2009年10月31日土曜日

2009年におけるHIV感染症の基礎知識

厚労省2009年ガイドラインの巻頭言であるが、これがすべてであろう。ちなみにこのガイドライン、国が作ったものにしては驚くほど良くできたガイドラインである。読みやすいので感銘を受けた。

要約

  1. HIV感染症は大きく3つの病期(急性感染期、無症候期、AIDS期)に分けることが できる。AIDS期には日和見疾患に罹患する危険が生じるが、初感染からAIDS期に至 るまでの時間は症例により異なる。

  2. HIV感染症をモニターする上では、免疫状態の指標となるCD4陽性Tリンパ球数およ び抗ウイルス療法の治療効果の指標となる血中HIV RNA量が重要なパラメーターである。

  3. 現在、標準的に行われている強力な抗レトロウイルス療法(HAART)は、HIVの増 殖を効果的に抑制し感染者のAIDS進行を防止することができる。しかし、HAART により体内からウイルスを駆逐するためには少なくとも数十年間の治療が必要と考えられており、事実上治癒は困難である。

HIV感染症の自然経過

HIVは主としてCD4陽性Tリンパ球とマクロファージ系の細胞に感染するレトロウイルスである。感染したHIVはリンパ組織の中で急速に増殖し、感染後1~2週の間に1×106コピー/mlを越えるウイルス血症を呈する。約半数の患者は、この時期に発熱、発疹、リンパ節腫脹などの急性感染症状を呈する。HIVに対する特異的な免疫反応が立ち上がってくると、ウイルスは減少するが完全には排除されない。やがて活発に増殖するウイルスとそれを抑え込もうとする免疫系が拮抗し、慢性感染状態へと移行する。慢性感染状態における血中のHIV RNA量は個々人で比較的安定した値に保たれ、この値をウイルス学的「セットポイント」と呼ぶ 。血中HIV RNA量とHIV感染症の進行速度(CD4陽性Tリンパ球の減少速度)との間には緩やかな逆相関関係があるが、患者ごとで大きなばらつきがあることに注意する必要がある。

患者の免疫機構とHIVが拮抗した状態は、平均10年くらい持続する。この間、感染者は、ほとんど症状なく経過する(無症候期)。しかし、無症候期の間もHIVは増殖し続け、HIVの主要な標的細胞であるCD4陽性Tリンパ球数はゆっくりと減少していく。CD4陽性Tリンパ球は、正常な免疫能を維持するために必要な細胞であり、その数が200/µlを下回るようになると細胞性免疫不全の状態を呈し、種々の日和見感染症、日和見腫瘍(AIDS指標疾患)を併発しやすくなる。この状態が、後天性免疫不全症候群(AIDS : Acquired Immunodeficiency Syndrome)である。抗HIV療法が行われない場合、AIDS発症後死亡にいたるまでの期間は約2年程度であるとされている。

以上のように、HIV感染症は大きく3つの病期(急性感染期、無症候期、AIDS期)に分けることができる。急性感染期とAIDS期の長さには比較的個体差が少なく、無症候期の長さに大きな個体差がある。無症候期をいかにコントロールするかということがHIV感染症の予後と密接に関係する。

最新のAIDS治療薬

最近のAIDS治療について

日本における薬剤耐性HIVの動向 2003〜2007年
(Vol. 30 p. 232-234: 2009年9月号)


国立病院機構名古屋医療センター

国立感染症研究所エイズ研究センター 杉浦 亙   から部分的に引用させていただく。

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多剤併用療法(highly active anti-retroviral therapy: HAART)がHIV/AIDSの標準的な治療法として1997年に導入されてからHIV感染症の予後は大きく改善された。

