2009年9月19日土曜日

若い男の下腹部痛み

33歳の男子。夜半に高熱と下腹部痛で来院。夜間の当直医がさかんに首をひねっている。「下腹を痛がるようで、背部痛のようでもあり、腰痛かと思えば、鼠径部を痛がるようでもあり、よくわからないのですが、先生お願いします」と入院主治医を引き継いだ。当直医も私も盛んに睾丸を触るので、そのうち患者の神経が睾丸に集中するようなったのか、そのうち「XX玉が痛い、痛い」といいだす。睾丸に圧痛があるようで、ないようで・・・所見なのかどうなのかわからない。炎症反応は正常上限あたりである。下痢をする。痛がらない時期があったりする。

このあたりで「どつぼ」に入り込みそうになる。「睾丸捻転」のことが念頭にあるのだ、もちろん。これは当直医も「見逃したら一大事」と気にしている。しかし典型的でない。炎症性腸炎で少しもおかしくないのだ。一晩、点滴そして抗生剤で様子をみたのだが、翌朝診察すると、圧痛は左睾丸(部分)に限局している。これはまずい。不全捻転が完全捻転になったとしたら・・・それにしても初発から30時間くらいたっているからおかしいなあ。捻転のgolden timeは6時間であるし、完全にタイミングを失しているではないか。この経過ですか???

どちらにしても、これは泌尿器である。急がなくては。というわけで「精巣上体炎(R/O 睾丸捻転)」という病名をつけて、大きな泌尿器病院に紹介した。

それから一ヶ月、今朝退院報告がきたよ。一ヶ月で経っており、封を開けるのが怖かった。手遅れだったのかしらん?
そうではなかった。病名はあたらずとも遠からず。しかし「流行性耳下腺炎(成人初発ムンプス)」という病名にはのけぞった。耳下腺が痛いなんて、腫れているなんて言ってたっけ・・・あの患者?  IgA-anti Mumps抗体が陽性なんだって。確かに後医は名医というのは真理なんだけど、はっきりいって想定外だったな、この病名。いろいろピットフォールはあるんだけど、落ちるべくして落ちた感じ。対応はそう間違っていないんだけど、それでもちょっといけない。


あとで考えれば、この病態の鑑別疾患には当然ムンプス睾丸炎は入ってくる。が、しかし、この患者に限っては余りそんな発想が浮かばなかったなあ。最初から診るのと、夜間から引き継ぐのではかなり違っては来るが、それは理由にはならないな。今後は気を付けよう。

さてこの患者、その後「髄膜炎」まで疑われ、タップまでとられて何もなく、5日後に退院したらしい。無精子症にならないことを祈るよ。

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