎の新しい治療薬
Nature 465 (May 2010)
C型肝炎ウイルス(HCV)に直接的に作用して、慢性感染を治療するための抗ウイルス薬の開発は、臨床上必要性が高く、ウイルスのプロテアーゼである NS3およびHCV複製に不可欠なRNA依存性RNAポリメラーゼであるNS5Bという2つの酵素の阻害剤に研究がおおむね集中して行われてきた。 BMS-790052は、化学遺伝学によって強力なHCV特異的阻害剤であることが突き止められた化合物で、非構造タンパク質 5A(nonstructural protein 5A;NS5A)という、酵素活性がわかっていない第三のウイルス分子の低分子阻害剤である。今回、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社の研究チームは、BMS-790052の発見とウイルス学的な特徴を報告し、また、健常者とHCV感染患者で行われたこの化合物を用いた臨床試 験の結果を公表している。これらの結果は、HCVのNS5Aの阻害が臨床的に適切な機序であるということの概念実証に当たる。in vitroの データからは、既知のHCV阻害剤との相乗的な相互作用が示されており、抗ウイルス薬のカクテルが実行可能な治療法となると考えられる。

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