2007年9月の時点で国内承認されている抗HIV薬の使用のみでは、HIVの増殖抑制が不十分であるコントロール不良症例数の調査をHIV/AIDS診 療に携わる主要な医療機関43施設に対して行った結果、当該 2,000症例のうち既承認薬でのコントロール不良症例、いわゆる多剤耐性症例が51症例(<2%)報告された。この2%未満という薬剤耐性HIV症例数 は欧米諸国からの報告に比べると極端に少なく、本邦におけるHIV診療体制が効果的に機能していることを示している。これは現在までのHIV/AIDS感 染者数が欧米先進諸国に比して少ないことも影響していると考えられ、従って今後のHIV感染者数の増加に伴い数値が高くなる可能性が危惧される。

2008年にはインテグラーゼ阻害剤と宿主因子を狙ったCCR5阻害剤という全く新しい薬剤が登場しており、今後薬剤耐性変異の動向は大きく様変わりすることが予想され、引き続き調査を継続してその把握をすることが重要である。
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HAART療法では通常、ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害薬(NRTI)2剤に、プロテアーゼ阻害薬(PI)または非ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害薬(NNRTI)のどちらか1剤を組み合わせるのが基本らしい。最新情報は厚労省の2007年度ガイドラインかもしれんが、意外にネットを参考にするのは難しい(古い日付の記事が多すぎるから・・・・・・)

いや違った!!(さっそくこれだものね)2009年版が出ている。医科研のホームページは更新がなされていないが、こまったものだ。

融合遺伝子の作られかた:最新のサイエンスより

Published Online October 29, 2009
Science DOI: 10.1126/science.1178124

Brevia

Submitted on June 23, 2009
Accepted on October 21, 2009

Induced Chromosomal Proximity and Gene Fusions in Prostate Cancer

Ram-Shankar Mani 1, Scott A. Tomlins 1, Kaitlin Callahan 1, Aparna Ghosh 1, Mukesh K. Nyati 2, Sooryanarayana Varambally 3, Nallasivam Palanisamy 4, Arul M. Chinnaiyan 5*

1 Michigan Center for Translational Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Department of Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.
2 Comprehensive Cancer Center, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Department of Radiation Oncology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.
3 Michigan Center for Translational Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Department of Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Comprehensive Cancer Center, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.
4 Michigan Center for Translational Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Comprehensive Cancer Center, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.
5 Michigan Center for Translational Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Department of Pathology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Comprehensive Cancer Center, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Howard Hughes Medical Institute, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.; Department of Urology, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109, USA.

Gene fusions play a critical role in cancer progression. The mechanisms underlying their genesis and cell type specificity are not well understood. About 50% of human prostate cancers display a gene fusion involving the 5’untranslated region of TMPRSS2, an androgen-regulated gene, and the protein-coding sequences of ERG, which encodes an ETS transcription factor. Studying human prostate cancer cells by fluorescence in situ hybridization, we show that androgen signaling induces proximity of the TMPRSS2 and ERG genomic loci, both located on chromosome 21q22.2. Subsequent exposure of the cells to gamma-irradiation, which causes DNA double strand breaks, facilitates the formation of the TMPRSS2-ERG gene fusion. These results may help explain why TMPRSS2-ERG fusions are restricted to the prostate, which is dependent on androgen signaling.

TMPRSS2ERG融合遺伝子は固形癌で見出された初めてのrecurrent gene fusionであり、言われるところをそのまま信じれば約50%の前立腺癌で融合蛋白が検出されることになる。診断学的にも治療ターゲットとしても強烈なポテンシャルをもつ分子標的であろう。なぜか日本での関心は今ひとつのようで、これほどの”逸材”なのになぜに関心を呼ばないのか不思議(不思議)((不思議))である。

アンドロジェン感受性の前立腺細胞のみにこの融合蛋白が生じる仕組みのひとつとして、ゲノムDNAが折れ曲がる、近づく、すりすりする、
TMPRSS2とERGゲノムのランデブー状態が起こりやすくなる状態をandrogen signalingが作るということを示しているらしい。その後放射線によりDSBが起こり融合が完成するという仕組みのようだ。

