2009年11月30日月曜日

ピロリ菌の検査法と感度・特異度

ピロリの検査法には7種類あるが、7つの検査法はいずれも感度・特異度とも90%以上あり信頼度が高い検査であり、どれを選択しても有用。

一般的に、感染診断では内視鏡検査を行い、胃潰瘍または十二指腸潰瘍と診断された場合、迅速ウレアーゼ試験や培養法が行われる。また、既に潰瘍と診断された除菌前診断には血清抗体検査などが行われる。

一方、除菌判定では薬剤の影響や治療後の採取時期によっては偽陰性や偽陽性が生じることがあるため、除菌治療終了1ヵ月後(初期判定)に陰性の場合、再確認するため3ヵ月〜1年後に異なった検査法による除菌判定(後期判定)を行う

  •   ボクは2ヶ月後(除菌後)に尿素呼気テストを外来予約に入れている。患者は絶飲・絶食で来院しテストを20分で終了させ、当日はボクには会わずに帰宅する。翌週(検査結果判明は4日後)来院して結果を伝える。

初期判定では尿素呼気試験、後期判定として3ヵ月後に便中抗原検査が推奨。

  • ボクはこんなめんどくさいことはしない。2ヶ月後に一回呼気テストをするだけ。だいたい便中抗原検査なんかしたことないな。
ボクはこれまで尿中と血清抗体検査の違いが(当然簡便な尿中検査の方が感度は低いものと思っていた)よくわからなかった。血清抗体の方が信頼できると思っていたが、違ったな。余り変わらんのだね。尿中抗体は20分くらいで判定が出るので、これだけ信頼できるのならこれまで以上に使っていこう。

あと抗体の陰性化についても具体的なエビデンスを知らなかったが、調べた範囲で記録しておくと・・・・

  1. IgG抗体のため感染後約1ヵ月は抗体産生されない
  2. 免疫能の十分発達していない小児やステロイド剤投与患者、高齢者などの免疫の低下した患者では偽陰性となる場合がある。
  3. 除菌後も抗体はすぐに消失せず偽陽性を示すことがあり、陰性化するには1年以上かかる場合がある。
  4. 除菌が失敗した場合は抗体価の明らかな減少はみられない。
  5. 成功例では除菌療法終了後抗体価は徐々に低下し、半年後には前値と比較して50%低下する。
  6. 抗体検査による除菌の判定は、6ヵ月以降に行い、変動率50%の低下が1つの指標とされる。
いずれにしても除菌の判定には「抗体検査」のような二次反応物は不適であると考えるのが妥当であろう。尿素呼気テストが現実的。

診療点数であるが実施料・判断料・手技料をすべて込みで最も安価なのは・・・抗体法であり血清で最大235点(2350円・・3割で700円)であり、尿素呼気テストはユービット310点入れて総計530点である。便抗原は総計294点であるから割とお得なのかもしれない。




表.各種検査法の感度と特異度
検査法 感度(%) 特異度(%)


培養法 77〜94 100
鏡検法 93〜99 95〜99
迅速ウレアーゼ試験 86〜97 86〜98



尿素呼気試験 90〜100 80〜99
血清抗体 88〜96 89〜100
尿中抗体 89〜97 77〜95
便中抗原 90〜98 87〜100

2009年11月29日日曜日

キラルと光学異性は同じような・・・違うような・・・

光学異性体のようなものである・・・と書いたが、誤解を招かないように追記:

Yahoo知恵袋より・・・

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不斉炭素原子を持つことと、光学異性体が存在することは、同じなのでしょうか?

つまり

不斉炭素原子を含んで

いるが光学異性体は存在しない。
もしくはその逆で光学異性体は存在するが不斉炭素原子は含まないということはあるのでしょうか?

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同じではありません。


「不斉炭素原子を含んでいるが光学異性体は存在しない」、「光学異性体は存在するが不斉炭素原子は含まない」というのは両方ともあり得る話です。

「不斉炭素原子を含んでいるが光学異性体は存在しない」化合物はメソ化合物といいます
不斉中心を複数持っているのに、分子内に対称面があるために光学異性体が存在しません
最も有名なのは2S,3R-酒石酸(メソ酒石酸)でしょう(構造はwikiを参照してください)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%92%E7%9F%B3%E9%85%B8

逆に、「光学異性体は存在するが不斉炭素原子は含まない」例としてはアトロプ異性体というのがあります。
結合周りの回転が妨げられているので光学異性体が存在します。
例としては、BINAP、アレンなどが挙げられます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/BINAP
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%B3_(%E5%8C%96...


