2010年2月17日水曜日

いまごろ知ったぞ上田泰己:面白い人だ。

上田泰己という研究者がいることを昨日知った。上田泰己は時間の生物学研究者であり、神戸の理研に研究室を構えている。「かわら版」的プロフィルを紹介すると、久留米の附設高校を出て東大医学部に入り、在学中にソニーの人工知能の研究室に入り、かつまた山之口製薬の研究室に在職し、時間生物学で画期的な仕事をしたため、27才で理研プロジェクトリーダーと抜擢されたという。

アカデミズムと離れてしまい、なおかつ日常の診療に追われてテレビを余り見ないことの弊害の一つは、このような新進気鋭の研究者の澎湃に気が付かないことであるが、まあ良いとしよう。世間のうわさと関係なく、自分のアンテナ(たとえさび付いていて、一部の傘が壊れかけていようが、あくまで自分のアンテナである)に引っかかってくればよい。それがいつであってもボクには新鮮だ。そう昨日のNHKのテレビは新鮮だった。新鮮だった理由は、あのベンザーが始めた時間生物学の後継者的研究者であり、コンピュータープログラムができ、医者の学校を出ており(メディカルサイエンスが解るひとであるということ)だったことであるが、そればかりでなく、彼の率いる「学際」的なプロジェクトが素晴らしかった、良いチームだなあ、「学際」というものが初めてよいものだなあと思えたからでもある。「学際」もワークすれば素晴らしい。

「学際」というのはこの20年くらいのキーワードであるが、医学ではこれがなかなか、お役にたたなかったのですな。私の狭い経験では、臨床医学に他分野の研究者が混じってくると話がややこしくなる傾向があるようだ。例えばマイクロアレイ。発現データと臨床諸事項のデータがあって、医者と生物学者と数学者とコンピュータ屋さんと統計屋さんがいて、データの解釈を行おうとする。これがなかなか議論がかみ合わない。実験であるから(医者はこれを実験と見てしまう)コントロールが大事なのだが、臨床サンプルであるから、実は厳密な意味でのコントロールをそろえることができない。たとえば癌の遺伝子発現プロフィルを見出したいとして、じゃコントロールの細胞(組織)は何を用意すればいい?データを出したあとから、コントロールはそれでよかったのかね?という議論が出たりするが、それが日常であるのが医学臨床研究なのだ。医者以外の諸君はこれに参る、付き合いきれず、これに戸惑う。そんな戸惑いに今度は医者がいらだつ。というのがこれまでの臨床医学における「学際」的研究につきまとうジレンマであった。医学というのは本当にサイエンスなのか?と医者以外が思ってしまう。時に医者も思ってしまう。

医学は本当にサイエンスなのか?」というのは永遠の命題なのだよ。

上田の研究室には実に様々な人種がいる。数学者もいれば、システム屋さんもいる。ゲノム屋も、細胞生物屋もいる。それで議論が成り立つというのは、上田の方法論が限りなく理工学に近いからなのだろう。メディカルの上田の方から理工系に歩み寄っているからなのだろう。スタッフとのディスカッションが面白いではないか。やっと出たデータを実験者と2人で解釈する上田は真剣だ。40分もの間、何も言わずに考え続けるのだ。うなりながら・・・。予想通りのデータに混じる「傷のようなデータ」。この不協和音について考え抜く。こんなシーンをテレビで見るのは初めてだ。40分たって「わかった。面白い」と言い始めるのだが、上田以外、ボクもデータを出した研究員も誰もその面白さがわからない(ここのところの面白さを後から振り返って、でよいから、つまり論文になって公知になってからでいいから、解説した番組を報道せよ。とてつもなく面白い教育的番組になることであろう)


なにもボクは買いかぶって拡大解釈しているわけではない。これこそが上田が学生の頃からやりたかったことの具現化なのだろうから・・・

上田は東大の学生時代にこんな文章を残しているのだ。

・・・・・さらにもう一つ彼(この彼とはソニーの北野宏明で当時の上田のボス)が行おうとしていることは、そして僕もその共犯者であるわけですが、生物学を博物学から理学にすることです。用いる道具はComputer です。 
 Computerを用いて生物学を研究する領域はちょうどBiology とComputer Scienceの境界に当たります。現在、Computational Biology あるいはTheoretical Biologyという言葉がこの学問領域をさすのに用いられていますが、まだ未開拓な分野です。Computational Biology にはいろいろな研究が在りますが、僕らがやろうとしているのはSimulationです。・・・・

生物学(=医学)を博物学から理学にする

ひょっとして上田は、とてつもないことを行おうとして、最初の小さな成功を得ているのかもしれない。面白い研究者である。

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