ゲノムの3次元構造の変化が癌化に大事であるとボクは信じているが、これまでゲノムレベルで3次元構造のゆがみと癌化について述べた論文を余り見たことがない。もちろんゲノムが核膜に固定されているattached region研究やゲノムの端の方なら今年のノーベル賞のテロメアなどの研究は80年代から知られているが、今ひとつピントこなかった。

今回の論文は一見嘘っぽい。がしかし・・・夢があるなあ。でもホントかね????面白いといえば、今年のトップ5の論文だな、ボクにとっては。

2009年10月25日日曜日

感染性腸炎とGuillain-Barré症候群

サルモネラ腸炎

33才男子入院6日でようやく下痢が収束してきた。高熱と20回を越える頻回の下痢、ときに嘔気嘔吐。なぜか腹痛はないことを主訴に入院してきた。入院時は「下痢・嘔気嘔吐」があるので直ちに便培を出し、感染性腸炎として絶食・点滴それに抗生物質を投与したが、なかなか下痢が収まらない。二日目も40度を超える熱である。変わったものを食べた既往、家族や同僚の同時発症もない。きけば入院一週間まえから軽度の下痢はあったという。起炎菌があるとすればキャンピロかサルモネラが多いのだが「卵」や」「鶏肉」なんかどの食事にも入っている可能性があるので実は思い出してもらえることは少ないのだそうだ。事実彼も首をひねっている。4日目に便培の結果が帰ってきた。サルモネラのO9だそうだ。抗生剤は中止した。食事を再開した。これは待つしかない。「肛門が痛い」というので5日目の便がほとんど水様であることを確認して止痢剤をようやく出した。出したくなかったけど・・・。今朝はようやく便が形になってきたので直ちに止痢剤を中止。

ギラン・バレーが心配なのはキャンピロバクターであることは忘れてはならない。うろ覚えだったので、サルモネラと聞いたときGuillain-Barré症候群が一瞬頭をよぎったが、神経細胞と共通抗原を持つのはキャンピロであることを知っていれば余計な心配はいらない。もしキャンピロであった場合も頻度は高くないので患者に余計な心配を与えたくないが、外来に回った後にpolyneuropathy症状が出た場合の対処はそれとなく伝えておく必要があるだろう。

逆にGuillain-Barré症候群を念頭におくべき先行感染症でボクが覚えておくべき疾患はサイトメガロウイルス、EBウイルスなどのウイルスや、マイコプラズマ、キャンピロバクター。症状はポリニューロパチーであり末梢性の上行性対称性の「運動麻痺」であり感覚麻痺が前面に出るわけではないことはかなり特異的である。なぜならこんな症状を外来でみることは極めて希であることが想定できるから。外来やっててstocking typeの「運動障害」なんてまず見ないでしょう、我々一般臨床医は。見逃してはいけない「2−3週前に風邪ひきませんでしたか?」。初期治療「γグロブリン大量療法」が効くかもしれないし・・・。

2009年10月24日土曜日

今週のNEJMのイメージは筑後川温泉病院から・・


CTで一目瞭然であるが、胸写上の右横隔膜上の陰影は右腎である。ボホダレック孔で連続があるようだ。胸腔内腎は左の方が多いらしいと書いてある。今回の投稿は日本からで、それも福岡県の片田舎の病院からである(投稿者の先生方、ごめんなさい)。

Thoracic Kidney
Y. Doi and A. Sakamoto

Volume 361 — October 22, 2009 — Number 17
New England Journal of Medicine


医療法人 向陽会 筑後川温泉病院
福岡県うきは市浮羽町古川1055

投稿者はこの病院所属のYoshitaka Doi, M.D., Ph.D.
Akihiko Sakamoto, M.D., Ph.D.