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黒田玲子のNature: 巻き貝に見る右と左の決定

黒田玲子さんのNatureとは驚いた。それも巻き貝によるキラリティー。

黒田さんはそのキラルの世界の第一人者(分野が違うので正確にはわからないが、第一線で活躍されているのは間違いない)。1992年に出た新書はレベルが高く難しいのだが、なぜか魅力的であり何度か読ませて頂いたし、その後も読まれ続けている(絶版にはならない)。新書でこれだけ堅い本で17年間も版が続くのは珍しいと思う。

「生命世界の非対称性—自然はなぜアンバランスが好きか (中公新書) 」

そもそもキラリティーとは化合物による右—左の回旋性、一般的には光学異性に近いものだ。僕らの分野では「サリドマイド」や「グルタミン酸」が有名だ。

  • サリドマイドは西ドイツで開発された催眠鎮静剤。1957(昭和32)年10月1日に 発売された。即効性があり、翌朝に効果を持ち越さず、更に大量服用しても致死的でなく自殺に使用できない安全性を特徴として販売された。だが、後に、妊婦が服用すると子供に手足が短いなどの独特の畸形(アザラシ肢症)が生じることが判明し、1961(昭和36)年11月26日に回収を決定した。この畸形児をサリドマイドベビーと呼ぶ。
  • 日本では海外での回収後も大日本製薬と(当時の)厚生省が販売を続けたため被害者が続出した。ちなみに米国では米国食品医薬品局(FDA)が薬自 体を認可しなかったため、殆ど被害は出ていない。
  • さて、サリドマイドの構造には不斉炭素(キラル炭素)が一つある。従ってサリドマイドには右手型と左手型が存在することになる。サリドマイドの睡眠・鎮静作用があるのは右手型(R体)であり、催畸形性による四肢の矮小化などの作用があるのは左手型(S体)である。当時はこの事実に気づかず、両者の混合物が市販されたわけだが、後の研究によりR体を服用しても体内でS体に変化することが確認されたため、問題はいずれにせよ避けられなかったと考えられる。
  • あるいは「味覚」で有名なのは身近な物ではグルタミン酸(味の素の主成分)。
味覚を感じるのは片一方のDグルタミン酸で、その鏡像体のLグルタミン酸は味覚を感じない。

さて、生物・医学的にも極めて興味深いこのキラリティーであるが、化学者としてではなく、巻き貝という生物を使って発生生物学・分子生物学的に右巻き・左巻きの謎に挑んだというのが今回のNatureの論文である。

ボクが驚くのはこの学際的なアプローチの転換(化学→生物学)を上手くなしとげ、著者数3名ながらトップネームの論文に仕立て上げたことである。失礼ながら御年62才 ではなかったかと・・。退官直前ではないか!学者としての最後の最後で見事にまた花を咲かせた。まあ元々華のある、お美しい先生だったが・・・。

ボクの印象に残ったのは「猿橋賞」のころである。猿橋賞は女性科学者だけに与えられる賞杯であるが、第一回の太田朋子さん以来、とびきり良い仕事をした人にしか与えられない、極めて質の高い科学賞である。今調べると93年に受賞されている。