めちゃくちゃ、かっこいいな〜〜〜。一回くらいまねしてみたい。

2009年10月23日金曜日

抗凝固薬の休薬期間

商品名 一般名 休薬期間
バイアスピリン アスピリン 7日
チクピロン チクロピジン 14〜10日
シロステート シロスタゾール 3日
(↑ここまでがガイドラインで示されているもの)
エパデール イコサペント酸エチル 7日
アンプラーグ 塩酸サルポグレラート 4日
オパルモン リマプロストアルファデクス 1〜2日
ロコルナール トラピジル 2〜4日
ペルサンチン ジピリダモール 休薬必要なし

チクロピジンについての覚書

チクロピジン(パナルジン)の効果は、アスピリン同様に不可逆的で、投与中止後も、血小板の寿命がある7〜10日間は、作用が持続する。チクロピジンの効果は、アスピリン同様に不可逆的で、投与中止後も、血小板の寿命がある7〜10日間は、作用が持続する。

シロスタゾール(医薬品名:エクバール錠50、プレタール錠50など多数)の作用は、可逆的で、投与中止して48時間以内に、血小板凝集抑制作用が消失する。


チクロピジン(パナルジン)とその類似薬



チクロピジン(パナルジン)の効果は、アスピリン同様に不可逆的で、投与中止後も、血小板の寿命がある7〜10日間は、作用が持続する。チクロピジンの効果は、アスピリン同様に不可逆的で、投与中止後も、血小板の寿命がある7〜10日間は、作用が持続する。
シロスタゾール(医薬品名:エクバール錠50、プレタール錠50など多数)の作用は、可逆的で、投与中止して48時間以内に、血小板凝集抑制作用が消失する。

ワーファリンを中止することによる脳梗塞の発生頻度
  1. 1%:アメリカの Wahl ら:ワルファリンを中止して抜歯を行うと,約 500 人に 5 人(1%)で脳梗塞が起こった(Wahl MJ. Arch Intern Med 1998;158:1610−6)
  2. 国立循環器病センター:2003 年:ワルファリンを投与されていて脳梗塞を起こした 25 人のうち,3 割が抜歯などの手術のためにワルファリンを中止、ワルファリン中止期間の中央値は 4.5 日,中止時から発症までは 7.5 日。(再開後 2,3 日目に発症する)
その2:【小手術の場合、どうするか】


体表小手術で、術後出血が起こった場合の対処が容易な場合はワルファリンや抗血小板剤継続下での施行が望ましい
体表の小手術で、出血性合併症が起こった場合の対処が困難な場合、ペースメーカー植え込み、内視鏡的生検、切除術等は大手術に準じる
となっています。これは、特に解説は必要ないですね。
(大手術については、後述します)



その3:【大手術の場合、どうするか】


ここが、最も問題です。前述の文献によれば、ワーファリンを中止してしまうと、脳梗塞を起す確率は1%程度あるというのですから、100例の手術で1件。恐ろしく高い確率ですよね。
「しかしながら、薬を止めないわけにはいかない」
そこで、中止の基準や、手順が必要となります。



《まず、抗凝固剤(バイアスピリンなど)の中止基準》

  1. アスピリン(バイアスピリン®)は7日前

  2. チクロピジン(チクピロン®)は10〜14日前

  3. シロスタゾール(シロステート®)は3日前


※ ハイリスク例では、脱水の回避、輸液、ヘパリンの考慮



さて、チクピロンはずいぶん長く止めるようなガイドラインになってますが、これだと、入院して手術までの日数がかかりすぎることも考えられます。このあた りは、当院の過去の手術実績から、10〜14日前に止めないと、出血が多くて大変なのか、中止期間7日程度でも可能な手術はどれか、など、検討すべき問題 がいくつかあります。当院版ガイドラインは、そこを解決してから作成することになると思われます。



《ワーファリンの中止・再開手順》

(1)ワルファリンは3〜5日前に中止

(2)ヘパリン投与:APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を正常対象値の1.5〜2.5倍に延長するよう調整

(3)手術4〜6時間前にヘパリン中止(もしくは直前に硫酸プロタミンで中和)

(4)手術直前にAPTTを確認

(5) 術後、可及的速やかにヘパリン開始

(6) 病態安定時よりワルファリン再開とINR達成後ヘパリン中止

2009年10月22日木曜日

サルモネラ食中毒

サルモネラ属菌 Genus Salmonella
チフス菌   パラチフスA・B菌
腸炎菌    ネズミチフス菌   アリゾナ菌



サルモネラは食中毒(感染性腸炎)の原因菌や2類感染症であるチフス、パラチフスの原因菌となる数千種類の膨大な菌種、菌型群の総称です

分類学的には、S.choleraesuis(サルモネラ・コレレスイス)中の亜種として下記の6亜種に分類されています。

 S.choleraesuis subsp.holeraesuis (亜種Ⅰ群)
 S.choleraesuis
subsp.salamae(亜種Ⅱ群)
 S.choleraesuis
subsp.arizonae(亜種Ⅲa群)
 S.choleraesuis
subsp.diarizonae(亜種Ⅲb群)
 S.choleraesuis
subsp.houfenae(亜種Ⅳ群)
 S.choleraesuis
subsp.bongori (亜種Ⅴ群)

ヒト、家畜などサルモネラ症から分類されるほとんどのサルモネラは、亜種"choleraesuis"(Ⅰ群)と"arizonae"(Ⅲa群)で、その他の亜種の大半は爬虫類、食品、下水、河川水などに由来します。人に対する病原性がほとんどないものから、急性胃腸炎、菌血症(チフス症)を起こすものまであります。感染は口からの経口感染により発症します。

血 清型による分類は、サルモネラのO抗原67種類とH抗原80種類および一部の菌の持つK抗原の抗原性の組み合わせで分類されます。これら抗原の組み合わせ により、約2,300種類もの血清型が存在します。1999年に全国的に集団発生したイカ菓子によるサルモネラ食中毒事例では、血清型O7群のサルモネ ラ・オラニエンブルグと血清型O4群のサルモネラ・チェスターが検出されています。

サ ルモネラによる食中毒は、サルモネラ菌が10000〜1000000CFU/gという単位以上に増殖した食品で過去に食中毒が発生しています。サルモネ ラ・エンテリティディスでは、数十個の菌量で発生すると報告もあります。食品衛生法では食肉製品についてサルモネラ属菌が陰性であると規定されています。 この菌は、鶏、豚、牛、ペット、スッポンやウナギなどのほとんどの動物が腸管に持っているため、その糞便が川水や土を汚染し、その土壌の農作物まで汚染さ れます。また、サルモネラが付着した卵や肉などを原材料として使用したときに調理済みの食品を汚染したり、時には調理者がサルモネラの保菌者となり、その 人が食品を汚染し、食中毒を引き起こします。

症状は、喫食後半日から2日後までに吐き気やへそ周辺の腹痛から始まり、38度くらいの発熱と水様性の便や軟便が出て下痢を繰り返します。この症状が1〜 4日続き、ほとんどが点滴や抗生物質で治ります。カゼと症状が似ているので注意が必要です。サルモネラは一般的に乾燥には強く、熱には弱いため、十分加熱 することが予防のポイ
ントです。


チフス菌(S.typhi 血清型:O9群

2 類感染症(旧:法定伝染病)の腸チフスを起こすチフス菌(S.typhi)は、戦後の日本の代表的な伝染病でしたが、最近では輸入感染症として増加の傾向 にあります。経口感染したチフス菌は、小腸からリンパ組織に入り血流にのって菌血症を起こします。潜伏期間は2週間前後で、39℃以上の高熱、バラ疹、脾 腫、下痢などの症状がみられ、重症の場合には、腸穿孔、腸管出血、脳炎などが起こります。保菌者として、胆嚢内にチフス菌が保有され、胆石症の原因になる こともあります。原因食品では、カキなどの貝類の生食や豆腐、サラダなどの報告があります。

パラチフスA菌(S.paratyphi A) 、パラチフスB菌(S.paratyphi B)  血清型:O2、O4群

チフスと同様に2類感染症であるパラチフスはパラチフスA菌、パラチフスB菌によって起こります。 パラチフスA菌は人にのみ病原性を示し、パラチフスB菌は人以外にも保菌されています。症状は腸チフスと同様ですが、チフスよりは比較的軽症です。