さて、今回の研究であるが産経新聞から引用すると・・・

  • 右巻きと左巻きが存在する巻き貝の発生初期に細胞の配置を改変し、巻き型を逆転させることに、東大大学院総合文化研究科の黒田玲子教授らの研究グループが成功した。生物の左右性決定の“源流”に迫る成果。26日付の英科学誌「ネイチャー」(電子版)に発表した。
  •  実験に使ったのは「ヨーロッパモノアラガイ」という淡水産の巻き貝。成長すると2〜3センチになり、自然界では右巻きが98%で左巻きは2%。黒田教授らは、4細胞から8細胞になる第3卵割期の胚(卵)に微小なガラス棒で力を加え、細胞の配置(ねじれの方向)を逆にした。
  •  その結果、左右を逆転させられた胚は、殻の巻き型や内臓の形、配置がすべて逆転した親貝に成長。臓器などの非対称性に関与する遺伝子も、発現部位の左右が入れ替わっていた。2細胞から4細胞になる第2卵割期に同じ操作を行っても、左右逆転は起こらなかった。
  •  人為的に誕生した「逆巻き」の貝は、本来右巻きなら左巻きに育っても右巻きの子を産み、本来左巻きの親からは左巻きの子が生まれた。これらの結果から、右巻きか左巻きかを決める遺伝情報は保存されたまま、細胞が8個に分かれた段階の配置によって右巻き型と左巻き型にわかれていると考えられる。

ということのようだ。あくなき探求心には感服する!

Nature advance online publication 25 November 2009 |
Received 29 July 2009; Accepted 22 October 2009; Published online 25 November 2009

Chiral blastomere arrangement dictates zygotic left–right asymmetry pathway in snails

Reiko Kuroda1,2,3, Bunshiro Endo2, Masanori Abe2 & Miho Shimizu2

  1. Department of Life Sciences, Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo, Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-8902, Japan
  2. Kuroda Chiromorphology Team, ERATO-SORST, JST, Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153-0041, Japan
  3. Department of Biophysics and Biochemistry, Graduate School of Science, The University of Tokyo, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan

Correspondence to: Reiko Kuroda1,2,3 Correspondence and requests for materials should be addressed to R.K. (Email: ckuroda@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp).

Most animals display internal and/or external left–right asymmetry. Several mechanisms for left–right asymmetry determination have been proposed for vertebrates1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10 and invertebrates1, 2, 4, 9, 11, 12, 13, 14 but they are still not well characterized, particularly at the early developmental stage. The gastropods Lymnaea stagnalis and the closely related Lymnaea peregra have both the sinistral (recessive) and the dextral (dominant) snails within a species and the chirality is hereditary, determined by a single locus that functions maternally15, 16, 17, 18. Intriguingly, the handedness-determining gene(s) and the mechanisms are not yet identified. Here we show that in L. stagnalis, the chiral blastomere arrangement at the eight-cell stage (but not the two- or four-cell stage) determines the left–right asymmetry throughout the developmental programme, and acts upstream of the Nodal signalling pathway. Thus, we could demonstrate that mechanical micromanipulation of the third cleavage chirality (from the four- to the eight-cell stage) leads to reversal of embryonic handedness. These manipulated embryos grew to 'dextralized' sinistral and 'sinistralized' dextral snails—that is, normal healthy fertile organisms with all the usual left–right asymmetries reversed to that encoded by the mothers' genetic information. Moreover, manipulation reversed the embryonic nodal expression patterns. Using backcrossed F7 congenic animals, we could demonstrate a strong genetic linkage between the handedness-determining gene(s) and the chiral cytoskeletal dynamics at the third cleavage that promotes the dominant-type blastomere arrangement. These results establish the crucial importance of the maternally determined blastomere arrangement at the eight-cell stage in dictating zygotic signalling pathways in the organismal chiromorphogenesis. Similar chiral blastomere configuration mechanisms may also operate upstream of the Nodal pathway in left–right patterning of deuterostomes/vertebrates.

2009年11月23日月曜日

日本人のUC多型(九州大学):Nature Genetics最新online

Nature Genetics
Published online: 15 November 2009 | doi:10.1038/ng.482

A genome-wide association study identifies three new susceptibility loci for ulcerative colitis in the Japanese population


1384人の潰瘍性大腸炎患者と3057人のコントロール
3つの関連多型を見出している

1)FCGR2A (rs1801274, P = 1.56 10-12
2)rs17085007(chromosome 13q12), P = 6.64 10-8
3)SLC26A3 (rs2108225, P = 9.50 10-8).