腸炎菌(S.enteritidis 血清型:O9群   腸炎菌 電子顕微鏡写真

サ ルモネラ・エンテリティディス(和名:腸炎菌)は、食中毒を起こすサルモネラの中でも病原性が強く、近年では汚染された鶏卵による食中毒が増加していま す。原因食品は、生卵、オムレツ、卵焼き、自家製マヨネーズ、親子丼など鶏卵を原料とした十分な加熱工程のない食品や食肉加工品、生肉、生レバーなどがあ ります。

ネズミチフス菌(S.typhimurium  血清型:O4群

血清型O4群に属するサルモネラ・ティフィリウム(和名:ネズミチフス菌)は、本来ネズミが宿主の菌ですが、他の動物種にも感染して菌血症や食中毒を起こします。

アリゾナ菌S.arizonae

ヘビ、トカゲなどの常在菌で、ヒトに食中毒を起こします。

2009年10月21日水曜日

プラセボはなぜ効くのか?サイエンスの最新論文

Science 16 October 2009:
Vol. 326. no. 5951, p. 404
DOI: 10.1126/science.1180142

Brevia

Direct Evidence for Spinal Cord Involvement in Placebo Analgesia

Falk Eippert,1,* Jürgen Finsterbusch,1 Ulrike Bingel,2 Christian Büchel1

Placebo analgesia is a prime example of the impact that psychological factors have on pain perception. We used functional magnetic resonance imaging of the human spinal cord to test the hypothesis that placebo analgesia results in a reduction of nociceptive processing in the spinal cord. In line with behavioral data that show decreased pain responses under placebo, pain-related activity in the spinal cord is strongly reduced under placebo. These results provide direct evidence for spinal inhibition as one mechanism of placebo analgesia and highlight that psychological factors can act on the earliest stages of pain processing in the central nervous system.

プラセボは偽薬であり、純粋薬理学的には全く効果が期待できないにも関わらず、実際の臨床現場ではしばしば劇的な効果が得られることが知られている。ボクがよく使っており、助けられているものの一つは「蒸留水」である。なぜかこの季節には「慢性膵炎の急性増悪」の患者が多い。今も2人入院している。このうちの1人は入院日の腹痛がひどく、一晩に5回もペンタジン(合成麻薬類似痛み止め)を使った。昔のボクならペンタ中毒(これは非常に多いと一般には信じられている)だと判断し、絶対使わなかったものだが、最近考えを変えた。結構集中的に使うことが多くなった。このような患者の中には決してペンタ中毒ではない人がたしかにいることに気が付いたからだ。

さて、初日はそれでも良いが日が経つにつれ、さすがにペンタジンを連用することははばかられる。そんなとき「蒸留水」を筋注すると、嘘みたいに良く効く人がいる。Sさんもそんな1人であり、うめき冷や汗をかきつつ「殺してくれ!」と絞り出すような声で「あの薬を注射してくれ・・・」という時に「蒸留水」を筋注すると10分もしないうちに、けろっと良くなってしまう。プラセボは「臨床薬理学」的には充分効果があるのだ。蒸留水は筋注するとかなり痛む(のだそうだ)。この痛みはペンタ注の痛みによく似ているという。ボクを初めとして医者は皆「精神薬理」的に効いている(その実態は実は良く理解していない)のだと了解していたはずであるが、このサイエンスの論文ではその効果が実は脊髄レベルでブロックされていることを示した(ようである、例によってアブストラクトしか読めない)。これは大脳レベルから下位の神経系レベルへの働きかけであり、下位レベルでMRIで診た場合確かに機能が抑制されていることを示しているのだろう。

ヒトのからだの成り立ちのなんと精妙で面白いことか・・・・。こんな研究よく思いついて「サイエンス」レベルまでまとめ上げたものだ。感心する。