九州大学は疫学(清原さん)が最近充実しているが、更に内科から炎症性腸疾患でこのような仕事が出たことは素晴らしい。この仕事はIBD研究を30年以上先頭に立って研究している飯田さんや松井さんの執念の産物のようにはたからは見える。本文を早く読んでみたい。

Kouichi Asano1,2,3, Tomonaga Matsushita1,2, Junji Umeno1,2, Naoya Hosono1, Atsushi Takahashi4, Takahisa Kawaguchi5, Takayuki Matsumoto2, Toshiyuki Matsui6, Yoichi Kakuta7, Yoshitaka Kinouchi7, Tooru Shimosegawa7, Masayo Hosokawa8, Yoshiaki Arimura8, Yasuhisa Shinomura8, Yutaka Kiyohara3, Tatsuhiko Tsunoda5, Naoyuki Kamatani4, Mitsuo Iida2, Yusuke Nakamura9 & Michiaki Kubo1,2,3

Ulcerative colitis is one of the principal forms of inflammatory bowel disease with complex manifestations. Although previous studies have indicated that there is a genetic contribution to the pathogenesis of ulcerative colitis, the genes influencing susceptibility to the disease have not been fully determined. To identify genetic factors conferring risk of ulcerative colitis, here we conducted a two-stage genome-wide association study and subsequent replication study using 1,384 Japanese individuals with ulcerative colitis and 3,057 control subjects. In addition to the expected strong association with the major histocompatibility complex (MHC) region, we identified three new susceptibility loci: the immunoglobulin receptor gene FCGR2A (rs1801274, P = 1.56 times 10-12), a locus on chromosome 13q12 (rs17085007, P = 6.64 times 10-8) and the glycoprotein gene SLC26A3 (rs2108225, P = 9.50 times 10-8). rs1801274 is a nonsynonymous SNP of FCGR2A that is reported to have a critical effect on receptor binding affinity for IgG and to be associated with other autoimmune diseases. Our findings provide insight into the molecular pathogenesis of ulcerative colitis.


  1. Laboratory for Genotyping Development, Center for Genomic Medicine, RIKEN, Yokohama Institute, Yokohama, Japan.
  2. Department of Medicine and Clinical Science, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan.
  3. Department of Environmental Medicine, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan.
  4. Laboratory for Statistical Analysis, Center for Genomic Medicine, RIKEN, Yokohama Institute, Japan.
  5. Laboratory for Medical Informatics, Center for Genomic Medicine, RIKEN, Yokohama Institute, Japan.
  6. Department of Gastroenterology, Fukuoka University Chikushi Hospital, Fukuoka, Japan.
  7. Division of Gastroenterology, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai, Japan.
  8. First Department of Internal Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan.
  9. Laboratory of Molecular Medicine, Human Genome Center, Institute of Medical Science, University of Tokyo, Tokyo, Japan.

2009年11月22日日曜日

今頃のインフルエンザは何型?

夏以降外来ではインフルチェックでA陽性なら「新型」「季節性」関わりなくインフルエンザと説明している。
で、患者に聞かれるのが「新型の可能性はどれくらいでしょうか?」というものであり、じつは上部機関からの受け売りで「いまはほとんどが新型といっていいです」と答えるが、その根拠をボクは知らない。知らなかった。

下のグラフは国立感染症研究所のデータであるが、なるほど夏以降ほぼ100%新型であることがわかる。サンプル調査であるから、全例新型といって良いかどうかわからんが、事実上は「100%」であろう。ボクは勉強不足なのかね・・・他のお医者はみなこの基礎データを見てるのかな。どうも、この手のデータにボクは弱い。この手のデータが届かないのだ、ワタクシの元には・・・。最新の医学生物学にはかなり強いつもりでいるが、どうやったら「信頼できるデータ」が容易に手元に届くようになるのだろうか?



国外データなら自信があるのだが、国内データは難しい。本当に難しい。まず国の研究機関のデータがいまいち。だから取捨選択が本当に難しい。

2009年11月21日土曜日

ICD10 : 肝・胆・膵

K70-K77 肝疾患
 K80-K87 胆のう<嚢>,胆管及び膵の障害
 K90-K93 消化器系のその他の疾患

ICD10: 消化管良性疾患

K20-K31 食道,胃及び十二指腸の疾患
 K35-K38 虫垂の疾患
 K40-K46 ヘルニア
 K50-K52 非感染性腸炎及び非感染性大腸炎
 K55-K63 腸のその他の疾患
 K65-K67 腹膜の疾患